「はぅ、緊張した……クラスのみんながこっちを見てるんだもん」
「そりゃあ学園のアイドルの西沢さんだからね。それが僕にお弁当でしょ? 興味を持つなってほうが無理なんじゃないかな?」
僕だって西沢さんが急に特定の男子と仲良くしだして、その男子にお弁当を作ってきたら「ええ、なんで! いったい何があったの?」って思うだろうし、羨ましくてつい見ちゃうはずだもん。
「むー、わたしアイドルなんかじゃ全然ないのに……普通なのに……」
「ええっ? まさにアイドルって感じだと思うけどなぁ。みんなに好かれてるし、それにか、か、可愛いし……」
僕は思ったままのことを言葉にした。
最後の一言なんかほんと頑張った。
僕がこんな浮ついたセリフを言うのは似合ってない――そんなことは僕が一番わかっている。
でも西沢さんがこれだけ好意を伝えてくれるんだから、僕もうじうじと恥ずかしがっていないで、ちゃんと好意を伝えないといけないって思ったんだ。
少しずつでいいから、西沢さんの隣にいても笑われない男子に僕はなりたい。
「そんなこと……ないから……ないんだもん……」
だけど西沢さんはちょっと沈んだ声でそれをはっきりと否定した。
それが僕には、なんとなくこの話はしたくないっていう西沢さんの意思表示に見えたのだった。
もしかしたら西沢さんは自分が学園のアイドルって呼ばれている現状を好ましく思ってないのかもしれない。
理由はわからないけど、だったらこの話はもうしちゃいけないよね。
人の嫌がることはしない、小学生でもわかることだ。
もちろん底辺男子からどうにか脱却しようと藻掻いている僕でも当然わかる。
ましてやそれが僕を好きになってくれた西沢さんの希望なら、なおさらのことだった。
「うわっ、もうこんな時間。このまま話してたらお昼休み終わっちゃいそうだから、そろそろ食べない? あそこのベンチとかどう?」
だから僕は中庭に立っている大きな時計を見上げると、明るい声で元気よく、ちょっとわざとらしく言った。
大きな声を出すのはすごく苦手なんだけど、どんよりとした空気を切り替えようと頑張ってみる。
だってせっかく西沢さんが――僕の初めての彼女が手作りのお弁当を作ってきてくれたんだ。
初めてのお弁当は楽しい気持ちで食べたいもんね!
西沢さんもそんな僕の意図を察してくれたのか、すぐにいつものふんわり優しい笑顔に戻った。
そのまま僕たちは連れ立ってベンチに腰掛ける。
ベンチに座ると西沢さんがすぐにお弁当を開いてくれた。
「見て見て、佐々木くんの好きな玉子焼き、綺麗に焼けたんだ。ほら、こんがりきつね色♪」
途端に、色とりどりの見目鮮やかなおかずが僕をお出迎えしてくれる。
「うわ、ほんとだ、すごくきれいに焼けてるね。プロが作ったみたいだよ」
「えへへ、ありがとうございます。実は会心の出来でした。朝のわたし、グッジョブ!」
「から揚げにウィンナーにサラダに、他もすごく美味しそうだね」
「から揚げはその、実は冷凍食品なんだけど……でもでも他は手作りだからねっ!」
せっかく手作りのお弁当なんていう人生最高レベルのサプライズプレゼントを持ってきてくれたのに。
申し訳なさそうに冷凍唐揚げだと言って肩をすぼめて小さくなる奥ゆかしい西沢さんに、僕はもうどうしようもなく愛おしさを感じてしまって――、
「作ってきてくれただけでも嬉しいのに、こんなに美味しそうなんだもん、僕は今日のこと一生忘れないよ。ありがとう西沢さん、本当に嬉しい──ってさっきから同じことばっかり言ってるけど。ごめんね、ボキャブラリーが貧困で……」
僕の口からは自然とそんな言葉がこぼれ出ていた。
心の中で思っていたことがスルッと勝手に言葉になってくれていた。
勇気を出して伝えようなんて思わなくても、僕の口からは今、自然と西沢さんへの思いがあふれ出てきたのだ。
まぁその。
ボキャブラリーが貧困すぎる点に関しては、他人とのトークスキル&経験値が圧倒的に不足し過ぎているので仕方ないと割り切るしかないけれど。
(でもなんだか大きな一歩を踏み出せた気がする―-)
「ううん、何回言われても嬉しいよ。今日は早起きして作ってきて良かった~」
僕のそんな率直な感想を聞いた西沢さんは、安心したように胸に手を当てて微笑んだ。
「じゃあ早速食べてみるね」
「はい、どうぞ召し上がれ」
「まずは会心の出来っていう玉子焼きから……ってごめん、お箸持ってきてないんだけど、僕のぶんのお箸ってあるのかな?」
僕はお昼は学食に行くつもりだったので、マイ箸を持ってきていない。
だからお箸があるかを西沢さんに確認したんだけど――、
「はい、あーん♪」
なぜか西沢さんは玉子焼きをピンク色のマイお箸でつかむと、左手を添えながら僕の口元に差し出してきたのだ――!
