兄貴が下宿先に戻って数週間が経った夏休み最終日の朝。

 何気なく自室の窓から顔を出していたら、凪の家から人が出てきた。

 亀みたいに首を急いで引っ込めて、向こうからは気が付かれないように目だけで様子を窺う。後ろ姿しか見えなかったけど、誰かなんてすぐ分かる。おばさんと凪。二人は車に乗り込むとあっという間に出て行った。

 まだ隣にいたのかという安堵感となんでまだ隣にいるのかという疑問が湧き起こる。

 兄貴はとっくに戻ってるのに?

 部屋の扉が突然ノックされて俺は思い切り身体をびくつかせた。家の中には俺と母さんの二人だけ。いろんな事情を考慮してか、母さんが俺の部屋に直接入ってくることは有り難いことにない。呼吸を整えると、何食わぬ顔でドアを開けた。

「何?」

「洗濯物。あんた、昨日バスタオル部屋に持ってっちゃったでしょ。早く出しなさいよ」

「あー、悪い」

 ベッドの隅でシーツの一部と化したバスタオルを持ち上げると、母さんに手渡した。一瞬、母さんの眉間に皺が寄った。

「今夜の塾の宿題と明日からの学校の宿題はちゃんと終わってるんでしょうね?」

「宿題? 多分」

「もう、本当にちゃんとしなさいよ。お兄ちゃんはお母さんが心配することなんて一度もなかったんだから。こういうタオルのだらしなさ、宿題が終わってるかどうか把握していないとかひとつひとつが成績の低下に表れてるのよ」

 淀みなく次から次へと出てくる母さんの小言に、二度と部屋にタオルを持ち込むのはやめようと誓った。心の中で六秒数えて息を吐く。

「何よ、冷めた目をして」

「いや、出来の悪い息子で悪いなって思ってるだけだよ」

「やだ、気味が悪い。槍でも降るんじゃないの」