『それ』は突然の出来事だった。
「おや、彩菜じゃないか。今帰りかい?」
テストも終わってすっかりいつも通りの日常に戻った僕と西沢さんが、学校帰りに駅前まで来たところでそんな風に声をかけられたのは。
見るとそこには、スーツ姿がカッコよく決まったナイスミドルな中年男性がいて――、
「あ、お父さん。そうだよ、学校終わって帰ってきたところ。でもお父さん、今日は遅いって言ってなかったっけ?」
西沢さんが明るい声でそんなことを言ったのだ。
(えっ!? お父さん!? 西沢さんの!?)
突然の事態に僕は身体を強張らせた。
だってまさか西沢さんの――彼女のお父さんと出会っちゃうなんて!
「その予定だったんだけどね。とんとん拍子に仕事が進んで逆にいつもより早く帰れたんだ」
「あ、そうだったんだ。良かったね!」
「ところで彩菜、そちらの男の子はお友達かい?」
西沢さんのお父さんが僕に視線を向けてきた。
「そうだよ、同じクラスの佐々木くん」
「は、初めまして、佐々木と申します。西沢さんとはとても仲良くさせて頂いております!」
西沢さんのお父さんとのいきなりの対面に死にそうなくらい緊張しながら。
それでもなんとか最後まで挨拶をする。
少し堅苦しいのはご愛敬だ。
ちょっと前までの僕と違って、今の僕はあたふたしたり緊張していても、こうやって伝えたいことを言葉にすることがちゃんとできるようになっていた。
陽キャの人たちにとってはこれくらいは当たり前なんだろうけれど。
人とのコミュニケーションがあまり得意ではない僕にとっては、これだけでも大きな進歩なのだ。
「初めまして佐々木くん、彩菜の父の修です。ところで仲が良さそうだけど、2人は付き合ってるのかい?」
「えっ!? いえあの、その――」
どうにか自己紹介した途端、返す刀でノータイムで核心的問題に踏み込まれた僕が、完全に頭を真っ白にして言いよどんでいる間に、
「そうだよー」
西沢さんがなんでもないことのようにさらっと答えてしまった。
「やっぱりなぁ。最近の彩菜は家でもよくスマホを見てそわそわしていたから、男の子と一緒なのを見てピーンと来たんだ」
「ちょ、ちょっとお父さん、別にそわそわなんかしてないでしょ?」
「なんだい、気付いてなかったのかい? よくにやにやしながらスマホを眺めているじゃないか。最近お弁当を作ってあげたり、放課後に一緒に勉強していたのも佐々木くんなんだろ?」
「うっ、なんで知ってるの……?」
「逆に聞くけど、一緒に生活してるのに彩菜はなんで知らないと思ったんだい?」
「ううっ……っていうかにやにやはしてないでしょ!」
「ははっ、母さんがいつも言ってるぞ。最近の彩菜はいつも嬉しそうに笑ってるって。そういうわけで佐々木くん、せっかくだからうちで晩ご飯を食べていきなさい。明日は土曜日で高校も休みだろう?」
「えっと、いえその、急にお邪魔するのは悪いような……その、西沢さんのお母さんも、いきなり1人分増えたら食事の用意も大変でしょうし」
「はははっ、それなら母さんにはもう連絡済みだから大丈夫さ。彩菜が例の彼氏っぽい男の子と歩いてるって連絡したら、是が非でも連れてくるようにって返ってきてね」
そう言うと西沢さんのお父さんは、お母さんとやりとりしたラインを見せてくれた。
『絶対に連れてきて!』という文面に『確保!』という絵文字スタンプを加えているあたりに、西沢さんのお母さんの強い気持ちが見て取れる気がした。
「じゃあえっと、今日は晩ご飯はいらないって家に連絡してみますね」
そういうわけで。
なんと僕は。
今から、西沢さんの家に晩ご飯に招かれることになってしまったのだ――!
