ゲームセンターに入ってすぐに、家庭用で今も時々プレイしている一番得意な格ゲーを見つけて100円を入れる。
すぐにCPU戦が始まって、僕はガンガンとステージをクリアしていった。
CPUの設定はハードモードかな?
でもこのゲームは結構やり込んだから、ハードモードでも特に苦労することはないんだよね。
「わわっ、すごい! 上手! 手の動きがすごく速いし! っていうか手元見てないよね!?」
西沢さんが中腰で画面をのぞき込みながら、驚いたように言った。
「手はもう慣れてるからね。見る必要はないし、意識しないでも動くからお箸でご飯食べるのと変わらないし」
「ええっ、うっそだぁ!?」
「ほら、ピアノとか楽器がそうじゃない? 楽器の演奏も慣れてくると、意識しなくても弾けるんでしょ?」
「あ、なるほどね。ちょっと納得したかも」
「それに相手は決まった思考ルーチンで動くCPUだからね。慣れてればこれくらいは割と誰でもできるんじゃないかな?」
そんな西沢さんに、僕は時々画面から顔をあげて西沢さんの方を向きながら、会話しながらゲームを進めていく。
それなりにやり込んでいる格ゲーだと、異常な攻撃力で超反応してくるどうしようもないボス戦以外では、よそ見しながら誰かと話しながらであってもCPUに負けることは基本的にはない。
というかコンボを決めてる間は、画面すら見る必要がないし。
「そんなことないよ。わたしこんな速いの絶対無理だし。目で追いかけるのがやっとだもん。ほんと、佐々木くんの意外なすごい一面を見れた感じ。ゲームセンターに来てよかった」
「ありがとう西沢さん。そうだ、せっかくだし西沢さんもちょっとやってみる?」
「わたし!? 無理無理、無理だし! 見てるだけでいいよ。わたしはここで佐々木くんを応援する応援団長の責務を全うしてるから」
「あはは、なにそれ。一度やってみたらいいのに、結構簡単だよ?」
「そんなこと言うけど、全然簡単そうに見えないんだもん」
「だから実際はそうでもないってば」
なんてやり取りを西沢さんとしていると突然、画面にカットインが入った。
乱入だ。
画面が対人戦モードに切り替わって、乱入相手が使用キャラを選び始める。
「な、なに!? なにか急に始まったんだけど!?」
ゲームは詳しくないと言うだけあって、突然の乱入発生に驚いた西沢さんは目をぱちくりさせている。
「乱入されたんだよ」
「練乳?」
「違う違う、『ら』ん入」
僕は最初の一文字をわかりやすく大きな声で言ってあげた。
「あ、乱入ね!」
ゲーセンは音が大きいので、こういうなんでもない聞き間違いがちょこちょこ起こる。
こんな何気ないことでも、付き合っている女の子との間で起こるとちょっと幸せを感じてしまう僕がいた。
「今まではCPU戦をしてたんだけど、反対側にもう一台あってそこで始めた人がいて、今から僕と対戦するんだ」
「あ、ゲームって人とも戦うんだね」
「まぁ対戦ゲームだからね」
そう、格ゲーは対戦ゲーだから乱入は普通なんだけど。
でもわざわざ彼女と一緒にいる人に乱入しなくてもいいと思うんだけどな……。
(もしかしたら冴えない僕と西沢さんみたいな可愛い女の子が一緒にいたから、僕を負かして恥をかかせてやろうとか思って敢えて入ってきたのかも……やだなぁ……)
しかもだ。
「……上手いなこの人、完全にガチ勢だ」
わざわざ乱入してきたのに、安定強キャラを使わずにテクニカルな高機動キャラを使ってきた時点で、ガチ勢っぽい気はしたんだけど。
なにせこの乱入相手ときたら、間合い管理が上手くて小技の差し合いでは負けるし。
その小技がヒットすると、当たり前のように精度の高いコンボで確実にダメージを取ってくるのだ。
