「今日はステーキよ」
西沢さんのお母さんにそう言われて、
「えっとあの、すみません、僕のためにステーキなんかを用意してもらって」
僕はつい恐縮してしまった。
「ふふっ、遠慮しないでいいのよ? ちょうどふるさと納税の返礼品でお肉が届いたところだったんだから」
「そうそう、結構量が多かったから食べきれるかなって心配だったんだよな。だから今日、佐々木くんが来てくれて助かったよ」
「だって。佐々木くん、いっぱい食べてね。はい、ナイフとフォーク」
「ありがとう西沢さん。それでは遠慮なくいただきます――――すごく柔らかくて美味しいです!」
「佐々木くんのお口に合って良かったわ」
「ははっ、母さん。ステーキを嫌いな男の子はいないさ」
「修さんも昔から大好きだったものね。覚えてる? 初めてのデートで特大ステーキをぺろりと平らげたの」
「もちろんさ。懐かしいな、食べっぷりがすごいって褒めてくれたよな」
「今だから言うんだけど、実はあの時、口ではそう言ったんだけどね。心の中ではこの人と結婚したら食費が大変なことになりそうだから、いい人そうだけどやめておこうかしらって思ってたのよね」
「な、なんだって!? 男らしさをアピールしたつもりが、まさかそんな風に思われていたなんて……」
「今となってはいい思い出よ。修さんのそういう時々抜けてるところも素敵だと思うわよ?」
「ちょっとお父さん、お母さん。せっかく佐々木くんが来てるのに、勝手に2人の恥ずかしい昔話で盛り上がらないでよね。わたしが恥ずかしいんだからね、もう」
「あらあら、彩菜に怒られちゃったわ」
「彩菜も年頃だもんなぁ」
その後は、西沢さんのお父さんとお母さんから色んなことを聞かれた。
「佐々木くんと彩菜は同じクラスになったことで付き合い始めたのかい?」
「ううん、最初は普通のクラスメイトだったんだけど、佐々木くんがおばあちゃんを助けてくれたことがあって、それがきっかけ」
ステーキを口に入れていた僕が飲み込んでから答えるよりも先に、西沢さんが説明をしてくれた。
「おや、佐々木くんはお義母さんと知り合いだったのかい?」
「いえ、住んでるところがたまたま近くでして。その日はたまたま水道工事があったからいつもの道が通れなくて、違うルートで家に帰ったんです。そうしたら転倒しているの偶然見かけたんです」
「買い物帰りにおばあちゃんがこけちゃったんだけど、その時にみんな見て見ぬふりをしてたのに、佐々木くんだけがすぐに大丈夫ですかって助けに来てくれたんだって。しかもおばあちゃんの家までスイカを運んでくれたんだよ、丸々1個!」
「へぇ、それはすごいな。人助けなんてなかなかできることじゃない。佐々木くんは偉いね」
「いえ、あの、実のところそこまでのものでは――」
「でしょ!? 佐々木くんはすごいんだもん! でね、それからちょっとずつ挨拶とかするようになって、付き合うことになったの」
僕の言葉に被せるように西沢さんが鼻息荒く言う。
ご両親は西沢さんの説明に笑顔でうんうん頷いているし、過大評価されているようで小心者な僕としてはやや心苦しかった。
何度も言うけどあの時の行動はおばあちゃんを助けないとって気持ちより、見捨てることで自分が嫌な思いをしたくないっていう、とても後ろ向きなものだったからだ。
(でももう状況的にとても言い出せない雰囲気……うん、これからは少しでも評価に追いつけるように頑張ろう)
「そう言えば毎日勉強会をしたって言ってたわよね? それも佐々木くんとだったのよね?」
「そーだよ。おかげで20位以内に入れたの。佐々木んも50位以内だったし。すごく集中して勉強できたんだから」
「そうかそうか、2人とも頑張ったんだな」
「いいわねぇ、彼氏と一緒に勉強会だなんて。青春だわ」
「憧れるよな。母さんとは大学で知り合ったんだけど、学部が違ったから一緒に勉強はしなかったもんなぁ」
「あら、私は高校の時に付き合ってた男の子と一緒に図書室で勉強会してたわよ?」
「な――っ」
「ふふっ、妬いちゃった?」
「まぁ……妬かないと言えば嘘になるかな」
「でも今は修さん、あなたにぞっこんだから安心してくださいな」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
「だーかーら! お父さんとお母さんだけで、勝手に昔の話して盛り上がらないでってばぁ!」
「あはは――」
