なんとなく上手くいった初デートによって、僕と西沢さんはさらに仲良くなった。

 より正確に言うと、あの時西沢さんのために行動できたことが、少しだけ僕の中にある劣等感という名の重しを軽くしてくれたのだ。

 もちろん完全にゼロになった訳じゃ決してないけれど。
 それでも僕は、西沢さんとの心の距離がグッと近づいたような気がしていた。

 そんな西沢さんとは休み時間やお昼休みに一緒にいることが多かった。

 話し上手な西沢さんが上手く会話を振ってくれたりリードしてくれるから、会話に困ることも最初の頃と比べてあまりない。

 でもいつも一緒というわけでもなかった。

 ぼっちな僕と違って西沢さんは仲のいい女の子グループに属している。
 その子たちと一緒におしゃべりしたりご飯を食べたりする時間も必要だからだ。

 残念だけどそういう時は、僕は今まで通りに静かに過ごしていた。

 一人でスマホを弄っていたり、隣の席の柴田くんと話をしたり、時々目が合った西沢さんに笑顔で手を振ってもらったり。

 今も、女の子との付き合いかたに関する、恋愛初心者の高校生男子向けの解説ブログをスマホでダラっと眺めていると、西沢さんからラインが入ってきた。


彩菜
『ねえねえ』
『みんなで一緒に話さない?』
『みんな佐々木くんと話したがってるんだ』


『ううん』
『僕はいいよ』


彩菜
『心配しなくても』
『みんないい子だよ?』
『わたしが話してるの聞いたら』
『佐々木くんに興味あるみたいで』


『ごめん』
『でも女子と話すのはまだちょっと苦手で』
『だから遠慮したいなって……』


彩菜
『そっか、残念』


『ごめんね』


彩菜
『ぜんぜんいいし』
『気にしないで』
『わたしも男子と話すのは苦手だから』
『一緒だね』
『気持ちわかるもん』
『煮た物どうし!』
『似た者』


『何その誤変換(笑)』


彩菜
『多分昨日』
『煮物料理について調べてたから』


『そういうことね』


彩菜
『それに佐々木くんの』
『チャラくないところ大好きだし』
『誠実ってかんじ♥️』


『僕も西沢さんの優しいところ好きだよ』


彩菜
『えへへ、嬉しいです』
『あ』


『どうしたの?』


彩菜
『ここ記念スクショしとこ』
『何度でも見れるように』


『ちょ』
『それはやめて!』
『はずかしいから!』
『おねがい!』


彩菜
『大丈夫だよ』
『誰にも見せないし』


『西沢さんに見られるだけで』
『充分恥ずかしいんだってば!』


彩菜
『佐々木くんはあんまり』
『好きとか言ってくれないから?』


『ごめん』
『でも』
『直接言うのは結構恥ずかしくて』


彩菜
『ぜんぜん謝る必要ないし』
『でもこれでいつでも』
『佐々木くんの好きを見れます』
『スクショ完了』

『完了しないで!?』


彩菜
『あー!』
『佐々木くん顔赤いよ?』


『そりゃ赤くもなるでしょ』
『絶対に秘密にしてよね?』
『絶対だよ?』


彩菜
『とうぜんだし』
『余計なことして他の子に』
『佐々木くん取られちゃうかもしれないから』


『いや』
『それはないんじゃないかな』


彩菜
『あるよ』
『敵は本能寺にあり』


『意味がよくわからないかも?』
『明智光秀』
『だよね?』


彩菜
『ごめんなさい』
『なんとなくノリでした』


『あるよねそういうの(笑)』


彩菜
『でも』
『学校で秘密のやり取りするのって』
『ちょっとドキドキするね』


『すごくわかる』


彩菜
『佐々木くん好き、大好き』


『僕も西沢さん大好きだよ』


彩菜
『スクショ完了』


『西沢さん!?』


 ちょうどやり取りが途切れたところでスマホから視線をあげると、西沢さんとバッチリ目が合う。

 僕と目が合うとすぐに西沢さんが、ニヤッと笑って手を振ってきた。

 いつものふんわり柔らかい笑みとは違って、ちょっとしてやったりって感じのドヤ顔だ。

 でもそんな少し子供っぽいところがまた新鮮に可愛いくて。
 僕の心臓はドキドキとどうしようもない程に鼓動を高めてしまうのだった。

 そんな西沢さんに、僕は周囲の視線を気にしながら小さく手を振り返す。

 それにしてもさっきのやりとり、ほんとに保存しちゃったのかなぁ?

 面と向かって言葉に出すと勇気がいることでも、文字だけのラインだと敷居が下がってスッと書けちゃうから、ついつい流れと勢いで書いちゃったんだけど。

 後から西沢さんがアレとかコレを見返してるかと思うと、穴があったら埋まっちゃいたいくらい恥ずかしいんだけど……。

 しかも言葉でのやりとりと違って永久にデータが残っちゃうし。

 そんな風に西沢さんとのカップルな日々が順調に続いていたある日。

 僕は突然、お昼休みに屋上へと呼び出されたのだった。