「えへへ、ありがとう。初めてデートした時に『大人っぽくて可愛い』って言ってくれたでしょ? だから今日もちょっと背伸びしておめかししてきたんだ~」

「うん! ほんと似合ってるよ」

「そういう佐々木くんも似合ってるよ~。制服の時も素敵だけど、今日はもっとカッコいいかも?」

「あはは、ありがとう西沢さん──って言っても選んでくれたのは西沢さんなんだけどね。ほんとありがとう。正直ファッションのことはさっぱりだったから西沢さんに選んでもらえてすごく助かってるんだ」

「いえいえ、どういたしまして。それに佐々木くんをわたし色に染め上げちゃえるのは、結構悪くないかなぁって思うし?」

「それで西沢さんに気に入ってもらえるなら僕としても万々歳かな」

「ってことはわたしたちはWin-Winの関係だよね」
「そういうことになるね」

 というようなやりとりをしつつ西沢さんと合流した僕は。
 少しだけショッピングモールを散策した後、カラオケに向かった。

 ちなみになんだけど、僕は誰かとカラオケに行ったことは一度もない。
 家族とすらない。

 でももし万が一誰かにカラオケに誘われた時に恥をかかないようにと、一人でカラオケに行って機器の操作方法をチェックしたことがあるので、ちゃんと使い方は知っていた。

 そして歌うのは普通の流行り歌だ。
 間違ってもアニソンを歌ったりはしない。
 彼女とカラオケに行っていきなりアニソンを歌い出すのがダメなことくらいは、僕にだってわかる。

 しばらく二人で交互に歌ったりデュエットをしたりして、初めての1人じゃないカラオケを楽しんでいると、

「ねぇねぇ佐々木くん?」
 西沢さんがマイクを持った僕の手をちょんちょんとつついてきた。

「どうしたの西沢さん」

「佐々木くんってアニメが好きなんだよね? アニメの歌は歌わないの?」
「え、いや、その……うん」

 まさかそう来るとは思ってなかったなぁ。
 あ、もしかして冗談だったり?
 ちょっとした会話のネタ振り的な?
 西沢さんは僕が話しやすい会話を振るのが上手だもんね。

「わたし、そういうのも聞いてみたいな~」
「そ、そう……?」

「だって佐々木くんが好きなことを、わたしも知りたいんだもん」

 最初は冗談で言ってるのかなとも思ったんだけど、西沢さんの口調は真剣そのものだ。
 ということは本気でアニソンを聞きたいと思っているんだろう。

「じゃあ、次に歌ってみるね」
「えへへ、楽しみ~♪」

 というわけで。
 僕はこんなこともあろうかと一応用意していた、あまりアニメアニメしていない歌を歌ったんだけど――。

 西沢さんの反応はイマイチだった。

「……これって本当にアニメの歌なの? なんだか普通の歌だよね? アニメの歌ってロボットの名前とか必殺技の名前が歌詞にあるもんだとばかり思ってたんだけど……」

「昔はそういうのが主流だったみたいだけど、最近は割と普通の曲が多いんじゃないかな? 有名歌手とタイアップとかもよくしてるし」

「へぇ、そうなんだね。勉強になります……! ちなみになんだけど、私もちょっとだけアニメの歌を練習してきました」

「あ、そうなんだ」
「そうしたら佐々木くんが喜ぶかなって思ったの」

「西沢さんのその気持ちがとてもとても、とっても嬉しいよ……。じゃあせっかくだから聞かせてもらってもいい?」
「もちろんだし。ちゃんと練習してきたから楽しみにしててね」

 西沢さんは練習してきたというアニソンを予約すると、マイクを持って立ち上がった――!!