「そんな泣きそうな顔をするでない。なぁ佐々木くんや、ここには二人きりじゃ。良かったらもう少しだけその辺の話を聞かせてくれんかの? こんな老い先短い老いぼれでも、若者の話を聞くくらいはできるからの」

「いえ、大丈夫ですから……」

「何が大丈夫なもんか、そんな顔をして帰ったらご家族の方も心配するじゃろうて」

「……今の僕って、そんな酷い顔をしてますか?」

「明日地球が滅亡しそうなくらいには酷い顔をしておるの」

「……そんなにですか?」

 自分ではいつも通りに振る舞っていたつもりだったんだけど。
 残念ながらまったくもっていつも通りには振る舞えてなかったようだ。

「どんな辛いことであっても、誰かに吐き出したら少しは心も軽くなるもんじゃ。自分だけで抱え込んでおらんで、騙されたと思って話してみぃ。それにどうせ聞いておるのは婆さん一人だけじゃしの」

「……」

「のぅ?」

「……くだって……あったら」

「うん」

「僕だってもっと自分に自信があったら……西沢さんと別れたりなんかしませんよ……こんなに好きなのに、きっと一生で一番の出会いなのに……それを手放そうなんて思うわけないじゃないですか……」

「うん、うん」

「僕がもっとカッコよくて頭が良くて、スポーツもなんでもできて、背も高くてみんなの人気者だったら……ひっく、僕だって、別れたりなんかしませんよ……」

 最初こそ促されて話し出した形だったけど。
 一度口に出してしまうともう、僕の口は止まろうとはしなかった。

「こんなに好きなのに……でも僕には何もないから……僕じゃ西沢さんには何をどうしたって釣り合わないから……僕といるより、もっといい人が西沢さんにはいるはずだから……」

(ああそうか、僕は本当は誰かに心の内を聞いて欲しかったんだ――)

「だからあの子と別れたのかい?」

「今日クラスメイトの子に改めて言われて……その子に言われて、やっとわかったんです。その子は西沢さんのことを本気で心配してて、西沢さんの昔のことも知っていて」

「昔というと、あの子の小学校の頃かの?」

「はい、その子は昔神戸に住んでいて、西沢さんと小学校が同じで。その子が、西沢さんが6年の頃にイジメられてたって言ってたんです」

「彩菜が神戸にいた頃の同級生が東京の学校にいるとは、それはまた奇妙な巡り合わせがあったものよのう」

「それでその子は言ったんです。それが原因で、西沢さんは付き合っても誰にも何も言われない人畜無害な僕を選んだんだって。そんな風に言われて僕は何も言い返せませんでした」

「なぜじゃ? まさか言い返す勇気がなかったのかい?」

「違います……西沢さんが僕を選んだ理由が、僕がおばあちゃんを助けたからだってわかったからです。それを昔の自分に重ねてるんだって気づいちゃったから……」

「……そうか」

「なにか一つでも他人に誇れるものがあれば言い返せたのに……でも僕にはなにもないから……だから僕はその時に納得しちゃったんです。僕じゃ西沢さんに不釣り合いなんだって納得しちゃったんです。そう思ったらもう言い返せなくなってました……」

 そんな風に、僕はとても真剣に今の自分の気持ちを伝えたんだけど――、

「でも佐々木くんは今日スイカを持って運んでくれたのぅ」

 なぜかおばあちゃんはそんな言葉を返してをきたのだ。