僕はそれから冬の新人公演に向けて基本の走り込み、発声練習はもちろん、自分が発声しやすい方法を見つけていった。
まだやはり吃音や震えはひどいがあの劇の達成感が、いまだに忘れられない。

「前よりも読み方良くなったな」
と担任やクラスメイトからも褒められ日常会話も少しずつ自然と良くなってきた。

だんだん授業での発表も緊張はするけど苦にはならなくなったし声も自然と大きくなって体調も良くなった。

三年の学校祭までの計四回。僕は淳二と中心になって演劇を作り上げてきた。

あの代役が自分の自信をつける一つになったのもいうまでもない。誘ってくれた淳二、ありがとう。

だが僕らは卒業と同時に別々の道に進む。
僕は吃音に関わる仕事、言語聴覚士になるため国家資格をとった。
まさか絶対受かると言われてた高校の推薦に落ちた僕が国家資格取るだなんてね。
夢にも思わないだろう。


僕が過度な緊張で震えてしまう経験と舌のもつれによるものは吃音だと言われたことで「吃音」という言葉や同じように悩む人がいる、そしてそれを治す人がいる、それを知ることができた。
当時は嫌だったし辛かったけど今となったらありがとう、と言える。

忙しくて演劇の舞台は高校以来立ってはいないけど僕の舞台は別にできた。

あの時挫折した僕はそのまま朽ち果てて終わるだけかと思ったけど。

しかしまだちょっと緊張する場面があってさ。




「……やっぱり緊張するなぁ」
「お前の初キッスの相手だもんな」
「それいうなよ」
実家の家業を継いだ淳二と待ち合わせて行った先は……

その道を貫いて行った多摩部長こと多摩晴臣の主演舞台。
今やスーパースター、そんな彼が僕らを主演舞台の千秋楽に招待してくれたのだ。

テレビや雑誌、映画では見ていたけどもデビューから華々しくて美しかった。

そしてようやく生で再び多摩部長の演技を見られた。本当に素晴らしい……

「また僕も演劇やりたいなぁー仕事忙しいし」
「淳二も続けて欲しかったなぁ」
「だったらやる?」
「よく多摩部長の劇を観た後に言えるよなぁ……」
と笑いながら多摩部長のいる控え室に僕らは向かった。
やはりいまだに彼とのキスの感覚は忘れられない。今や大スターになった彼の唇を知った僕はなぜか優越感があった。