「でもその子はね、ある日を境にイジメられるようになったんだ」
「えっ……」
「6年生になってちょっとしたくらいだったかな。女子のリーダーだった子から睨まれちゃったの」
「その可愛い子がなにかやらかしたってこと?」
無視して帰るのもどうかと思うので、東浜さんの昔話に僕はとりあえず付き合うことにする。
「いいえまさか。その子は可愛いだけじゃなくて性格も良かったから。いつも楽しそうに笑ってて、明るくて、優しくて。およそ人が嫌がるようなことはしない子だったと思うわ」
「じゃあなんでその子はイジメられるようになったのさ?」
「他のクラスのことだったから私もあまり詳しくはなかったんだけど。女子の学年リーダーの子が好きだった男子と、ちょっと仲良くしたのが気に障ったみたいね。だからその可愛い子は、6年生の間は誰とも口を聞いてもらえずに完全にハブられちゃってたの」
「なにそれ……酷いな……」
その子は何もしてないのに、完全な逆恨みじゃん。
「リーダーの女の子はかなり性格がキツかったから、下手に歯向かって自分が巻き添え喰らってタゲられないように、6年全体がその子をハブったの――私もそうだった」
「それで、その女の子はどうなったの?」
「学校も休みがちになって、修学旅行も欠席。中学にあがる時に親の仕事で東京に引っ越していってそれっきりね」
「そうなんだ……じゃあその子にとっては良かったのかな。人間関係をリセットできたんだし」
「きっとそうだったんでしょうね」
「とりあえず東浜さんの同級生に可哀想な女の子がいたのはわかったけど……でもそれが僕にいったい何の関係が──」
「ここまで言ってまだわかんないの? あんたってホントバカなのね。それとも自分可愛さにわからない振りをしてるの? そのイジメられてた可愛い女の子っていうのが西沢彩菜よ」
「え――? 西沢さんが昔イジメられてたって!?」
誰からも好かれて学園のアイドルとまで言われる西沢さんが、小学校の頃にイジメられてた?
でも東浜さん言われて、僕はちょっと前にした西沢さんとの会話を思い出していた。
西沢さんのご両親と一緒にご飯を食べた時の帰り道のことだ。
僕が修学旅行の話を振った時、西沢さんは強引に話を変えてきたのだ。
なんでだろうって思ったけど、そういうことだったんだ――。
「そっ。だから高校に入って同じクラスになった時はビックリしたわ。まぁ向こうはクラスも違うその他大勢の私のことなんか覚えてないみたいだったし。私は私で当時自己保身で見捨てたことがバツが悪くて、昔の同級生だなんて言いはしなかったんだけど」
「それはまぁ、その方がお互いにいいのかもしれないかな?」
西沢さんも辛い記憶をわざわざ蒸し返されたくはないだろう。
「昔の私って今と違って超がつく地味子だったのよね。神戸と東京は何百キロも離れてるから、向こうもまさかここに同級生がいるなんて思ってもないでしょうし、全然気づかれなかったわ」
「まぁ東浜さんと西沢さんの関係についてはわかったよ。でもやっばりそれが僕に何の関係が──」
「つまりこういうことよ。西沢彩菜があんたと付き合ってるのは、あんたとなら付き合っても絶対に誰もイジメてこない、そんな取るに足らない男だからってこと!」
「ぁ──」
投げかけられたその言葉は、氷を削るアイスピックのように僕の心をザクリとえぐっていた。
「みんなでカラオケに行こうって誘った時に、男子は苦手だから遠慮するってあの子が言ったのを聞いて『あっ!』って思ったわ。まだ当時の心の傷は癒えてないんだってね」
「それって入学式の日の――」
クラス分け直後の緊張感漂う教室で、いきなり男女数人で集まって旧知の仲みたいにワイワイ話し始めた東浜さんたちリア充クラスカースト1軍のメンバーたち。
彼らは当然のようにアイドル顔負けに可愛い西沢さんも誘ったんだけど、男子は苦手だからと言われてお断りされた話は、クラスの誰もが――友達がほとんどいない僕でさえも知っていた。
