「というわけで雨降って地固まりました」

 笑顔で言った彩菜に、東浜さんがはぁ……と大きなため息をついた。

 場所は学校の屋上、時間はお昼休み。
 僕と彩菜は、昨日の一件を東浜さんに伝えていたのだった。

「ま、惚れた腫れたは当人の問題だもんね。全部わかった上で当人達が納得している以上、これ以上外野が口出す理由もないわ」

「だって、やったね直人くん」

「なんか呼び方まで変わってるんだけど……」

「えへへ、破局の危機を乗り越えたことで一気に進展して、名前で呼び合うことになりました。これだけは東浜さんのおかげかな」

「それはどうも。あとごちそうさまでした。話はそれだけ? じゃ、私はもう行くわね。長くいると胸焼けしちゃいそうだから」

「あの、東浜さん!」
「なに?」

「同じ小学校だったのに覚えてなくてごめんね。だからって訳じゃないけど、これからは仲良くしてくれると嬉しいな」

「私こそ、あの時見捨ててしまって本当にごめんなさい。それでも仲良くしてくれるのなら、私の方こそ嬉しいわ」

「そんなの全然オッケーだし」
「……ありがとう」

 彩菜に笑顔で言われた東浜さんは、少し顔を赤らめながら小さく言うと。
 そのまま踵を返して屋上から去っていき、屋上には僕と彩菜の2人だけが取り残された。

「これでひとまずは一段落かな?」

「もう大変だったよね。でもおかげで直人くんと名前で呼び合うようになれたし、結果はオーライなんだけど。ね、直人くん」

「だね、彩菜」

 昨日散々名前を呼びあったお陰で自然と呼べるようにはなっているけど。
 そうは言ってもやっぱり、女の子と名前で呼び合うというのはどうにも気恥ずかしい。

「直人くん」

 すると僕の名前を呼んだ彩菜が、すごく真面目な顔で見つめてきた。

「な、なに……?」

 まるであの日この場所で、初めて彩菜に好きだと告白された時みたいな真剣な表情を前に、僕は思わず身構えちゃったんだけど。

「……なんでそんなに身構えるの?」
「いや、なんとなく……」

 もちろん何かあるわけではなく。

「まぁいいけど……? えっとね、改めてこれからもお付き合いをよろしくお願いしますって、言いたかったの」

 言いながら彩菜がぺこりと頭を下げて、

「うん、こちらこそよろしくね、彩菜」
 釣られて僕もぺこりと頭を下げ返す。

 屋上でぺこり、ぺこりと頭を下げ合う。
 カッコイイ恋愛には程遠い、なんともしまらない僕たちだった。

 でも。
 ドラマみたいなカッコいい恋じゃないし、周りの人に助けてもらってばかりだけど。

 それでも僕は僕にできる精一杯の恋をして、目の前の君に手を伸ばし続けるんだ。
 いつかこの手が、自信をもって君の心を掴めるように――。



「とにかく可愛い西沢さん!」
 勇気を出してお婆さんを助けたら、学園のアイドルが陰キャなボクの彼女になりました。 ~ドラマみたいなカッコいい恋じゃない。だけど僕は目の前の君に必死に手を伸ばす~

 (完)

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 2人の恋物語を最後まで見届けていただきありがとうございました~(*'ω'*)b

 10万字かけて無事、2人が名前で呼び合うことができました!(笑)
 究極のじれじれ展開ですね!(>_<)

 心ばかりですがアフターエピソードを用意しておりますので、ぜひそちらもお読みいただければ嬉しいです。