(うわっ、これ全部ヒット見てからコンボ入れてきてるじゃん……)
さらには起き攻めも上手い。
ジャンプからのめくりギリギリでの表裏2択から、投げを絡めた地上への連携は単純だけどとても脅威だった。
僕は背筋を伸ばしてやや前のめりの姿勢になると、鋭い視線でゲーム画面に集中する。
(焦っちゃだめだ。めちゃくちゃ上手いけど、全国トップランカーの動画ほどじゃない。格上は格上だけど、やってやれない相手じゃない)
僕は相手の動きを注意深く観察して、大まかな癖みたいなものを把握する。
そしてある程度ガードを固めつつも、要所要所でいろんな動きや牽制を駆使して反撃を始めた。
積極的に攻撃をしかけてくる乱入相手と、受けからの反撃で勝機を狙う僕。
戦いは一進一退で進んでいった。
1本目を大差で取られて、だけど2本目はギリギリで取り返す。
でも3本目をギリギリで取られて、返しの4本目はまたギリギリで僕が取り返した。
そして2-2で迎えた最終5本目。
乱入相手は僕の動きに慣れて、牽制で誘っても全然反応してこなくなっていた。
対応力の高さもすごい。
そして残り時間が10秒を切ったころには、僕の体力ゲージは目では見えない1ドットまで追い込まれてしまっていた。
もう必殺技をガードした瞬間に削られて負けるどうしようもない状況だ。
乱入者が発生の速い超必殺技で削りに来る。
だけど――!
(それを待ってたんだ!)
僕は相手の超必殺技を16連続ジャストブロッキングすると、逆に最大ダメージコンボを入れて大逆転!
どうにかギリギリ乱入者を撃退することに成功したのだった。
「ふぅ……」
手に汗握る大激戦を僅差で制した僕は、高揚感と疲労感からホッと一息ついたんだけど――、
「…………」
そこに至って僕はやっと、横にいた西沢さんがすっかり静かになってしまっていることに気が付いたのだった。
すぐにCPU戦が始まって、僕はガンガンとステージをクリアしていった。
CPUの設定はハードモードかな?
でもこのゲームは結構やり込んだから、ハードモードでも特に苦労することはないんだよね。
「わわっ、すごい! 上手! 手の動きがすごく速いし! っていうか手元見てないよね!?」
西沢さんが中腰で画面をのぞき込みながら、驚いたように言った。
「手はもう慣れてるからね。見る必要はないし、意識しないでも動くからお箸でご飯食べるのと変わらないし」
「ええっ、うっそだぁ!?」
「ほら、ピアノとか楽器がそうじゃない? 楽器の演奏も慣れてくると、意識しなくても弾けるんでしょ?」
「あ、なるほどね。ちょっと納得したかも」
「それに相手は決まった思考ルーチンで動くCPUだからね。慣れてればこれくらいは割と誰でもできるんじゃないかな?」
そんな西沢さんに、僕は時々画面から顔をあげて西沢さんの方を向きながら、会話しながらゲームを進めていく。
それなりにやり込んでいる格ゲーだと、異常な攻撃力で超反応してくるどうしようもないボス戦以外では、よそ見しながら誰かと話しながらであってもCPUに負けることは基本的にはない。
というかコンボを決めてる間は、画面すら見る必要がないし。
「そんなことないよ。わたしこんな速いの絶対無理だし。目で追いかけるのがやっとだもん。ほんと、佐々木くんの意外なすごい一面を見れた感じ。ゲームセンターに来てよかった」
「ありがとう西沢さん。そうだ、せっかくだし西沢さんもちょっとやってみる?」
「わたし!? 無理無理、無理だし! 見てるだけでいいよ。わたしはここで佐々木くんを応援する応援団長の責務を全うしてるから」
「あはは、なにそれ。一度やってみたらいいのに、結構簡単だよ?」