「えっ……」
「6年生になってちょっとしたくらいだったかな。女子のリーダーだった子から睨まれちゃったの」
「その可愛い子がなにかやらかしたってこと?」
無視して帰るのもどうかと思うので、東浜さんの昔話に僕はとりあえず付き合うことにする。
「いいえまさか。その子は可愛いだけじゃなくて性格も良かったから。いつも楽しそうに笑ってて、明るくて、優しくて。およそ人が嫌がるようなことはしない子だったと思うわ」
「じゃあなんでその子はイジメられるようになったのさ?」
「他のクラスのことだったから私もあまり詳しくはなかったんだけど。女子の学年リーダーの子が好きだった男子と、ちょっと仲良くしたのが気に障ったみたいね。だからその可愛い子は、6年生の間は誰とも口を聞いてもらえずに完全にハブられちゃってたの」
「なにそれ……酷いな……」
その子は何もしてないのに、完全な逆恨みじゃん。
「リーダーの女の子はかなり性格がキツかったから、下手に歯向かって自分が巻き添え喰らってタゲられないように、6年全体がその子をハブったの――私もそうだった」
「それで、その女の子はどうなったの?」
「学校も休みがちになって、修学旅行も欠席。中学にあがる時に親の仕事で東京に引っ越していってそれっきりね」
「そうなんだ……じゃあその子にとっては良かったのかな。人間関係をリセットできたんだし」
「きっとそうだったんでしょうね」
「とりあえず東浜さんの同級生に可哀想な女の子がいたのはわかったけど……でもそれが僕にいったい何の関係が──」
「ここまで言ってまだわかんないの? あんたってホントバカなのね。それとも自分可愛さにわからない振りをしてるの? そのイジメられてた可愛い女の子っていうのが西沢彩菜よ」
「え――? 西沢さんが昔イジメられてたって!?」
誰からも好かれて学園のアイドルとまで言われる西沢さんが、小学校の頃にイジメられてた?
でも東浜さん言われて、僕はちょっと前にした西沢さんとの会話を思い出していた。
西沢さんのご両親と一緒にご飯を食べた時の帰り道のことだ。
僕が修学旅行の話を振った時、西沢さんは強引に話を変えてきたのだ。
なんでだろうって思ったけど、そういうことだったんだ――。
「そっ。だから高校に入って同じクラスになった時はビックリしたわ。まぁ向こうはクラスも違うその他大勢の私のことなんか覚えてないみたいだったし。私は私で当時自己保身で見捨てたことがバツが悪くて、昔の同級生だなんて言いはしなかったんだけど」
「それはまぁ、その方がお互いにいいのかもしれないかな?」
西沢さんも辛い記憶をわざわざ蒸し返されたくはないだろう。
「昔の私って今と違って超がつく地味子だったのよね。神戸と東京は何百キロも離れてるから、向こうもまさかここに同級生がいるなんて思ってもないでしょうし、全然気づかれなかったわ」
「まぁ東浜さんと西沢さんの関係についてはわかったよ。でもやっばりそれが僕に何の関係が──」
「つまりこういうことよ。西沢彩菜があんたと付き合ってるのは、あんたとなら付き合っても絶対に誰もイジメてこない、そんな取るに足らない男だからってこと!」
「ぁ──」
投げかけられたその言葉は、氷を削るアイスピックのように僕の心をザクリとえぐっていた。
「みんなでカラオケに行こうって誘った時に、男子は苦手だから遠慮するってあの子が言ったのを聞いて『あっ!』って思ったわ。まだ当時の心の傷は癒えてないんだってね」
「それって入学式の日の――」
クラス分け直後の緊張感漂う教室で、いきなり男女数人で集まって旧知の仲みたいにワイワイ話し始めた東浜さんたちリア充クラスカースト1軍のメンバーたち。
彼らは当然のようにアイドル顔負けに可愛い西沢さんも誘ったんだけど、男子は苦手だからと言われてお断りされた話は、クラスの誰もが――友達がほとんどいない僕でさえも知っていた。