僕と西沢さんはどちらからともなく自然と手を繋いでエスカレーターに乗る。
 4階で降りてまずは目当てのお店に入ったんだけど──。

「うぐ、同じような商品がいっぱいある……」

 僕は一見どれも同じに見える、所狭しと並べられたたくさんの服に圧倒されてしまっていた。

 何がどう違うかをパッと理解できず、僕はカタカナで書かれた専門用語の多い説明を必死に読みながら、内心途方に暮れてしまう。
 すると。

「伸縮性のあるスキニーパンツならこの辺りかな、これとか、それとかがそうだよー」

 西沢さんはパッと見てどこに何があるかを把握すると、女の子らしい柔らかい手で僕の手を引いて売り場まで案内してくれたのだ。

 しかも一瞬ふらっといなくなっては、

「ねぇねぇこういうのはどう? 柄物のシャツだから最初の予定とはちょっと違うんだけど、着るだけならタダだしせっかくだから試着してみない?」

 そんなことを言っては、僕に似合いそうなのを色々と見つけて来てくれるのだ。

「着てみたけど……どうかな?」

「うん、すごく似合ってるよ! 白もいいけど柄物も捨てがたいなぁ。そうするとパンツの色はあっちのほうが合いそうかな?」

 僕よりも真剣に、僕のためにどの服が似合うかコーデを悩んでくれる西沢さんに、僕はどうしようもない愛おしさを感じずにはいられなかった。

 しかも、

「佐々木くんって華奢だから、スキニーとかで細めのラインにするとすごくスラッと見えてカッコいいね♪」

 それはもう、すごく嬉しそうに褒めてくれるんだもん。

「ありがとう、褒めてもらって、その、嬉しいよ」

「あ、佐々木くん照れてるでしょ? 顔真っ赤だよー」

「だってカッコいいとか言われたらそりゃあ照れるでしょ? そんなこと全然言われたことなかったし」

 僕の人生とはまったく無縁の評価を、よりにもよって学園のアイドル西沢さんからしてもらったのだ。
 これで照れるなというほうが無理というものだろう。

「もう、みんな見る目がないんだね。でもそのおかげでわたしが佐々木くんとカレシカノジョになれたんだけどね。えへへ、なんちゃって?」

 なんてことを上目づかいではにかみながら言ってくる西沢さん。
 もう可愛すぎて可愛すぎて、服を選んでいる最中だってことも忘れて僕はついついその笑顔に見とれてしまうのだった。

 そんな感じでドキドキしながら一緒に服を選んでいたんだけど、

「じゃあ次のお店に行こっか」
 店内の服をあらかた見て回ったところで、西沢さんが唐突にそんなことを言った。

「あれ、ここで買わないの? これとか超お勧めって言ってくれて、僕もかなりその気だったんだけど」
 
「お店によって同じMサイズでも微妙に大きさが違ったりするの。だから似たようなのがある時は、他のお店でも実際に試着してサイズを確かめたほうがいいんだよね。今日買うのはベーシックなアイテムだから、いくつかお店を回ってなるべく体形に合うのを買ったほうがいいかなって思うんだ」

 西沢さんはそんなアドバイスをしてくれたんだけど、

「え、服のサイズって共通じゃないの? MとかSとかLってどこも同じ表記だよね?」
 僕はつい聞き返してしまった。

 だってそうでしょ?
 そのためのサイズ表記だよね?

「うーんとね、大雑把には同じなんだけど、でも同じMサイズでもブランドでかなりバラバラなんだよね」

「そうなんだ」

「ブランドで胴まわりとかも結構違ってくるし、例えば肩幅とか手の長さって人それぞれ違うでしょ?」

「確かにそうだね」

「だからブランドごとに特に対象としてる体形っていうのがあって、どこが広めとかどこが長めとか、そういう個性があるの」

「へぇ、なるほどね。言われてみれば納得だよ」

「だから自分の体格にあったブランドを選ぶのって結構大事なんだよね。同じサイズでそっくりな服でも、フィット感とか動きやすさとかが全然違ってくるから」

「そうだったんだ。そんなこと今西沢さんに教えてもらうまで全然知らなかったよ」

 たしかによくよく考えてみれば。
 例えばアニメだって「ロボットもの」って一くくりに言っても、壮大な宇宙戦争史を描いたガン〇ムシリーズから、近未来リアル戦争感が素敵なフルメ〇ル・パニック。
 特撮の流れを色濃く引いてるグリ〇ドマン、さらには軍師系主人公が魅力のコードギ〇スまで幅広いもんね。

「そういうわけなので、まずはいったん目星だけつけておいて、次のお店を見に行こ?」

「うん、了解。でもそっか。女の子が色々見て回るのにはこういう理由があったんだね。すごく納得できた気がする。教えてくれてありがとうね西沢さん」

 女の子は買い物が長い――というのはネットでもよく見る男女の違いあるあるだけど、ちゃんと理由があったんだね。

 僕はいろいろ詳しくて、説明もすごく上手な西沢さんにとても感心しきってしまって、ついじっとその顔を見つめてしまった。

 目鼻立ちが整っていて、小顔で、透きとおるように白い肌。
 100人に聞けば100人全員が可愛いと言うこと間違いなしの西沢さんの顔は、どれだけ見ていても飽きることはない。

「な、なに? どうしたの? 急にそんなに見つめられると照れちゃうんだけど……」

 とかなんとか顔を赤くして上目づかいで言ってくる西沢さんは、それはもう可愛かった。

「ご、ごめん、つい見とれちゃって」
「あ、うん……ありがと……えへへ。なんか恥ずかしいね」

 胸の奥がキュッとなる甘酸っぱい雰囲気に、僕と西沢さんはお互い顔を赤らめながら、ついに視線を合わせていられなくなってプイっと顔を逸らしてしまったのだった。

 とまぁそんな感じで。

 説明上手・話し上手な西沢さんにあれこれ教えてもらいながら、学校の話なんかもしつつ服を選ぶ楽しい時間は、流れるように過ぎていった。