「はぅ、緊張した……クラスのみんながこっちを見てるんだもん」
「そりゃあ学園のアイドルの西沢さんだからね。それが僕にお弁当でしょ? 興味を持つなってほうが無理なんじゃないかな?」
僕だって西沢さんが急に特定の男子と仲良くしだして、その男子にお弁当を作ってきたら「ええ、なんで! いったい何があったの?」って思うだろうし、羨ましくてつい見ちゃうはずだもん。
「むー、わたしアイドルなんかじゃ全然ないのに……普通なのに……」
「ええっ? まさにアイドルって感じだと思うけどなぁ。みんなに好かれてるし、それにか、か、可愛いし……」
僕は思ったままのことを言葉にした。
最後の一言なんかほんと頑張った。
僕がこんな浮ついたセリフを言うのは似合ってない――そんなことは僕が一番わかっている。
でも西沢さんがこれだけ好意を伝えてくれるんだから、僕もうじうじと恥ずかしがっていないで、ちゃんと好意を伝えないといけないって思ったんだ。
少しずつでいいから、西沢さんの隣にいても笑われない男子に僕はなりたい。
「そんなこと……ないから……ないんだもん……」
だけど西沢さんはちょっと沈んだ声でそれをはっきりと否定した。
それが僕には、なんとなくこの話はしたくないっていう西沢さんの意思表示に見えたのだった。
もしかしたら西沢さんは自分が学園のアイドルって呼ばれている現状を好ましく思ってないのかもしれない。
理由はわからないけど、だったらこの話はもうしちゃいけないよね。
人の嫌がることはしない、小学生でもわかることだ。
もちろん底辺男子からどうにか脱却しようと藻掻いている僕でも当然わかる。
ましてやそれが僕を好きになってくれた西沢さんの希望なら、なおさらのことだった。
「うわっ、もうこんな時間。このまま話してたらお昼休み終わっちゃいそうだから、そろそろ食べない? あそこのベンチとかどう?」
だから僕は中庭に立っている大きな時計を見上げると、明るい声で元気よく、ちょっとわざとらしく言った。
大きな声を出すのはすごく苦手なんだけど、どんよりとした空気を切り替えようと頑張ってみる。
だってせっかく西沢さんが――僕の初めての彼女が手作りのお弁当を作ってきてくれたんだ。
初めてのお弁当は楽しい気持ちで食べたいもんね!
西沢さんもそんな僕の意図を察してくれたのか、すぐにいつものふんわり優しい笑顔に戻った。
そのまま僕たちは連れ立ってベンチに腰掛ける。
ベンチに座ると西沢さんがすぐにお弁当を開いてくれた。
「見て見て、佐々木くんの好きな玉子焼き、綺麗に焼けたんだ。ほら、こんがりきつね色♪」
途端に、色とりどりの見目鮮やかなおかずが僕をお出迎えしてくれる。
「うわ、ほんとだ、すごくきれいに焼けてるね。プロが作ったみたいだよ」
「えへへ、ありがとうございます。実は会心の出来でした。朝のわたし、グッジョブ!」
「から揚げにウィンナーにサラダに、他もすごく美味しそうだね」
「から揚げはその、実は冷凍食品なんだけど……でもでも他は手作りだからねっ!」
せっかく手作りのお弁当なんていう人生最高レベルのサプライズプレゼントを持ってきてくれたのに。
申し訳なさそうに冷凍唐揚げだと言って肩をすぼめて小さくなる奥ゆかしい西沢さんに、僕はもうどうしようもなく愛おしさを感じてしまって――、
「作ってきてくれただけでも嬉しいのに、こんなに美味しそうなんだもん、僕は今日のこと一生忘れないよ。ありがとう西沢さん、本当に嬉しい──ってさっきから同じことばっかり言ってるけど。ごめんね、ボキャブラリーが貧困で……」
僕の口からは自然とそんな言葉がこぼれ出ていた。
心の中で思っていたことがスルッと勝手に言葉になってくれていた。
勇気を出して伝えようなんて思わなくても、僕の口からは今、自然と西沢さんへの思いがあふれ出てきたのだ。
まぁその。
ボキャブラリーが貧困すぎる点に関しては、他人とのトークスキル&経験値が圧倒的に不足し過ぎているので仕方ないと割り切るしかないけれど。
(でもなんだか大きな一歩を踏み出せた気がする―-)
「ううん、何回言われても嬉しいよ。今日は早起きして作ってきて良かった~」
僕のそんな率直な感想を聞いた西沢さんは、安心したように胸に手を当てて微笑んだ。
「じゃあ早速食べてみるね」