「そんなこと言うけど、全然簡単そうに見えないんだもん」
「だから実際はそうでもないってば」
なんてやり取りを西沢さんとしていると突然、画面にカットインが入った。
乱入だ。
画面が対人戦モードに切り替わって、乱入相手が使用キャラを選び始める。
「な、なに!? なにか急に始まったんだけど!?」
ゲームは詳しくないと言うだけあって、突然の乱入発生に驚いた西沢さんは目をぱちくりさせている。
「乱入されたんだよ」
「練乳?」
「違う違う、『ら』ん入」
僕は最初の一文字をわかりやすく大きな声で言ってあげた。
「あ、乱入ね!」
ゲーセンは音が大きいので、こういうなんでもない聞き間違いがちょこちょこ起こる。
こんな何気ないことでも、付き合っている女の子との間で起こるとちょっと幸せを感じてしまう僕がいた。
「今まではCPU戦をしてたんだけど、反対側にもう一台あってそこで始めた人がいて、今から僕と対戦するんだ」
「あ、ゲームって人とも戦うんだね」
「まぁ対戦ゲームだからね」
そう、格ゲーは対戦ゲーだから乱入は普通なんだけど。
でもわざわざ彼女と一緒にいる人に乱入しなくてもいいと思うんだけどな……。
(もしかしたら冴えない僕と西沢さんみたいな可愛い女の子が一緒にいたから、僕を負かして恥をかかせてやろうとか思って敢えて入ってきたのかも……やだなぁ……)
しかもだ。
「……上手いなこの人、完全にガチ勢だ」
わざわざ乱入してきたのに、安定強キャラを使わずにテクニカルな高機動キャラを使ってきた時点で、ガチ勢っぽい気はしたんだけど。
なにせこの乱入相手ときたら、間合い管理が上手くて小技の差し合いでは負けるし。
その小技がヒットすると、当たり前のように精度の高いコンボで確実にダメージを取ってくるのだ。
(うわっ、これ全部ヒット見てからコンボ入れてきてるじゃん……)
さらには起き攻めも上手い。
ジャンプからのめくりギリギリでの表裏2択から、投げを絡めた地上への連携は単純だけどとても脅威だった。
僕は背筋を伸ばしてやや前のめりの姿勢になると、鋭い視線でゲーム画面に集中する。
(焦っちゃだめだ。めちゃくちゃ上手いけど、全国トップランカーの動画ほどじゃない。格上は格上だけど、やってやれない相手じゃない)
僕は相手の動きを注意深く観察して、大まかな癖みたいなものを把握する。
そしてある程度ガードを固めつつも、要所要所でいろんな動きや牽制を駆使して反撃を始めた。
積極的に攻撃をしかけてくる乱入相手と、受けからの反撃で勝機を狙う僕。
戦いは一進一退で進んでいった。
1本目を大差で取られて、だけど2本目はギリギリで取り返す。
でも3本目をギリギリで取られて、返しの4本目はまたギリギリで僕が取り返した。
そして2-2で迎えた最終5本目。
乱入相手は僕の動きに慣れて、牽制で誘っても全然反応してこなくなっていた。
対応力の高さもすごい。
そして残り時間が10秒を切ったころには、僕の体力ゲージは目では見えない1ドットまで追い込まれてしまっていた。
もう必殺技をガードした瞬間に削られて負けるどうしようもない状況だ。
乱入者が発生の速い超必殺技で削りに来る。
だけど――!
(それを待ってたんだ!)
僕は相手の超必殺技を16連続ジャストブロッキングすると、逆に最大ダメージコンボを入れて大逆転!
どうにかギリギリ乱入者を撃退することに成功したのだった。
「ふぅ……」
手に汗握る大激戦を僅差で制した僕は、高揚感と疲労感からホッと一息ついたんだけど――、
「…………」
そこに至って僕はやっと、横にいた西沢さんがすっかり静かになってしまっていることに気が付いたのだった。