「おや、彩菜じゃないか。今帰りかい?」
テストも終わってすっかりいつも通りの日常に戻った僕と西沢さんが、学校帰りに駅前まで来たところでそんな風に声をかけられたのは。
見るとそこには、スーツ姿がカッコよく決まったナイスミドルな中年男性がいて――、
「あ、お父さん。そうだよ、学校終わって帰ってきたところ。でもお父さん、今日は遅いって言ってなかったっけ?」
西沢さんが明るい声でそんなことを言ったのだ。
(えっ!? お父さん!? 西沢さんの!?)
突然の事態に僕は身体を強張らせた。
だってまさか西沢さんの――彼女のお父さんと出会っちゃうなんて!
「その予定だったんだけどね。とんとん拍子に仕事が進んで逆にいつもより早く帰れたんだ」
「あ、そうだったんだ。良かったね!」
「ところで彩菜、そちらの男の子はお友達かい?」
西沢さんのお父さんが僕に視線を向けてきた。
「そうだよ、同じクラスの佐々木くん」
「は、初めまして、佐々木と申します。西沢さんとはとても仲良くさせて頂いております!」
西沢さんのお父さんとのいきなりの対面に死にそうなくらい緊張しながら。
それでもなんとか最後まで挨拶をする。
少し堅苦しいのはご愛敬だ。
ちょっと前までの僕と違って、今の僕はあたふたしたり緊張していても、こうやって伝えたいことを言葉にすることがちゃんとできるようになっていた。
陽キャの人たちにとってはこれくらいは当たり前なんだろうけれど。
人とのコミュニケーションがあまり得意ではない僕にとっては、これだけでも大きな進歩なのだ。
「初めまして佐々木くん、彩菜の父の修です。ところで仲が良さそうだけど、2人は付き合ってるのかい?」
「えっ!? いえあの、その――」
どうにか自己紹介した途端、返す刀でノータイムで核心的問題に踏み込まれた僕が、完全に頭を真っ白にして言いよどんでいる間に、
「そうだよー」
西沢さんがなんでもないことのようにさらっと答えてしまった。
「やっぱりなぁ。最近の彩菜は家でもよくスマホを見てそわそわしていたから、男の子と一緒なのを見てピーンと来たんだ」
「ちょ、ちょっとお父さん、別にそわそわなんかしてないでしょ?」
「なんだい、気付いてなかったのかい? よくにやにやしながらスマホを眺めているじゃないか。最近お弁当を作ってあげたり、放課後に一緒に勉強していたのも佐々木くんなんだろ?」
「うっ、なんで知ってるの……?」
「逆に聞くけど、一緒に生活してるのに彩菜はなんで知らないと思ったんだい?」
「ううっ……っていうかにやにやはしてないでしょ!」
「ははっ、母さんがいつも言ってるぞ。最近の彩菜はいつも嬉しそうに笑ってるって。そういうわけで佐々木くん、せっかくだからうちで晩ご飯を食べていきなさい。明日は土曜日で高校も休みだろう?」
「えっと、いえその、急にお邪魔するのは悪いような……その、西沢さんのお母さんも、いきなり1人分増えたら食事の用意も大変でしょうし」
「はははっ、それなら母さんにはもう連絡済みだから大丈夫さ。彩菜が例の彼氏っぽい男の子と歩いてるって連絡したら、是が非でも連れてくるようにって返ってきてね」
そう言うと西沢さんのお父さんは、お母さんとやりとりしたラインを見せてくれた。
『絶対に連れてきて!』という文面に『確保!』という絵文字スタンプを加えているあたりに、西沢さんのお母さんの強い気持ちが見て取れる気がした。
「じゃあえっと、今日は晩ご飯はいらないって家に連絡してみますね」
そういうわけで。
なんと僕は。
今から、西沢さんの家に晩ご飯に招かれることになってしまったのだ――!