しばらく屋上で泣いて、もう涙が出なくなるまで泣きつくしてから、僕は学校を出て帰路についた。
通学路を歩きながら西沢さんとの間にあった色んなことを思い出す。
きっかけは西沢さんのおばあちゃんを助けたことだった。
本当にただの偶然で、その時は西沢さんのおばあちゃんだなんて思ってもみなかった。
それからしばらくの間、学校にいる時に西沢さんに見られているような気がして。
そして屋上で突然の告白をされて付き合うことになって、次の日いきなりデートをした。
初めてのデートはとても楽しくて、失敗もしちやって、でも勇気を出して頑張ったりもした。
休み時間や夜にラインでやり取りもしたし、テストに向けて勉強会もやった。
西沢さんにレモンの描き方を教えてもらって、ご両親やちび太と晩ご飯も食べた。
そのどれもこれもが僕にとって初めての経験で、なにより人生最高の時間だった。
電車に乗っている間も僕はずっと、西沢さんと過ごした楽しい日々のことを思い返していた。
今まで生きてきた中で一番楽しかった日々のことを、僕は何度も何度も思い返していた。
(でも西沢さんには僕よりももっと相応しい男の人がいるはずだから……)
「西沢さん……」
小さな声で呟いた僕の声は、けれど誰に聞かれるでもなく電車の走行音にかき消されて消えていく。
地元駅で降りた僕はまっすぐに家に帰ろうとして、
「そう言えば今日も工事があるって回覧板が来てたっけ……」
昨日の夜の至急回覧に、前回の工事で施工ミスがあったとかで緊急の工事をやるとかそんなことが書いてあったのを思い出していた。
仕方なく僕は回り道をする。
するとその途中で、西沢さんのおばあちゃんに偶然出会ってしまったのだ。
おばあちゃんは今日も大きなスイカを一玉持っていた。
というか前よりでかいかなり大玉のスイカだ。
それを両手で抱えながら、よろよろとおぼつかない足取りで帰る姿を見るに見かねた僕は。
涙の痕をしっかりこすって証拠隠滅してから、なんでもない風を装って声をかけた。
「こんばんは。スイカ重そうなので持ちますよ」
「おや、佐々木くんじゃないかい」
「お久しぶりです。お手伝いしますよ」
「……ふむ、そうじゃの。せっかくじゃから佐々木くんに持ってもらおうかの」
僕はスイカを受け取るとおばあちゃんと並んで歩きはじめた。
スイカはずっしりと重いけど、前と比べたら大したことはない。
西沢さんと付き合うようになってから毎日筋トレを欠かさなかった効果がはっきりとわかる。
(まぁ今さらなんだけど……)
僕は当然、西沢さんとの話をされるものだと思って身構えていたんだけど。
おばあちゃんは近所のポメラニアン(という種類の小型犬がいるらしい)が可愛いとか、メジャーリーグで活躍する大谷くんの二刀流の話といったとりとめもない話をするだけだったので、僕は少しだけ楽な気分でいることができた。
そのまま僕はもう3度目の訪問となる「佐藤」と書かれた表札のある門を抜けると、玄関を入ってすぐのところにスイカを置いた。
通学路を歩きながら西沢さんとの間にあった色んなことを思い出す。
きっかけは西沢さんのおばあちゃんを助けたことだった。
本当にただの偶然で、その時は西沢さんのおばあちゃんだなんて思ってもみなかった。
それからしばらくの間、学校にいる時に西沢さんに見られているような気がして。
そして屋上で突然の告白をされて付き合うことになって、次の日いきなりデートをした。
初めてのデートはとても楽しくて、失敗もしちやって、でも勇気を出して頑張ったりもした。
休み時間や夜にラインでやり取りもしたし、テストに向けて勉強会もやった。
西沢さんにレモンの描き方を教えてもらって、ご両親やちび太と晩ご飯も食べた。
そのどれもこれもが僕にとって初めての経験で、なにより人生最高の時間だった。
電車に乗っている間も僕はずっと、西沢さんと過ごした楽しい日々のことを思い返していた。
今まで生きてきた中で一番楽しかった日々のことを、僕は何度も何度も思い返していた。
(でも西沢さんには僕よりももっと相応しい男の人がいるはずだから……)
「西沢さん……」
小さな声で呟いた僕の声は、けれど誰に聞かれるでもなく電車の走行音にかき消されて消えていく。
地元駅で降りた僕はまっすぐに家に帰ろうとして、
「そう言えば今日も工事があるって回覧板が来てたっけ……」
昨日の夜の至急回覧に、前回の工事で施工ミスがあったとかで緊急の工事をやるとかそんなことが書いてあったのを思い出していた。
仕方なく僕は回り道をする。
するとその途中で、西沢さんのおばあちゃんに偶然出会ってしまったのだ。
おばあちゃんは今日も大きなスイカを一玉持っていた。
というか前よりでかいかなり大玉のスイカだ。
それを両手で抱えながら、よろよろとおぼつかない足取りで帰る姿を見るに見かねた僕は。
涙の痕をしっかりこすって証拠隠滅してから、なんでもない風を装って声をかけた。
「こんばんは。スイカ重そうなので持ちますよ」
「おや、佐々木くんじゃないかい」
「お久しぶりです。お手伝いしますよ」
「……ふむ、そうじゃの。せっかくじゃから佐々木くんに持ってもらおうかの」
僕はスイカを受け取るとおばあちゃんと並んで歩きはじめた。
スイカはずっしりと重いけど、前と比べたら大したことはない。
西沢さんと付き合うようになってから毎日筋トレを欠かさなかった効果がはっきりとわかる。
(まぁ今さらなんだけど……)
僕は当然、西沢さんとの話をされるものだと思って身構えていたんだけど。
おばあちゃんは近所のポメラニアン(という種類の小型犬がいるらしい)が可愛いとか、メジャーリーグで活躍する大谷くんの二刀流の話といったとりとめもない話をするだけだったので、僕は少しだけ楽な気分でいることができた。
そのまま僕はもう3度目の訪問となる「佐藤」と書かれた表札のある門を抜けると、玄関を入ってすぐのところにスイカを置いた。