「そうだ、ねぇねぇこのラノベを借りてもいいかな?」

「もちろんいいよ」

「やった♪ 佐々木くんが好きな本をずっと知りたかったんだ。これで佐々木くんの好きなことのお話もできるようになるよね」

「……なんで」

「わわっ、ちょっと佐々木くん、なんで泣きそうになってるの!?」

「なんで西沢さんはそんないい子なの……西沢さんがいい人過ぎて、僕は、僕は……」

「ちょ、ちょっと佐々木くん、こんなところを佐々木くんのお母さんに見られたら、わたしいじめっ子が家まで押しかけて来たかと誤解されちゃうかもだからね!?」

「だってこんな素敵な女の子が僕を好きになってくれて、彼女になってくれただなんて……」

 そう思っただけで僕の胸は嬉しさとか感謝とか申し訳なさとか、そういったものがまぜこぜになった激情でいっぱいになってしまったのだ。

 そこへ――、

「直人、お茶とお茶請けを持ってきたわよ。手が塞がってるから開けてちょうだい?」

「ってなんで母さんはこのタイミングで来るかな」
 目にたまった涙を拭いてから僕はドアを開ける。

「なに直人、あんた泣いてたの? 女の子を部屋に呼んでおいて、一人で泣いてる意味がお母さんさっぱりわからないんだけど……」

 僕の顔を見た母さんが困惑したように言う。

「別に何でもないから」

「もうごめんなさいね西沢さん。この子ったらきっと初めて女の子が家に来たから嬉しさあまって泣いちゃったのよ。もともと奥手で友達も多い方じゃないから、これからも直人と仲良くしてくれると嬉しいわ」

「はい、佐々木くんにはすごく仲良くしてもらってるので、こちらこそよろしくお願いしたいくらいですから」

「あらそう? もしかしてあなたたち……って、いやまさかね、さすがにそれはないわよね。ほら直人いつまで泣いてるの。お茶菓子にあんたの好きなフロインドリーブのパイ菓子を用意してるから、とっとと食べて元気出しなさい」

「だからそういうのじゃないんだってば……もう行ってよね」

「はいはい、楽しい時間をお邪魔しちゃってごめんなさいね。西沢さんもどうぞごゆっくり」

「ありがとうございます。それとあそこのパイ菓子はふわふわでサクサクで、わたしも大好物なんです」

「それは良かったわ、まだ残ってるから良かったら言ってちょうだいね。お代わりを持ってくるから」

 母さんはそう言うと紅茶とパイ菓子を置いて部屋を出ていった。

「優しいお母さんだね」
「まぁうん、そうだね」

「あのお母さんとなら、わたしも上手くやっていけそうな気がする」
「えっとごめん、急になんの話?」

 うちの母さんと西沢さんに接点なんかあったっけ?

「べつにー、今後の話だしー」
「??」
 なんだかよくわからなかったけど、とても機嫌が良さそうな西沢さんだった。

 その後は僕がラノベの話をしたり、逆に西沢さんの好きなことを聞いたりした。
 西沢さんはふと見かけた猫の写真を撮るのが趣味らしい。

 スマホを見せてもらうと、この前見せてもらった愛猫のちび太以外にたくさんの、色んな猫の写真が保存してあった。

「見て見て、これが私の自慢のベストショットの『伸び猫』。すごくない?」

 そう言って見せられたのは、やけに胴体が長い猫(と思しき小動物)の画像だ。

「ごめん、これって本当に猫なの? それにしてはちょっと胴が長すぎない? 猫ってこういう動物じゃないよね? もっとこうコンパクトで。なんだか騙し絵を見てるみたいで、頭がクラクラしてくるんだけど……」

「でしょ!? わたしも見た瞬間『なにこれ!?』って思って、撮ってからも何度も見返したんだもん」

「たしかにこれは自慢するだけのことはあると思う」

「良かったら画像いる?」
「あ、うん。欲しいかも」
「じゃあ送るね。ついでに他のお気に入り猫画像も」

「へぇ。こっちの猫はしっぽの先が2回直角に曲がってるんだ。猫っていっても色んな猫がいるんだなぁ」


 とまぁこんな感じで
 放課後おうちデートは、西沢さんが帰らないといけない時間ギリギリまで楽しく続いたのだった。

 もちろん帰りは駅まで見送りに行った。
 話が弾んで気が付いたらすっかり暗くなっちゃってたから、彼氏としてはこれくらいは当然だよね。