「え、いいの? 服も全然デートらしくないこんなのなのに」
僕は思わず尋ねてしまった。
「そんなの全然気にしないよ? 佐々木くんと一緒にいたいほうが優先だもん。それにわたしとのデートのために服を買おうとしてくれたんでしょ? その気持ちがわたしにはすごく嬉しいんだ」
「西沢さん……! ありがとう」
「ちょ、ちょっと佐々木くん、なんで泣きそうになってるの!?」
「ごめん、西沢さんの清らかすぎる心に感動して、感極まって思わず涙ぐんじゃった……」
「ふええっ!?」
「本当になんていい子なんだ西沢さん……もはやリアル天使じゃないか……」
僕は非力で冴えない底辺男子だ。
たまたま偶然西沢さんのおばあちゃんを助けたことがきっかけで西沢さんと縁ができて。
さらになんの奇跡か、好意を持ってもらっただけのその他大勢の一人だ。
でも、それでも。
そんな吹けば飛ぶようなミジンコみたいな僕だったとしても、西沢さんを悲しませることだけは何があっても絶対にしないんだと、僕は改めて心に誓っていた。
「えっと、あの、ほら、ね? 天使かどうかは置いといて、っていかわたしは完全に人間だけどね? 一緒に服を選べば、佐々木くんの服の趣味までわたし好みになってもらえるかもでしょ? ほらね、わたしにもちゃんと利益があるんだから」
「そういうことにも……ならなくはないのかな? 西沢さんに色々アドバイスしてもらえるなら僕も嬉しいけど。正直ファッションは全然わからなくて困り果ててたんだ」
この流れで西沢さんの趣味に合う服を西沢さん本人に選んでもらえれば、この先デートの服装選びで失敗することはなくなる。
なにせ今日買った服を着ていけばいいわけだし、今回正直に伝えたおかげでこれから先は、服を買う時に西沢さんに気兼ねなくどれがいいかを聞けるようになったのだ。
しかもオシャレな西沢さんの視点が入れば、僕が一人で選ぶよりもはるかにいい結果になるのはこれはもう間違いないわけで。
「じゃあ今から佐々木くんとお買い物デートだね」
「うん。そういうことなので、今日はアドバイスの程なにとぞよろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんとなくぺこぺこと頭を下げ合った僕と西沢さん。
「……今の僕たちなんか変だったよね?」
「わたしも思った。なんで2人で向かい合ってぺこぺこしてるのかなって」
2人で顔を見あわせて噴き出すように笑い合う。
しばらく笑い合ってから西沢さんが言った。
「じゃ、最初は理容師さんに教えてもらったっていうショップに行こっか? どこのお店?」
「えっと4階のこのお店なんだけど」
僕はさっき見つけていた、案内板の4階の一画を指差した。
「ふんふんここね、メンズの定番だもんね」
「あ、知ってるんだ。じゃあ西沢さんも行ったことあるの?」
「残念ながらここは女性向けはほとんど取り扱ってないので、入ったことはないんです。知ってるのは名前だけかな」
それを聞いて少しだけホッとした僕がいた。
他の男子と買い物に来たことがあるのかな、とかちょっと思ってしまった器が小さすぎる自分にため息をつきたくなる。
ああこれが嫉妬って感情なんだな。
『僕なんか』――それが口癖になって多くのことから目を背け、色んなことから逃げるようになって以来久しく忘れていた、それは良くも悪くも人間らしい強い負の感情だった。
今の僕は、本当に久しぶりにそんな感情を抱いていたのだった。
とまぁそういうわけで。
西沢さんとの不意の出会いによって、ショッピングモールでの突然のお買い物デートが始まることになった――。
僕は思わず尋ねてしまった。
「そんなの全然気にしないよ? 佐々木くんと一緒にいたいほうが優先だもん。それにわたしとのデートのために服を買おうとしてくれたんでしょ? その気持ちがわたしにはすごく嬉しいんだ」
「西沢さん……! ありがとう」
「ちょ、ちょっと佐々木くん、なんで泣きそうになってるの!?」
「ごめん、西沢さんの清らかすぎる心に感動して、感極まって思わず涙ぐんじゃった……」
「ふええっ!?」
「本当になんていい子なんだ西沢さん……もはやリアル天使じゃないか……」
僕は非力で冴えない底辺男子だ。
たまたま偶然西沢さんのおばあちゃんを助けたことがきっかけで西沢さんと縁ができて。
さらになんの奇跡か、好意を持ってもらっただけのその他大勢の一人だ。
でも、それでも。
そんな吹けば飛ぶようなミジンコみたいな僕だったとしても、西沢さんを悲しませることだけは何があっても絶対にしないんだと、僕は改めて心に誓っていた。
「えっと、あの、ほら、ね? 天使かどうかは置いといて、っていかわたしは完全に人間だけどね? 一緒に服を選べば、佐々木くんの服の趣味までわたし好みになってもらえるかもでしょ? ほらね、わたしにもちゃんと利益があるんだから」
「そういうことにも……ならなくはないのかな? 西沢さんに色々アドバイスしてもらえるなら僕も嬉しいけど。正直ファッションは全然わからなくて困り果ててたんだ」
この流れで西沢さんの趣味に合う服を西沢さん本人に選んでもらえれば、この先デートの服装選びで失敗することはなくなる。
なにせ今日買った服を着ていけばいいわけだし、今回正直に伝えたおかげでこれから先は、服を買う時に西沢さんに気兼ねなくどれがいいかを聞けるようになったのだ。
しかもオシャレな西沢さんの視点が入れば、僕が一人で選ぶよりもはるかにいい結果になるのはこれはもう間違いないわけで。
「じゃあ今から佐々木くんとお買い物デートだね」
「うん。そういうことなので、今日はアドバイスの程なにとぞよろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんとなくぺこぺこと頭を下げ合った僕と西沢さん。
「……今の僕たちなんか変だったよね?」
「わたしも思った。なんで2人で向かい合ってぺこぺこしてるのかなって」
2人で顔を見あわせて噴き出すように笑い合う。
しばらく笑い合ってから西沢さんが言った。
「じゃ、最初は理容師さんに教えてもらったっていうショップに行こっか? どこのお店?」
「えっと4階のこのお店なんだけど」
僕はさっき見つけていた、案内板の4階の一画を指差した。
「ふんふんここね、メンズの定番だもんね」
「あ、知ってるんだ。じゃあ西沢さんも行ったことあるの?」
「残念ながらここは女性向けはほとんど取り扱ってないので、入ったことはないんです。知ってるのは名前だけかな」
それを聞いて少しだけホッとした僕がいた。
他の男子と買い物に来たことがあるのかな、とかちょっと思ってしまった器が小さすぎる自分にため息をつきたくなる。
ああこれが嫉妬って感情なんだな。
『僕なんか』――それが口癖になって多くのことから目を背け、色んなことから逃げるようになって以来久しく忘れていた、それは良くも悪くも人間らしい強い負の感情だった。
今の僕は、本当に久しぶりにそんな感情を抱いていたのだった。
とまぁそういうわけで。
西沢さんとの不意の出会いによって、ショッピングモールでの突然のお買い物デートが始まることになった――。