「とにかく可愛い西沢さん!」 勇気を出してお婆さんを助けたら、学園のアイドルが陰キャなボクの彼女になりました。 ~ドラマみたいなカッコいい恋じゃない。だけど僕は目の前の君に必死に手を伸ばす~

「佐々木くん、今日は放課後付き合ってくれてありがとうございました。それと不束者ですが、これからよろしくお願いします」

「あ、えっと、こちらこそよろしくお願いします」

 僕たちはなんだかちょっと変な感じに、ぺこりぺこりと頭を下げあった。
 そして、

「良かったら、その、家まで……お、送ろうか?」

 僕は勇気を振り絞って言ってみた。
 女の子を家まで送るのはやっぱり彼氏の務めじゃないかなって思ったから。

「気持ちは嬉しいけど、うちってここから結構遠いんだよね。もう暗くなってきてるし、行ってまた戻ってきたらかなり遅くなっちゃうから。だから気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう佐々木くん」

「ううん、全然。言ってみただけだから気にしないで」

 勇気を出したのに断られてしまい、正直ちょっとだけ残念だった。
 でも実を言うと、僕も晩ご飯までには家に帰らないといけなかったりする。

 高校生になって自由度が格段に上がったとはいえ、まだまだ子供だ。
 両親を心配させないためにもあまり夜遅くまでは遊び歩けなかった。

「あ、そうだ。後でラインしてもいいかな? 宿題終わってからだから10時過ぎくらいになるかもなんだけど」

 だから西沢さんの提案を聞いて僕はとても嬉しくなった。
 だって家に帰ってからも西沢さんと繋がっていられるのだから。

「もちろんだよ。じゃあ僕もそれまでに宿題終わらせて連絡待ってるね」

「うん! それじゃあ佐々木くん、また明日学校でね、ばいばい」

「ばいばい西沢さん」

 すっかり日が暮れてしまい、太陽に代わって人工の光で彩られた駅前で。
 ぼくたちは小さく手を振り合ってから別れた。

 さっきまでの素敵すぎる時間に名残惜しさを感じて、改札を抜ける時に振り返ってみると、同じように振り返ってこっちを見ている西沢さんと目が合って。
 だから僕たちはもう一度手を振り合ったのだった。


 差出人不明の手紙から始まった放課後の一大イベントは、こうして幕を閉じたのだった。


 帰宅後、思い立ったが吉日で早速僕は筋トレに挑戦してみた。

 といっても、帰宅部歴が長い僕の筋力は高校生男子の平均を大きく下回る。
 そのため腕立て・腹筋・背筋・スクワットを20回ずつなんとかこなしただけだった。

 しかもたったそれだけで、
「ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」
 僕の貧弱な身体はへとへとになってしまっていた。

 それでも、僕のためにダイエットを頑張るのだと言ってくれた西沢の素敵な笑顔を思い出すと、ものすごくやる気が湧いてきて。

 筋トレに限らずどんなことでも少しでもいいからやれることをやって、西沢さんに相応しい男になれたらなと僕は思ったのだった。

 その後、ご飯を食べてお風呂に入って宿題を終えて。
 夜10時をちょっと過ぎたころにブーンとスマホが震えた。

 約束通り西沢さんからのラインだ。


彩菜
『こんばんは』
『今日はありがとう』
『もう宿題終わってる?』



『終わったけど』
『数学がちょっと難しかった』


彩菜
『わかる~』
『高校の数学って難しいよね』
『難易度が急上昇』



『だよね』


彩菜
『でも勉強の話はやめたいかも』
『楽しい話しよ!』


『ごめん(笑)』


彩菜
『ねぇねぇ』
『佐々木くんって』


『なに?』


彩菜
『いつも予鈴ギリギリだよね』
『明日もいつも通りに来るの?』


『なんで?』


彩菜
『朝佐々木くんとお話したいなって』
💖


『じゃあ明日からは』
『フツ電で行くよ』


彩菜
『仏伝って?』
『フツ電って?』


『教室に予鈴ギリギリにつくのがギリ電で』
『1本前の普通の時間につくのがフツ電』


彩菜
『そんな風に言うんだ!』
『知らなかった』
『わたし徒歩通学だから』
👟


『そっか』
『電車乗らないと知らないよね』
『だから明日は』
『予鈴15分前につくはず』


彩菜
『りょ!』
『待ってるね!』
『遅刻厳禁!』
😆


 スマホを使って西沢さんとメッセージをやり取りする。

 スマホの中での文字やスタンプだけのやり取りは、視線を合わせて面と向かって話すのと違って、かなりスムーズにできたんじゃないかと思う。

 もちろん相手が西沢さんだってのはどうしても意識しちゃうから、あくまで比較の話ではあるんだけれど。

 なにせ僕ときたら今日の今日まで、女の子とろくに話したことすらなかったぼっち底辺男子だったのだ。

「でも明日からは彼氏彼女として西沢さんと会うわけだよね。西沢さんが僕なんか――僕と付き合ってるってわかったらみんな驚くよね。ううっ、そう考えると今から緊張してきた……」