「えっ!? あーん!?」
だから僕の心が驚天動地の事態に陥ってしまったのも、これまた無理はないことだった。
どうしたものかと混乱しきりな僕の視線は、差し出された玉子焼きと西沢さんの顔の間を何度も行ったり来たり繰り返す。
「え、あれ、なにか変だった? 彼女はお弁当を作ったら彼氏にあーんするものなんだよって教えてもらったんだけど……」
「僕は世間の恋愛事情には極めて疎いんで変かどうかはまったく判断がつかないんだけど。なにさいきなりだったから、とにかくびっくりしたかなって……」
「うっ、ごめんなさい……もしかしてこういうのって嫌だったかな?」
目を伏せて悲しそうに言う西沢さん。
「まさか、そんなことないよ! ほんといきなりだったから、単に心の準備ができてなくてちょっとビックリしただけなんだ」
「気使ってない……?」
「全然ぜんぜん! ちょっと恥ずかしいけど、だけど西沢さんにあーんしてもらえてすごく嬉しいから!」
偽らざる本心だった。
西沢さんみたいな可愛い女の子にお弁当を作ってもらえただけでなく、あーんまでしてもらえるだなんて。
僕の人生は間違いなく今が絶頂期だ。
そんなの嬉しくないはずがなかった。
「ならよかった」
「ちなみになんだけど、誰から教えてもらったの? いつも仲良く話してるグループの女の子から?」
「ううん、おばあちゃんから聞いたんだ。そういうのがナウでヤングなハイカラアベックのトレンドなんだって」
「ハイカラ? アベック? なにそれ英語?」
突然出てきた見知らぬ横文字に、僕は少しだけ戸惑ってしまう。
「カップルのことをアベックって言うのがハイカラ、えっとおしゃれなんだって。ほら野球でもアベックホームランとか言うでしょ?」
「ごめん、野球――というかスポーツはあまり詳しくないんだ。西沢さんは野球見るの? なら僕も今度見てみようかな? お勧めのチームとかあったら教えてくれないかな?」
「わたしも見ないんだけど、昔おじいちゃんが生きてた頃は、おばあちゃんの家に行くとよくおじいちゃんがメジャーリーグを見てたんだよね。だからわたしもイチローとか松井とか城島とか、あとは藤川とか藪とか井川とかいろいろ知ってるよー」
「あ、その人知ってるかも。イチローはドラマにも本人役で出るくらい有名だったんだよね」
いくらスポーツには縁のないボクでも一世を風靡したメジャーリーガーの名前くらいはさすがに知っている。
他の選手の人は知らなかったけど、その人たちもきっとメジャーリーガーな人たちなんだろう。
あとでスマホで調べてみよう。
――というやり取りを経たのち、ついに僕はあーんしてもらうために大きく口を開けた。
僕の口の中に綺麗なキツネ色をした玉子焼きを、西沢さんがそっと差し入れてくれてくれて――、
(もぐもぐ……)
「………………うううぅんんっっ????」
しかし僕は、食べてすぐに僕は何度も目をぱちくりとさせてしまっていた。
何度も何度も口の中で玉子焼きを味わって、自分の味覚が変になっていないことを確かめる。
でもちゃんと卵の味は感じている。
僕の味覚は極めて正常だった。
でも、な、な、な……なんだこれ!?
いやほんとなんだこれ!?
(全然ちっとも甘くないんだけど!? わずかにしょっぱいだけで甘味はゼロなんだけど!?)