「はい、どうぞ召し上がれ」
「そりゃあ学園のアイドルの西沢さんだからね。それが僕にお弁当でしょ? 興味を持つなってほうが無理なんじゃないかな?」
僕だって西沢さんが急に特定の男子と仲良くしだして、その男子にお弁当を作ってきたら「ええ、なんで! いったい何があったの?」って思うだろうし、羨ましくてつい見ちゃうはずだもん。
「むー、わたしアイドルなんかじゃ全然ないのに……普通なのに……」
「ええっ? まさにアイドルって感じだと思うけどなぁ。みんなに好かれてるし、それにか、か、可愛いし……」
僕は思ったままのことを言葉にした。
最後の一言なんかほんと頑張った。
僕がこんな浮ついたセリフを言うのは似合ってない――そんなことは僕が一番わかっている。
でも西沢さんがこれだけ好意を伝えてくれるんだから、僕もうじうじと恥ずかしがっていないで、ちゃんと好意を伝えないといけないって思ったんだ。
少しずつでいいから、西沢さんの隣にいても笑われない男子に僕はなりたい。
「そんなこと……ないから……ないんだもん……」
だけど西沢さんはちょっと沈んだ声でそれをはっきりと否定した。
それが僕には、なんとなくこの話はしたくないっていう西沢さんの意思表示に見えたのだった。
もしかしたら西沢さんは自分が学園のアイドルって呼ばれている現状を好ましく思ってないのかもしれない。
理由はわからないけど、だったらこの話はもうしちゃいけないよね。
人の嫌がることはしない、小学生でもわかることだ。
もちろん底辺男子からどうにか脱却しようと藻掻いている僕でも当然わかる。
ましてやそれが僕を好きになってくれた西沢さんの希望なら、なおさらのことだった。
「うわっ、もうこんな時間。このまま話してたらお昼休み終わっちゃいそうだから、そろそろ食べない? あそこのベンチとかどう?」
だから僕は中庭に立っている大きな時計を見上げると、明るい声で元気よく、ちょっとわざとらしく言った。
大きな声を出すのはすごく苦手なんだけど、どんよりとした空気を切り替えようと頑張ってみる。
だってせっかく西沢さんが――僕の初めての彼女が手作りのお弁当を作ってきてくれたんだ。
初めてのお弁当は楽しい気持ちで食べたいもんね!
西沢さんもそんな僕の意図を察してくれたのか、すぐにいつものふんわり優しい笑顔に戻った。
そのまま僕たちは連れ立ってベンチに腰掛ける。
ベンチに座ると西沢さんがすぐにお弁当を開いてくれた。
「見て見て、佐々木くんの好きな玉子焼き、綺麗に焼けたんだ。ほら、こんがりきつね色♪」
途端に、色とりどりの見目鮮やかなおかずが僕をお出迎えしてくれる。
「うわ、ほんとだ、すごくきれいに焼けてるね。プロが作ったみたいだよ」
「えへへ、ありがとうございます。実は会心の出来でした。朝のわたし、グッジョブ!」
「から揚げにウィンナーにサラダに、他もすごく美味しそうだね」
「から揚げはその、実は冷凍食品なんだけど……でもでも他は手作りだからねっ!」
せっかく手作りのお弁当なんていう人生最高レベルのサプライズプレゼントを持ってきてくれたのに。
申し訳なさそうに冷凍唐揚げだと言って肩をすぼめて小さくなる奥ゆかしい西沢さんに、僕はもうどうしようもなく愛おしさを感じてしまって――、
「作ってきてくれただけでも嬉しいのに、こんなに美味しそうなんだもん、僕は今日のこと一生忘れないよ。ありがとう西沢さん、本当に嬉しい──ってさっきから同じことばっかり言ってるけど。ごめんね、ボキャブラリーが貧困で……」
僕の口からは自然とそんな言葉がこぼれ出ていた。
心の中で思っていたことがスルッと勝手に言葉になってくれていた。
勇気を出して伝えようなんて思わなくても、僕の口からは今、自然と西沢さんへの思いがあふれ出てきたのだ。
まぁその。
ボキャブラリーが貧困すぎる点に関しては、他人とのトークスキル&経験値が圧倒的に不足し過ぎているので仕方ないと割り切るしかないけれど。
(でもなんだか大きな一歩を踏み出せた気がする―-)
「ううん、何回言われても嬉しいよ。今日は早起きして作ってきて良かった~」
僕のそんな率直な感想を聞いた西沢さんは、安心したように胸に手を当てて微笑んだ。
「じゃあ早速食べてみるね」
「はい、どうぞ召し上がれ」