 僕たちは間違いなく注目の的になる。
 まだ明日にもなっていないというのに考えるだけでプレッシャーを感じてしまい、僕は思わず胃の辺りを抑えてしまった。

「いやでも。学校内ではそこまではカップルっぽい振る舞いはしないかな?
 西沢さんっていつも女子グループで静かに話をしてるしね」

 だから少し話すくらいで、そこまで彼氏彼女をアピールはしないんじゃないかな。
 ――などと思っていた時期が僕にもありました。
 翌朝。

 いつものギリ電ではなく1本早いフツ電に乗るべく、いつもより15分早く目覚ましをセットした僕は。
 目覚ましが鳴った瞬間に飛び起きると、まず最初に昨日のことが夢じゃなかったかどうかを自問した。

「冴えない底辺カースト男子が、学園のアイドルに呼び出されて屋上で告白をされる──妄想をこじらせたにしても痛々しすぎる」

 一晩たって改めて考えてみると、とても現実のこととは思えなかった。

 もしかしたら昨日の僕はすごくリアルな白昼夢か、やばい幻覚でも見ていたのかもしれない。
 いやそもそも今この瞬間までの一連のなにもかも全てが、寝ている間に見ていた夢だったのかもしれなかった。

 もしこんな話をアニメで見たら「こんなのあるわけないじゃん(素)」と寒々しく突っ込みつつも、最終回まで主人公に自分を重ねてガッツリ視聴する、ってくらいにありえなかった。

「あっとそうだ、スマホ。西沢さんと連絡先を交換してたはず」

 僕は机のすみで充電していたスマホを急いで取るとラインを立ち上げた。
 するとそこには白黒猫のちび太のアイコンと『彩菜』という名前があって――。

「ちゃんとある……友だちリストに西沢さんが登録されてる……ってことは、僕は本当に西沢さんに告白されたんだ」

 昨日の放課後のあれこれを噛みしめるように追憶しながら、僕はだらしなく顔をにやけさせてしまった。

 だって仕方ないでしょ?
 今どきアニメでもなさそうな望外の幸運が、他の誰でもない僕の身に降りかかったんだから。

「西沢さんの手、柔らかかったな……」
 手をわきわき動かすとまだ握った感触が残っている気がする。

「って、だめだ。ゆっくりしてたら早起きした意味がなくなっちゃう」
 僕はすぐに朝の準備に取り掛かった。

 寝癖がないかを入念にチェックしながら、いつもよりも丁寧に前髪をセットして。
 さらに玄関にある姿見でいつもはしない制服チェックまでしっかり行ってから。
 僕は普段より15分早く家を出ると、フツ電に乗って高校へと向かった。

 いつもとは顔ぶれが異なる乗客たちと一緒に3駅揺られて高校の最寄り駅に着き、登校する生徒の流れに乗って校舎へ。
 さらに上履きに履き替えて教室へと向かつた。

「おはよ~」

 教室に入る時に、僕はいつもよりも少しだけ大きな声であいさつをした。

 ほんとはもっと大きな声で明るくあいさつをしたかった。
 ぼそぼそ言うのははやめる、変わるんだって思って勇気を出そうとしたんだけど、気持ちとは裏腹に僕は勇気を出し切ることができなかった。

(でも少しずつでいいから、まずは頑張ることを頑張るんだ)

