それは朝、学校に着いてすぐのことだった。
最近は朝に西沢さんと話すために早い時間の電車で来ているんだけど。
今日は西沢さんが少し遅れるとのラインがさっき入っていた。
なんでも目覚ましが止まっていて少し寝坊したらしい。
「? 机の中に何か入ってる……?」
取り出してみるとそれは一通の封筒。
飾りっ気のない事務用の茶色い封筒だ。
百均で20枚セットとかでまとめ売りしている縦長のあれね。
まさかラブレター!?
――なわけはないよね。
僕が学園のアイドル西沢さんと付き合っていることは、もう学年を越えて学校中に知れ渡っている。
西沢さんの彼氏を横取りしてみせようなんて考える女の子は、そうはいないだろう。
そもそも僕みたいな平凡な陰キャ男子がラブレターを貰うなんてことは、一生に一度あるかないかのことなのだ。
そしてその「一生に一度」は既に西沢さんからラブレターをもらったことで消費済みなわけで。
付け加えるなら、こんなペラペラな事務封筒でラブレターを送る女の子はいないと思うんだ。
もしいたとしたらドレスコードっていうか、もうちょっと空気を読んだ方がいいんじゃないかな?
これじゃあ成功するものも成功しないよ?
とまぁ以上の理由から、これがラブレターでないことは確定的に明らかだった。
そういうわけだったので。
僕は特に周囲を気にすることもなく、まだ人気の少ない教室で中の手紙を読み始めたんだけど――。
「――っ!」
そこに書かれていた短い文面を見た瞬間、僕は手紙を思いっきり机の奥へと突っ込んでしまった。
そして書かれていた内容を思い出し、なんとも嫌な気分にさせられてしまう。
手紙にはこう書かれていた。
『西沢彩菜と佐々木直人は釣りあってない。早く別れろ。何も知らないくせに。』
もちろん、周りからそんな風に見られているのは自分でもよくわかっていたんだ。
でも改めて現実を突きつけられるとやっぱり心が辛くなる。
そこへ西沢さんが息を切らせて駆け込んできた。
走って来たみたい。
「ごめんね佐々木くん、ちょっと寝坊しちゃって……って、どうしたの佐々木くん? ちょっと怖い顔してるよ?」
会って早々、西沢さんが心配そうに声をかけてくる。
「ううん、なんでもないよ? 気のせいじゃない?」
「そう?」
「ほんとほんと」
僕は西沢さんに笑顔で答える。
この手紙を西沢さんに見せても、西沢さんまで嫌な気持ちになるだけだよね。
だったら見せない方がいい。
こんな気持ちになるのは僕だけで十分だから。
それに西沢さんが僕を好きだって言ってくれるなら、僕は周りの誹謗中傷なんて我慢できるから。
西沢さんさえ僕を好きでいてくれるのなら、僕はなんだって耐えられるんだ。
だけど、最後の一文はなんだったんだろうか。
『何も知らないくせに』
たしかに僕は西沢さんのことをまだあまり多くは知らない。
でもこの一文はそういうんことじゃなくて、何か重大なことを僕に突き付けている気がしたんだ。
でもそれについて西沢さんに尋ねると、必然的にこの手紙のことも話さないといけなくなってしまう。
それはしたくない。
だから僕はこのことを、僕の心の奥だけにとどめておこうと思ったんだ。
僕はヨシッ!と気持ちを入れて、いつも西沢さんといる時に感じる楽しい気持ちを思い出す。
そしてその楽しい気持ちで手紙のことをエイヤ!と上書きする。
(こんなささくれ立った気持ちで西沢さんと話すなんて嫌だもんね)
僕はいつもと同じように、西沢さんとの朝の楽しいおしゃべりを始めた。
最近は朝に西沢さんと話すために早い時間の電車で来ているんだけど。
今日は西沢さんが少し遅れるとのラインがさっき入っていた。
なんでも目覚ましが止まっていて少し寝坊したらしい。
「? 机の中に何か入ってる……?」
取り出してみるとそれは一通の封筒。
飾りっ気のない事務用の茶色い封筒だ。
百均で20枚セットとかでまとめ売りしている縦長のあれね。
まさかラブレター!?
――なわけはないよね。
僕が学園のアイドル西沢さんと付き合っていることは、もう学年を越えて学校中に知れ渡っている。
西沢さんの彼氏を横取りしてみせようなんて考える女の子は、そうはいないだろう。
そもそも僕みたいな平凡な陰キャ男子がラブレターを貰うなんてことは、一生に一度あるかないかのことなのだ。
そしてその「一生に一度」は既に西沢さんからラブレターをもらったことで消費済みなわけで。
付け加えるなら、こんなペラペラな事務封筒でラブレターを送る女の子はいないと思うんだ。
もしいたとしたらドレスコードっていうか、もうちょっと空気を読んだ方がいいんじゃないかな?
これじゃあ成功するものも成功しないよ?
とまぁ以上の理由から、これがラブレターでないことは確定的に明らかだった。
そういうわけだったので。
僕は特に周囲を気にすることもなく、まだ人気の少ない教室で中の手紙を読み始めたんだけど――。
「――っ!」
そこに書かれていた短い文面を見た瞬間、僕は手紙を思いっきり机の奥へと突っ込んでしまった。
そして書かれていた内容を思い出し、なんとも嫌な気分にさせられてしまう。
手紙にはこう書かれていた。
『西沢彩菜と佐々木直人は釣りあってない。早く別れろ。何も知らないくせに。』
もちろん、周りからそんな風に見られているのは自分でもよくわかっていたんだ。
でも改めて現実を突きつけられるとやっぱり心が辛くなる。
そこへ西沢さんが息を切らせて駆け込んできた。
走って来たみたい。
「ごめんね佐々木くん、ちょっと寝坊しちゃって……って、どうしたの佐々木くん? ちょっと怖い顔してるよ?」
会って早々、西沢さんが心配そうに声をかけてくる。
「ううん、なんでもないよ? 気のせいじゃない?」
「そう?」
「ほんとほんと」
僕は西沢さんに笑顔で答える。
この手紙を西沢さんに見せても、西沢さんまで嫌な気持ちになるだけだよね。
だったら見せない方がいい。
こんな気持ちになるのは僕だけで十分だから。
それに西沢さんが僕を好きだって言ってくれるなら、僕は周りの誹謗中傷なんて我慢できるから。
西沢さんさえ僕を好きでいてくれるのなら、僕はなんだって耐えられるんだ。
だけど、最後の一文はなんだったんだろうか。
『何も知らないくせに』
たしかに僕は西沢さんのことをまだあまり多くは知らない。
でもこの一文はそういうんことじゃなくて、何か重大なことを僕に突き付けている気がしたんだ。
でもそれについて西沢さんに尋ねると、必然的にこの手紙のことも話さないといけなくなってしまう。
それはしたくない。
だから僕はこのことを、僕の心の奥だけにとどめておこうと思ったんだ。
僕はヨシッ!と気持ちを入れて、いつも西沢さんといる時に感じる楽しい気持ちを思い出す。
そしてその楽しい気持ちで手紙のことをエイヤ!と上書きする。
(こんなささくれ立った気持ちで西沢さんと話すなんて嫌だもんね)
僕はいつもと同じように、西沢さんとの朝の楽しいおしゃべりを始めた。