「……それがどうしたんですか? そりゃ知らない仲じゃないんですから、スイカくらい持ちますよ……」

 西沢さんには不釣り合いであっても、僕はそこまで人でなしじゃない。

「前はなんとかかろうじて持っておったが、今日は軽々と運んておったの」

「……多分それは最近毎日筋トレしてたからだと思います」

「それは彩菜のために、釣り合うようにと身体を鍛えておったということかの?」

「はい……少しでも西沢さんに相応しい男になるんだって思って。でも何をしたらいいか全然わからなかったから、とりあえず筋肉をつけてみようと思って毎日筋トレをしてたんです」

 今考えれば子供の発想にしてもひどすぎる。
 速く走ることがカッコいい小学生じゃないんだからさ。

 しかもそれで何ができたかと言えば、スイカをちゃんと運べたことくらいで、ろくに何にもなりはしなかったのだ。

(まぁある意味、底辺の僕にはふさわしい――)

「と言うわけなのじゃが?」

 そこで突然、おばあちゃんが僕ではなくどこか遠くに向かって語りかけた。

 なんとなく気になって声の向けられた先に視線をやると――そこにはなぜか西沢さんがいた。

「はふぇっっ!!?? 西沢さん!? どうしてここにいるの!?」

「どうしてってここはわたしのおばあちゃんの家だもん。『佐藤』はお母さんの旧姓なんだよね~」

「いやあの、それは前に聞いたから知ってるんだけど。なんで今いるのかなって思って……」

 突然の事態に僕は頭がごっちゃごちゃにこんがらがってしまう。

「あの後おばあちゃんに電話したら来てもいいよって言われて、ここで慰めてもらってたの。それでわたしの好物のスイカを買いに行ったはずのおばあちゃんがなぜか佐々木くんを連れてきたから、びっくりして隠れちゃったんだよね」

「えっ!? ってことはもしかして僕が来る前からいたの?」

「そうだよー」

「ってことは、今のやり取りをずっと聞いていたってこと!?」

「もちろんだし。っていうか入り口にわたしの靴があったでしょ?」

「あ、えっと。あの時は色々考えてて注力散漫だったから玄関に靴があったかはちょっと覚えていないかな……。それにスイカを持ってたから足元がよく見えにくかったし……ちなみにもう一回聞くけど最初から聞いてたの?」

「うん、最初から」

「ぜ、全部……?」

「うん、全部聞いてたよ。ああわたし、佐々木くんに愛されてるんだなって思っちゃった♪」

「い……いやーーーーーーーーーーーーっ!」

「こら佐々木くんよ、そんな大声出したらご近所さんが何事かと思うじゃろうて」

「いやだって、全部聞かれてたって、いやーーーーーーーーーーーーーっっ!!」

「なにがいやなのじゃ、のう彩菜」

「だよね。佐々木くんの本音を聞けて、わたし今すごく幸せだもん。こんなにわたし愛されてたんだって思っちゃった」

「やめてぇーーっ!? 恥ずかしくて死んじゃうから!」

「恥ずかしいのはこっちの方だよね。『こんなに好きなのに、きっと一生で一番の出会いなのに』だなんて、わたしもう興奮しすぎていつ出ていこうかと頭が沸騰しそうだったんだから」

「くぁwせdrftgyふじこlp;!!!!!!!!!!!」

 まさかの本人を前に熱く愛を語っていたことを今さらながらに理解した僕は。
 もう居ても立っても居られなくなってしまい。

 散歩中に空飛ぶサメに襲われたってくらいに意味不明な、言葉にならない絶叫を上げたのだった。