「どうかな佐々木くん? 口に合うといいんだけど……」
「えっ!? あ、うん、えっと……」
「うんうん」
西沢さんは神妙な面持ちで僕の反応をうかがっていた。
でも明らかにそわそわワクワクしている。
明日の遠足を楽しみにしている小学生って感じを隠しきれていなかった。
西沢さんがそんな様子だったから、僕は言葉をとてもとても、とてつもなく慎重に選んでから言った。
「なんて言えばいいのかな……一言では言い表しにくいんだけど……」
「うんうん」
「素材の味をよく生かした、天然かつ素朴な味わいって言うのかな? 塩味が玉子の味をしっかり引き立ててくれてて、これはこれで悪くないと思うな~」
「? 甘すぎるのは苦手って言ってたから甘くし過ぎないようにしたんだけど、もっと甘い方が良かったかな?」
僕の感想に西沢さんが首を傾げた。
どうやら期待していた感想とは少々違うようだった。
「えっと、その、甘さについてなんだけどさ? えっとね? ちょっと基本的なことを聞きたいんだけど」
「なぁに? なんでも聞いて?」
「ほんと確認だから、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……この玉子焼きってさ? 砂糖って入ってる?」
「え、お砂糖? もちろん入ってるよ? 佐々木くんが甘い玉子焼きが好きだって言ってたから、普段より甘々にしましたから」
僕の質問に西沢さんは上機嫌で答える。
「そうなんだ? でもうーん……実はその、まったく甘くないんだよね、全然、ちっとも、これっぽっちも」
「そんなまさかぁ。すごく気合入れて砂糖の量を調整したんだもん。わたしの分をまず先に作って味見して砂糖と塩の加減をチェックしてから、佐々木くんの分の玉子焼きを焼いたんだもん――あっ」
そこで西沢さんが口を開けたままピシリと固まった。
さっきまでの笑顔が一変、泣きそうな顔で酸欠気味の金魚みたいにパクパクさせはじめる。
「ええっと、もしかしてなにか思い当たることでもあったり……?」
もう完全に涙目になってしまっている西沢さんをヘタに刺激しないように、僕は静かな声で優しく問いかけた。
「さ、佐々木くんの玉子を割った時にね? 黄身が2つある双子玉子だったの。わわっ、珍しいな。しかも佐々木くんにお弁当を作る時にだなんて、今日は良いことあるかもって思って喜んだんだけど……」
「へぇ、それは確かに珍しいよね。玉子焼きじゃなくて目玉焼きにしたくなるかも」
そうしたら一つの玉子で2つの目玉焼きができてお得だもんね。
「そうなの、わたしはその時まさにそう思ったの。それでそのことに気を取られてて砂糖を入れなかった気がするような、しないような。するような、しないような……はい、入れ忘れました……砂糖を入れた記憶がないです……」
西沢さんは蚊の鳴くような小さな声でそこまで言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、えっと……」
僕もなんと声をかけたものかとかける言葉に困ってしまった。
やらかした理由はなんとなくわかる。
玉子焼きと違って目玉焼きを焼くときには砂糖も塩も入れないから、きっと目玉焼きって言葉に引っ張られちゃったんだろう。
「ううっ、わたしって昔からちょっと抜けてたところあって……特に大事な時に失敗するんだよね……」
「そう言えば昨日そんなことを言ってたよね。テストで解答欄がずれてたこともあったんだっけ」
昨日の帰り道で西沢さんと話した会話を思い出す。
「うん……今日もよりにもよって、佐々木くんが楽しみにしてた玉子焼きに砂糖を入れ忘れるだなんて……ぐす……」
西沢さんはよほどこの失態が辛かったのか、悲しみのあまり鼻をすすり始めてしまった。
でもそっか。
そういうことだったのか。
「西沢さんは大事な時に限って失敗するんでしょ? だったらよかったかな」
だから僕はそう言ったんだ。
「なんでよ、全然よくないもん……わたしのバカ……バカバカ……」
「だってさ? この玉子焼きを作ることは、西沢さんにとってテストに負けないくらい大事なことだったってことでしょ?」
「あ……」
「西沢さんにそこまで大事に思ってもらえてるってわかって。だから僕は今すごく幸せなんだ。ありがとうね西沢さん。だからもう泣かないで」
「佐々木くん……今すっごくキザなこと言ってるよ?」
「うぐっ……わかってるよ、こんなセリフは僕に似合ってないことくらい」
でも早起きしてお弁当を作ってくれた西沢さんをこれ以上は悲しませたくないって思ったら、自然と言葉が湧き上がってきたんだ。
「でもすごくカッコよかった。胸がドキドキしてキュンてきたもん。佐々木くんはやっぱり優しくて素敵な人だなって思った」