…………
……
西沢さんのお母さんにそう言われて、
「えっとあの、すみません、僕のためにステーキなんかを用意してもらって」
僕はつい恐縮してしまった。
「ふふっ、遠慮しないでいいのよ? ちょうどふるさと納税の返礼品でお肉が届いたところだったんだから」
「そうそう、結構量が多かったから食べきれるかなって心配だったんだよな。だから今日、佐々木くんが来てくれて助かったよ」
「だって。佐々木くん、いっぱい食べてね。はい、ナイフとフォーク」
「ありがとう西沢さん。それでは遠慮なくいただきます――――すごく柔らかくて美味しいです!」
「佐々木くんのお口に合って良かったわ」
「ははっ、母さん。ステーキを嫌いな男の子はいないさ」
「修さんも昔から大好きだったものね。覚えてる? 初めてのデートで特大ステーキをぺろりと平らげたの」
「もちろんさ。懐かしいな、食べっぷりがすごいって褒めてくれたよな」
「今だから言うんだけど、実はあの時、口ではそう言ったんだけどね。心の中ではこの人と結婚したら食費が大変なことになりそうだから、いい人そうだけどやめておこうかしらって思ってたのよね」
「な、なんだって!? 男らしさをアピールしたつもりが、まさかそんな風に思われていたなんて……」
「今となってはいい思い出よ。修さんのそういう時々抜けてるところも素敵だと思うわよ?」
「ちょっとお父さん、お母さん。せっかく佐々木くんが来てるのに、勝手に2人の恥ずかしい昔話で盛り上がらないでよね。わたしが恥ずかしいんだからね、もう」
「あらあら、彩菜に怒られちゃったわ」
「彩菜も年頃だもんなぁ」
その後は、西沢さんのお父さんとお母さんから色んなことを聞かれた。
「佐々木くんと彩菜は同じクラスになったことで付き合い始めたのかい?」
「ううん、最初は普通のクラスメイトだったんだけど、佐々木くんがおばあちゃんを助けてくれたことがあって、それがきっかけ」
ステーキを口に入れていた僕が飲み込んでから答えるよりも先に、西沢さんが説明をしてくれた。
「おや、佐々木くんはお義母さんと知り合いだったのかい?」
「いえ、住んでるところがたまたま近くでして。その日はたまたま水道工事があったからいつもの道が通れなくて、違うルートで家に帰ったんです。そうしたら転倒しているの偶然見かけたんです」
「買い物帰りにおばあちゃんがこけちゃったんだけど、その時にみんな見て見ぬふりをしてたのに、佐々木くんだけがすぐに大丈夫ですかって助けに来てくれたんだって。しかもおばあちゃんの家までスイカを運んでくれたんだよ、丸々1個!」
「へぇ、それはすごいな。人助けなんてなかなかできることじゃない。佐々木くんは偉いね」
「いえ、あの、実のところそこまでのものでは――」
「でしょ!? 佐々木くんはすごいんだもん! でね、それからちょっとずつ挨拶とかするようになって、付き合うことになったの」
僕の言葉に被せるように西沢さんが鼻息荒く言う。
ご両親は西沢さんの説明に笑顔でうんうん頷いているし、過大評価されているようで小心者な僕としてはやや心苦しかった。
何度も言うけどあの時の行動はおばあちゃんを助けないとって気持ちより、見捨てることで自分が嫌な思いをしたくないっていう、とても後ろ向きなものだったからだ。
(でももう状況的にとても言い出せない雰囲気……うん、これからは少しでも評価に追いつけるように頑張ろう)
「そう言えば毎日勉強会をしたって言ってたわよね? それも佐々木くんとだったのよね?」
「そーだよ。おかげで20位以内に入れたの。佐々木んも50位以内だったし。すごく集中して勉強できたんだから」
「そうかそうか、2人とも頑張ったんだな」
「いいわねぇ、彼氏と一緒に勉強会だなんて。青春だわ」
「憧れるよな。母さんとは大学で知り合ったんだけど、学部が違ったから一緒に勉強はしなかったもんなぁ」
「あら、私は高校の時に付き合ってた男の子と一緒に図書室で勉強会してたわよ?」
「な――っ」
「ふふっ、妬いちゃった?」
「まぁ……妬かないと言えば嘘になるかな」
「でも今は修さん、あなたにぞっこんだから安心してくださいな」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
「だーかーら! お父さんとお母さんだけで、勝手に昔の話して盛り上がらないでってばぁ!」
「あはは――」
…………
……