『じゃあ小一時間カラオケに行ってくるから、しばらく留守番代わりに2人で話しているとええからの』

 おばあちゃんはそう言うと風のようにカラオケに行ってしまい。
 残された僕と西沢さんは、誰にも邪魔されることなく2人きりで話すことになった。


「じゃあ結局全部わたしの勘違いだったってこと? 東浜さんとキスしてたわけじゃなかったんだ」

「そんな、西沢さんを裏切るようなことを僕がするわけないよ」

「じゃああの時すぐにそう言ってくれたらよかったのに。東浜さんとキスするみたいに仲良く顔をくっつけてるから、わたし勘違いしちゃったんだもん」

 西沢さんが可愛らしくむくれて見せる。

「ええっと、全然仲良くではなかったと思うんだけど……?」

「ええっ、そう?」

「ほんとほんと。あんたじゃ不釣り合いだって言われて、目の前ですごい睨まれてたんだから」

「そうだったんだね」

「でもあの時はどうしても言えなかったんだ……西沢さんの昔の話を聞いたら、きっとそれがあったから冴えない僕を選んだんだって腑に落ちちゃって。本当にごめんなさい。そのせいで西沢さんを傷つけてしまって」

「そりゃあね? 付き合うかどうかを考えた時に、昔のことを全く思い出さなかったって言えば嘘にはなるけど、ゼロじゃないけど。みんな知らんぷりしたおばあちゃんを佐々木くんが助けてくれたことに、昔ハブられた自分を重ねちゃったのもそうなんだけど」

「やっぱり、そうだよね……」
 やはり僕の推測は当たっていた。

「でもそれは佐々木くんが優しいから好きってことなんだもん。佐々木くんとなら付き合っても誰にも何も言われないって、そんな理由じゃ絶対にないんだから」

「あ――」

「そんな理由で付き合う相手を選んだりはわたし絶対しないよ? ちゃんと佐々木くんのことが好きで選んだんだから。優しい佐々木くんがわたしは良かったんだもん」

「西沢さん……」

「だからあまり自分のことを卑下しないでほしいな。佐々木くんはこんなに素敵な人で、わたしはそんな佐々木くんのことがすごく好きなのに。なのに自分のことを卑下されたら、わたし悲しいよ」

 それは屋上で告白された時に言われた言葉とほとんど同じで。
 あの時の顔を真っ赤にした必死な西沢さんの姿が、僕の心にはっきりと思い出されてきて――。

「うん……そうみたいだね。改めて好きって言ってもらえてすごく嬉しい。ありがとね、西沢さん」

 だから西沢さんが僕を本当に好きなんだって、西沢さんが本心から言っているんだって、僕にはこれでもかと伝わってきたのだった。

「どういたしまして――って言うのもそれはそれで変な感じだけど。ふふっ」

「だよね」

「っていうか東浜さんってわたしと同じ小学校だったんだね。そうならそうと言ってくれたらよかったのに」

「なんか、知らない振りして見捨てたのがバツが悪かったって言ってたよ。でももう見て見ぬふりはしないから安心してって、そんなことも言ってた」

「そっか……いい人なんだね、きっと。あんまり話したことないからなんとなくだけど」

「多分ね。いい人すぎてちょっとお節介しちゃったんだと思う」

「でも結果的にわたしと佐々木くんの仲を引き裂こうとしたのは許せないよね。あの時、わたしショックで死にそうだったんだから。お詫びにこれからは全力でわたしたちのこと応援してもらわないとだよ」

「あの人ならちゃんと説明したらそうしてくれると思うよ」

「……なんかあやしー」
 と、なぜか西沢さんがジト目で見つめてきた。