そう言った西沢さんはまだ少し目が赤かったし、笑顔はぎこちなかったけど。
それでも立ち直りつつあるのが見て取れた。
「じゃあ続きを食べさせて欲しいかな。昼休みもだいぶ過ぎちゃったし、あーん」
僕が口を開けると、西沢さんが驚いたような顔をする。
「でも、お砂糖が入ってないし……あ、そうだ、わたしのと交換すればいいんだよね!」
そう言って西沢さんは自分のお弁当箱に入っている玉子焼きを取ろうとする。
だけど――。
「ううん、西沢さんが僕のために作ってくれたその玉子焼きを食べたいんだ」
「でもこっちはお砂糖を入れ忘れてるし……ほら、わたしのお弁当に入っている方はちゃんと甘くできてるから。そっちのほうが絶対美味しいもん」
「美味しいは美味しいかもだけど、それでも僕は西沢さんが一生懸命気持ちを込めて作ってくれた、そっちの甘くない玉子焼きの方を食べたいんだ」
「佐々木くん……」
「それにさ、そっちのほうが一生の思い出になりそうじゃない? 甘い玉子焼きはまた今度食べられるかもしれないけど。この甘くない玉子焼きは多分もう2度とお目にかかれないよね。だから僕はこっちの玉子焼きを食べたいな」
女の子の手作り弁当を食べさせてもらって。
さらにちょっとしたアクシデントまで起こるだなんて。
昨日までの僕の平凡以下の人生じゃとても考えられなかったことだ。
それもこれも全部、西沢さんが告白してくれたおかげで。
そんな西沢さんの思いがいっぱいに詰まった玉子焼きを、僕は食べたかったのだ。
「じゃあ提案なんだけど、半分こしない? 美味しい玉子焼きも作れるんだってことはちゃんとわかってもらわないと、わたしだって納得いかないもん。だから半分こ、ね?」
「そうだね、うん。半分こしよっか」
「うん! それにそっちのほうがカップルっぽいもんね♪」
「えっと、あの……うん」
とまぁこうして。
僕と西沢さんは2つの玉子焼きをそれぞれ半分こして食べあった。
甘い玉子焼きも甘くない玉子焼きも、もちろん他の料理もどれを食べてもとても美味しかった。
トマトやレタスに彩られたポテトサラダも。
目と口までついた可愛いタコさんウィンナーも。
冷凍ものを解凍しただけだって申し訳なさそうに言っていた唐揚げも。
そのどれもこれもがそれはもう本当に美味しかった。
なによりすぐそばに西沢さんがいて、「あーん」して食べさせてくれるのだ。
「えへへ、いっぱい愛情を込めましたから……なんちゃって」
西沢さんは冗談っぽく言ってくるけど、一人で食べる学食での食事と違って、触れあえる距離に西沢さんがいてとびっきりの笑顔を向けてくれることは、これ以上ない最高のスパイスだった。
今まで1人で過ごすことが多かった学校のお昼休み。
それがこんなに楽しいと思えたのは、掛け値なしに生まれて初めてのことだった。
「お弁当を作ってきてくれてありがとね、西沢さん」
だから僕は、もう何度目かわからない感謝の言葉を伝えたのだった。
その日の帰り道。
「ねぇねぇ、明日って土曜日でしょ? 学校休みだからデートでもしないかな?」
その西沢さんの突然の提案に、僕は一気にピンチに陥ってしまった。
ピンチもピンチ、大ピンチだった。
「あ、明日? 急だね?」
「うん。あ、なにか用事あった?」
「いやえっと、その……」
「ごめんなさい、急すぎたよね。佐々木くんだって予定あるもんね。急に言われても困るよね。じゃあデートはまた今度にしようね」
言葉に詰まっている僕を見て一瞬寂しそうな顔をした後、すぐに笑顔でそう言ってくれた西沢さん。
しっかりと自分の意見は言っても、決してそれを押し通したりはしない奥ゆかしい姿は、まさに僕が思い描く理想の女の子だった。
だけど一瞬見せた寂しそうな顔が、僕の心をきゅっと締め付けてくる。
「日曜日じゃだめかな?」
だから僕はそう提案した。
「わたしは日曜日でも大丈夫だよ。佐々木くんは予定とか大丈夫なの?」
「僕はあまり予定とかないから。日曜日なら全然大丈夫だから」
「じゃあ日曜日にデートだね。えへへ、実は男の子とは初デートなんだぁ」
「僕も女の子と遊びに行くのは初めてだね」
(まぁ僕の場合は女の子とだけでなく、男子の友達と遊びに行くことすらほぼないんだけどね)
「細かいことは土曜日にラインでお話する感じでいい?」
「うん、それで」
というわけで僕と西沢さんは日曜日にデートをすることになったんだけど――、
「ヤバい、マジヤバい。ヤバすぎるってくらいにヤバい。どうしよう??」
家に帰ってから僕は、夜になってもずっと頭を抱えていた。
というのもだ。
「デートって何をどうすればいいんだろう? 女の子が好きそうなお店とか最近の流行とか全然知らないし。そもそもそれ以前の問題として、デートに来ていく服がないんだよね。どうしよう……」
僕はそのことでどうしようもなく頭を抱えていたのだった。
明日の土曜日を断ったのはこのためだ。
とりあえず明日の土曜日は回避できたから、1日余裕がある間になんとかデートの準備をしないといけない。
もちろん僕に、デートについてあれこれ教えてもらえるようなしゃれた友だちなんてものはいない。
ネットでもあれこれ調べてみたものの。
内容が全体的にふんわりしていて、何をどうすればいいのかイマイチイメージが掴みきれないでいた。
「背伸びしようとせず、自分が楽しむよりも相手が楽しむ場所を優先するようにしてみて下さい? だからそれがどこで何なのか皆目見当がつかないから困ってるんじゃないか! なんだよこのサイト、書いてる人は絶対底辺男子のわかってなさをわかってないよ!」
僕は役に立たないふんわりサイトに文句を言いながらスマホを脇に置いた。
「ううん、それよりもまず服だよね。靴は去年お母さんに買ってもらったニューバランスのスニーカーがあるから大丈夫。友達がいなくて遊びに行く機会もないし、全然履く機会がなかったから新品同様で綺麗だし」
言っててちょっと悲しくなったけど、おかげで靴は悩まなくてよくなった。
「だから問題は1に服で、2にデート場所だ」
西沢さんは見るからにおしゃれそうだもん、デートが楽しみだって言ってたしすごく可愛い服で来るはずだ。
だからせめて隣に並んで恥ずかしくならないような恰好をしていかないと。
「幸いなことにデート資金は余裕がある。お年玉も高校の入学祝もまったく手つかずで残ってるからね」
友だちと遊びに行くこともなく、深夜アニメと格闘ゲームが主な趣味の僕は基本的にお金を使うことがほとんどない。
毎月のお小遣いの使い道にしても、特に興味があるアニメの原作ラノベや漫画を買ったりするくらいだし。
「よし、そうと決まればまずは明日、デート用の服を買いに行こう。どこに行くかはその後ってことで」
西沢さんと並んである低も恥ずかしくないように、高校のある駅の駅前にあるショッピングモールまでデート用の服を買いに行くことにした。
翌、土曜日。
僕は服を買いに行く――より前にまず、朝一で髪を切りに近所の理髪店へと向かった。
朝、鏡を見てみたら顔が冴えないだけじゃなくて、髪が全体的に長くなってもさっしていることに気が付いたんだよね。
特に前髪。
日常生活にはまだまだ全然なんの問題もないんだけれど、なにせ西沢さんとの初めてのデートなのだ。
ほんの少しでもいい印象を持ってもらいたかった。
「初めて女の子と遊びに行くので爽やかな感じでお願いします」
万が一にも変な髪形にならないようにと、理容師のお兄さんに初デートなのだと勇気を出して告げる。
すると担当の理容師さんは髪を切りながら、なんと僕にデートのアドバイスをしてくれたのだ!
理容師さんは受け答えがすごく柔らかで、人付き合いが苦手な僕でもすごく話しやすい爽やか系のお兄さんだった。
会話が上手で、この人はモテるだろうなって僕でもわかった。
それで色々話をしているうちに服の話になって、
「高校入ったばかりなんだよね? だったら下手におしゃれしようって思うよりも、濃い目のスキニーパンツと白いシャツでシンプルにまとめれば清潔感が出ていいんじゃないかな。これならスニーカーにも合うしそんなにお金もかからないから、高校生のお小遣いでも充分買えるしね。そこからあとは男は中身で勝負だよ、頑張ってね」
とても具体的かつわかりやすく何を買えばいいかを教えてくれたのだ。
男は中身で勝負っていう最後の言葉だけが少しだけ不安だったけど。
それでもとても親身に恋愛初心者でもわかりやすくアドバイスをしてくれた理容師のお兄さんには、感謝の言葉しかない僕だった。
ちなみにスキニーパンツっていうのはぴったりフィットするタイプの細身のパンツのことなんだって。
最近は履き心地がよくて動きやすい伸縮素材でできているのがあって、これだとデート先がどんなところでも対応できて、とりあえず持っておくのもお勧めだよってことまで教えてくれた。
色々教えてくれながら髪を爽やかにカットしてくれた理容師さんにお礼を言って、高校に行く時に降りる駅の大きな駅前ショッピングモールにやってきた時には、既にお昼前になっていた。
まずは理容師さんから教えてもらったセレクトショップ(服屋さんのことをカッコよくこう言うらしい)に向かう。
ショッピングモールの1階入り口にある大きな案内板で、目的のお店が何階のどこにあるかを確かめていると――、
「あれ、佐々木くん? やっぱり! 奇遇だね♪」
僕は突然背後から女の子に声をかけられた。
「えっ、西沢さん!?」
慌てて振り向いた僕の前にいたのは、当然というかやっぱり西沢さんだった。
っていうか学校の外でわざわざ僕に声をかけてくる女の子は、西沢さんしかいないからね。
それに西沢さんはこの高校最寄りの駅の周辺に住んでいるのだ。
だから休日の駅前ショッピングモールで遭遇しても不思議はなかった。
そしてこちらも当然というか、西沢さんはいつもの見慣れた学校指定ブレザー制服ではなく私服を着ていた。
元が可愛いこともあって、白いブラウスとハイウェストのフレアスカートが、控えめに言って最高に可愛らしい。
(目の前に本物のアイドルがいるみたいだ……)
「えへへ、こんにちは佐々木くん。あれ、髪切ったの?」
そんなアイドルみたいに可愛い西沢さんは、すぐに僕が散髪したことに気付いてくれた。
「朝一で切ってきたんだけど、変かな?」
いざ指摘されると新しい髪形がどうしようもなく不安になってしまって、僕はついついそんなことを尋ねてしまったんだけど、
「ううん、さっぱりしててすごく似合ってるよ。えへへ、男前でいい感じ。グッジョブ♪」
西沢さんは親指をグッと立てながら、にこっと笑って褒めてくれる。
「ありがとう、西沢さんにそう思ってもらえて嬉しいよ」
よかった、髪を短くして正解だった。
急に西沢さんに声をかけられて緊張していた心が、少しだけ楽になる。
だけど、である。
今の僕は八分丈のTシャツに古いジーンズという、大変イケてない格好をしていた。
この姿を西沢さんに見られるのは正直辛いものがあった。
こうならないようにとデート前日に服を買いに来たっていうのに。
よりにもよって西沢さんに出会っちゃうなんて……。
ダサダサ男子として幻滅されたかもしれないと、僕が大いに意気消沈していると、
「で? わたしは?」
西沢さんが上目づかいで尋ねてきた。
「えっと、なにが?」
だけどその短い質問の意味がイマイチわからなくて、僕は聞き返してしまう。
「もう、女の子と会ったらまず最初に服を褒めるのが男子の義務だと思うんだよね。しかもわたしってば佐々木くんの彼女なわけなんです。つまり導き出される答えは?」
指を立てながらわざとらしくほっぺを膨らませる西沢さん。
「あ、うん、そういうことか。えっと……制服じゃない西沢さんは初めて見たからすごく新鮮で……す、すごく可愛いと思う。まるでアイドルみたい。太いヒールのブーツもおしゃれで大人っぽくて、すごくドキドキする」
西沢さんと話していると自然と褒める言葉が出てくることもあるんだけれど。
改めて言ってみてと言われると、やっぱりどこか緊張してしまう僕がいた。
それでもなんとかちゃんと言葉にして感想を伝える。
西沢さんみたいな可愛い女の子にこんなに好いてもらってるんだから、僕も恥ずかしがってないで気持ちをちゃんと言葉にして伝えないといけないって思うから。
「えへへ、ありがとう佐々木くん。嬉しいな」
そして僕に褒められただけで、西沢さんは満開の桜のような笑みを浮かべた。
こんな風に喜んでもらえたんだから、頑張って言って良かったかな。
「それで、西沢さんは今日はどうしたの? 買い物?」
「特にこれってのはなくて、明日のデートに備えて適当にぶらぶら見て回ろうかなって思ったの。佐々木くんは?」
「僕もその、明日に備えてちょっと買い物を……」
デートに来ていく服がないので買いに来た――という理由があまりに情けなさすぎて、僕はつい言葉を濁してしまった。
しかも友達付き合いが少なすぎて遊びに行くこともないから、服を買いに行くための服すらないときたもんだ。
「あ、だったらもう今からデートしちゃわない? 明日まで待つ必要ないと思うんだよね。佐々木くんと色々見て回ってお買い物デートしたいな」
だけど西沢さんは、胸の前で手を合わせながら名案とばかりにそんな風に言ってくるのだ。
「うんと、それはそうかもなんだけど、その、なんていうか……」
「あ、ごめんなさい。もしかして誰かと待ち合わせしてたり? 強引に誘っちゃって、あの、嫌いにならないでね? 佐々木くんと会えてちょっとテンションが上がっちゃって」
西沢さんは笑顔が一転、とても申し訳なさそうな顔をした。
しかもそれだけでなく、しょんぼりと肩を落としているようにも見えて――。
ふと、先ほど理容師のおにーさんから言われた『そこからあとは男は中身で勝負だよ、頑張ってね』という言葉が僕の脳裏をよぎった。
明日のデートで自分が見栄を張って着飾るために、今ここにいる西沢さんに悲しい思いをさせてしまう。
それが男として正しい行動なんだろうか?
心の中で僕はそう自問自答した。
いやそんなことをするまでもなかった。
自分の都合で女の子を泣かせるヤツが、いい男なわけなんてない!
「実はその、恥ずかしい話なんだけど――」
僕は西沢さんに、今日何をしにここに来たのかを正直に告白した。
明日のデートで来ていく服がないから買いに来たってことも。
日曜日に伸ばしてもらったのもそれを取り繕うためだったってことも。
しかも理容師さんに服に関するアドバイスをもらって、教えてもらったお店に行こうとしてたってことも。
僕は西沢さんに正直に伝えたんだ。
すごくダサくて、どうしようもなくカッコ悪くて、泣きたいくらいにイケてなくて。
それでも目の前にいる西沢さんを悲しませることよりは、絶対にいいと思ったから。
すると、
「じゃあやっぱり今日は佐々木くんも予定が空いてるってことなんだよね? だったら一緒にまず服を見て回らないかな?」
西沢さんはおずおずとそんな風に切り出してきたんだ。
「え、いいの? 服も全然デートらしくないこんなのなのに」
僕は思わず尋ねてしまった。
「そんなの全然気にしないよ? 佐々木くんと一緒にいたいほうが優先だもん。それにわたしとのデートのために服を買おうとしてくれたんでしょ? その気持ちがわたしにはすごく嬉しいんだ」
「西沢さん……! ありがとう」
「ちょ、ちょっと佐々木くん、なんで泣きそうになってるの!?」
「ごめん、西沢さんの清らかすぎる心に感動して、感極まって思わず涙ぐんじゃった……」
「ふええっ!?」
「本当になんていい子なんだ西沢さん……もはやリアル天使じゃないか……」
僕は非力で冴えない底辺男子だ。
たまたま偶然西沢さんのおばあちゃんを助けたことがきっかけで西沢さんと縁ができて。
さらになんの奇跡か、好意を持ってもらっただけのその他大勢の一人だ。
でも、それでも。
そんな吹けば飛ぶようなミジンコみたいな僕だったとしても、西沢さんを悲しませることだけは何があっても絶対にしないんだと、僕は改めて心に誓っていた。
「えっと、あの、ほら、ね? 天使かどうかは置いといて、っていかわたしは完全に人間だけどね? 一緒に服を選べば、佐々木くんの服の趣味までわたし好みになってもらえるかもでしょ? ほらね、わたしにもちゃんと利益があるんだから」
「そういうことにも……ならなくはないのかな? 西沢さんに色々アドバイスしてもらえるなら僕も嬉しいけど。正直ファッションは全然わからなくて困り果ててたんだ」
この流れで西沢さんの趣味に合う服を西沢さん本人に選んでもらえれば、この先デートの服装選びで失敗することはなくなる。
なにせ今日買った服を着ていけばいいわけだし、今回正直に伝えたおかげでこれから先は、服を買う時に西沢さんに気兼ねなくどれがいいかを聞けるようになったのだ。
しかもオシャレな西沢さんの視点が入れば、僕が一人で選ぶよりもはるかにいい結果になるのはこれはもう間違いないわけで。
「じゃあ今から佐々木くんとお買い物デートだね」
「うん。そういうことなので、今日はアドバイスの程なにとぞよろしくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんとなくぺこぺこと頭を下げ合った僕と西沢さん。
「……今の僕たちなんか変だったよね?」
「わたしも思った。なんで2人で向かい合ってぺこぺこしてるのかなって」
2人で顔を見あわせて噴き出すように笑い合う。
しばらく笑い合ってから西沢さんが言った。
「じゃ、最初は理容師さんに教えてもらったっていうショップに行こっか? どこのお店?」
「えっと4階のこのお店なんだけど」
僕はさっき見つけていた、案内板の4階の一画を指差した。
「ふんふんここね、メンズの定番だもんね」
「あ、知ってるんだ。じゃあ西沢さんも行ったことあるの?」
「残念ながらここは女性向けはほとんど取り扱ってないので、入ったことはないんです。知ってるのは名前だけかな」
それを聞いて少しだけホッとした僕がいた。
他の男子と買い物に来たことがあるのかな、とかちょっと思ってしまった器が小さすぎる自分にため息をつきたくなる。
ああこれが嫉妬って感情なんだな。
『僕なんか』――それが口癖になって多くのことから目を背け、色んなことから逃げるようになって以来久しく忘れていた、それは良くも悪くも人間らしい強い負の感情だった。
今の僕は、本当に久しぶりにそんな感情を抱いていたのだった。
とまぁそういうわけで。
西沢さんとの不意の出会いによって、ショッピングモールでの突然のお買い物デートが始まることになった――。
僕と西沢さんはどちらからともなく自然と手を繋いでエスカレーターに乗る。
4階で降りてまずは目当てのお店に入ったんだけど──。
「うぐ、同じような商品がいっぱいある……」
僕は一見どれも同じに見える、所狭しと並べられたたくさんの服に圧倒されてしまっていた。
何がどう違うかをパッと理解できず、僕はカタカナで書かれた専門用語の多い説明を必死に読みながら、内心途方に暮れてしまう。
すると。
「伸縮性のあるスキニーパンツならこの辺りかな、これとか、それとかがそうだよー」
西沢さんはパッと見てどこに何があるかを把握すると、女の子らしい柔らかい手で僕の手を引いて売り場まで案内してくれたのだ。
しかも一瞬ふらっといなくなっては、
「ねぇねぇこういうのはどう? 柄物のシャツだから最初の予定とはちょっと違うんだけど、着るだけならタダだしせっかくだから試着してみない?」
そんなことを言っては、僕に似合いそうなのを色々と見つけて来てくれるのだ。
「着てみたけど……どうかな?」
「うん、すごく似合ってるよ! 白もいいけど柄物も捨てがたいなぁ。そうするとパンツの色はあっちのほうが合いそうかな?」
僕よりも真剣に、僕のためにどの服が似合うかコーデを悩んでくれる西沢さんに、僕はどうしようもない愛おしさを感じずにはいられなかった。
しかも、
「佐々木くんって華奢だから、スキニーとかで細めのラインにするとすごくスラッと見えてカッコいいね♪」
それはもう、すごく嬉しそうに褒めてくれるんだもん。
「ありがとう、褒めてもらって、その、嬉しいよ」
「あ、佐々木くん照れてるでしょ? 顔真っ赤だよー」
「だってカッコいいとか言われたらそりゃあ照れるでしょ? そんなこと全然言われたことなかったし」
僕の人生とはまったく無縁の評価を、よりにもよって学園のアイドル西沢さんからしてもらったのだ。
これで照れるなというほうが無理というものだろう。
「もう、みんな見る目がないんだね。でもそのおかげでわたしが佐々木くんとカレシカノジョになれたんだけどね。えへへ、なんちゃって?」
なんてことを上目づかいではにかみながら言ってくる西沢さん。
もう可愛すぎて可愛すぎて、服を選んでいる最中だってことも忘れて僕はついついその笑顔に見とれてしまうのだった。
そんな感じでドキドキしながら一緒に服を選んでいたんだけど、
「じゃあ次のお店に行こっか」
店内の服をあらかた見て回ったところで、西沢さんが唐突にそんなことを言った。
「あれ、ここで買わないの? これとか超お勧めって言ってくれて、僕もかなりその気だったんだけど」
「お店によって同じMサイズでも微妙に大きさが違ったりするの。だから似たようなのがある時は、他のお店でも実際に試着してサイズを確かめたほうがいいんだよね。今日買うのはベーシックなアイテムだから、いくつかお店を回ってなるべく体形に合うのを買ったほうがいいかなって思うんだ」
西沢さんはそんなアドバイスをしてくれたんだけど、
「え、服のサイズって共通じゃないの? MとかSとかLってどこも同じ表記だよね?」
僕はつい聞き返してしまった。
だってそうでしょ?
そのためのサイズ表記だよね?
「うーんとね、大雑把には同じなんだけど、でも同じMサイズでもブランドでかなりバラバラなんだよね」
「そうなんだ」
「ブランドで胴まわりとかも結構違ってくるし、例えば肩幅とか手の長さって人それぞれ違うでしょ?」
「確かにそうだね」
「だからブランドごとに特に対象としてる体形っていうのがあって、どこが広めとかどこが長めとか、そういう個性があるの」
「へぇ、なるほどね。言われてみれば納得だよ」
「だから自分の体格にあったブランドを選ぶのって結構大事なんだよね。同じサイズでそっくりな服でも、フィット感とか動きやすさとかが全然違ってくるから」
「そうだったんだ。そんなこと今西沢さんに教えてもらうまで全然知らなかったよ」
たしかによくよく考えてみれば。
例えばアニメだって「ロボットもの」って一くくりに言っても、壮大な宇宙戦争史を描いたガン〇ムシリーズから、近未来リアル戦争感が素敵なフルメ〇ル・パニック。
特撮の流れを色濃く引いてるグリ〇ドマン、さらには軍師系主人公が魅力のコードギ〇スまで幅広いもんね。
「そういうわけなので、まずはいったん目星だけつけておいて、次のお店を見に行こ?」
「うん、了解。でもそっか。女の子が色々見て回るのにはこういう理由があったんだね。すごく納得できた気がする。教えてくれてありがとうね西沢さん」
女の子は買い物が長い――というのはネットでもよく見る男女の違いあるあるだけど、ちゃんと理由があったんだね。
僕はいろいろ詳しくて、説明もすごく上手な西沢さんにとても感心しきってしまって、ついじっとその顔を見つめてしまった。
目鼻立ちが整っていて、小顔で、透きとおるように白い肌。
100人に聞けば100人全員が可愛いと言うこと間違いなしの西沢さんの顔は、どれだけ見ていても飽きることはない。
「な、なに? どうしたの? 急にそんなに見つめられると照れちゃうんだけど……」
とかなんとか顔を赤くして上目づかいで言ってくる西沢さんは、それはもう可愛かった。
「ご、ごめん、つい見とれちゃって」
「あ、うん……ありがと……えへへ。なんか恥ずかしいね」
胸の奥がキュッとなる甘酸っぱい雰囲気に、僕と西沢さんはお互い顔を赤らめながら、ついに視線を合わせていられなくなってプイっと顔を逸らしてしまったのだった。
とまぁそんな感じで。
説明上手・話し上手な西沢さんにあれこれ教えてもらいながら、学校の話なんかもしつつ服を選ぶ楽しい時間は、流れるように過ぎていった。