 だって今までの僕は頑張ることすらしてこなかったから。

 そんな僕に、おしゃべり中の西沢さんが視線を向けてくる。

「佐々木くんおはよう~」

 そして飛び切りの笑顔で言うと、席にカバンを置いた僕のところへとてけてけと近寄ってきたのだ。

 いつもおしゃべりしているグループの女子たちはそんな西沢さんの態度に特に驚いた様子もなく、

「彩菜がんばれー」
「ファイトー」

 とか言って手を振っている。
 仲良しグループには事前に西沢さんから話が通っているみたいだね。

 だけどそれ以外のクラス全員が、西沢さんの突然の行動に大いにざわつき始めた。
 一瞬にしてクラス中の視線が僕と西沢さんに全集中する。

「おはよう西沢さん」

 そんな衆人環視の中で、僕はもう一度挨拶を――だけど今度は西沢さんだけに向かって挨拶をした。

 みんなに見られて緊張しないと言ったら嘘になる。
 でも僕は変わるって決めたから――。

「えへへ、昨日ぶりだね。夜にラインして、その後はすぐに寝ちゃったからまだ昨日の続きみたいな気がするかも」

 西沢さんが嬉しそうに手の平を軽くポンと合わせた。

 ごめん、心の中だけでぶっちゃけさせて。

(向けられる笑顔とか仕草が可愛すぎて、僕もう死にそうなんですけどーーっ!!)
「まぁ僕たち同じ高校で、クラスメイトだからね」

「もう、そういう意味じゃないし。わかってるくせに佐々木くんのいじわる。早く佐々木くんに会いたくて、朝だってすっごく早起きしたのに」

 上目づかいで、わざとらしくぶぅっとほっぺを膨らます西沢さん。

「ご、ごめん。ぼ、僕も西沢さんに会いたかったよ……」

 僕は語尾を若干かすれさせながら、それでもなんとか最後まで言いきった。
 勇気は全然足りてないけど、だけど決してゼロではないのだ。

 西沢さんから気持ちを伝えられたら、僕もちゃんと自分の気持ちを言葉にして返す。
 色々ダメな底辺男子の僕だけど、まずはしっかりと気持ちを言葉で伝えるってことをやっていくんだ。

 コミュニケーションが苦手とかは言ってられない。
 だって西沢さんが向けてくれる気持ちに、僕は真正面から応えたいから。

 ただ、まぁその、ね?
 ここってほら、教室なわけでしょ?

 こんなラブい会話をみんなのいる教室で平然とできる鋼メンタルがもし僕にあったのなら。
 僕は学校カースト1軍のゴールデンルーキーSA☆SA☆KIくんとして、いつでも陽キャデビューできると思うんだよね。

 もちろんそんな鋼メンタルを僕が所持しているはずはない。
 だから『ぼ、僕も西沢さんに会いたかったよ……』という短いフレーズを言葉にするだけで、僕の勇気のライフはゼロになる寸前だった。

 それはさておき。
 挨拶からの短いやりとりを終えた西沢さんが、僕の隣の席にちょこんと腰かけた。

 思えばそこはちょうど西沢さんのグループの女の子の席であり。
 つまりこうやって席を貸すことまで全て、話がついているってことなんだろう。

 身だしなみをチェックする以外に何の準備もせずにのこのこと登校した僕と違って、どうやら西沢さんは準備万端、根回し万全のご様子だった。

 と、そこで僕は小さな違和感に気が付いた。

「あれ、なんだか今日は感じが違うような……?」
 言いながら、なんとなく西沢さんの唇に目がいってしまう。

 昨日、放課後の屋上で西沢さんの顔を至近距離でたくさん見ることができた。
 その時の記憶と比べて、なんとなくだけど唇が艶やかさを増している感じがするような?

「えへへ、正解。リップを変えたんだ~」
「やっぱり。なんとなく大人っぽい気がする、うんすごく似合ってる……と思う」

 頑張って気持ちを言葉にして――やっぱり最後にひよってしまう僕。

 でもね、そんなすぐに自分を変えることができたら誰も苦労はしないと思うし、学校カーストなんて言葉も存在しないと思うんだよ。

「ほんと? 佐々木くんにそう言ってもらえると嬉しいな」
 僕の言葉を聞いて満面の笑顔を向けてくる西沢さん。

(ああ、まるで天使の微笑みだ)

 そんな極上の笑顔を向けられた僕は、ここが教室だと忘れてしまうくらいにその笑顔に見入ってしまって――だけどすぐに現実へと引き戻されてしまった。

「は? どゆこと? 意味わかんないんだけど」
「西沢さんと佐々木、なにあれ付き合ってんの?」
「それはないっしょw」
「でもどう見ても付き合ってるっぽくね?」
「いや佐々木だぞ? ないだろ(笑)」
「美女と野獣ってやつ?」
「野獣ですらねえだろw」
「じゃああれか? 西沢さんが弱み握られて佐々木に脅されてるとか?」
「うわ、ありそう」
「じゃないと考えられないっしょ」

 外野――主にカースト1軍のメンバーたちが、こっちまで聞こえるような隠す気ゼロの大きな声であれこれ好き勝手に言い始めたからだ。

 既に大量の勇気を消費して疲労していた僕の弱い心に、鋭い言葉のナイフが何本も遠慮なく突き立てられた。

「――――っ」
 笑いものにされて心がズタズタに引き裂かれ、思わず教室から逃げ出してしまいたくなる。
 もし西沢さんが居なければきっと逃げ出していたはずだ。

 同時に、すごく酷いことを言われたのに言い返すこともできない、そんな自分が辛かった。
 西沢さんの前なのに、唇をかみしめて下を向いてしまう自分が情けなかった。

 たとえ言葉にできなくともバカにするなと睨みつける――そんなことすらできない気弱な自分が悔しかった。

 だけど、

「むっ!」

 西沢さんが怒った顔で振り向くと、彼らはすぐに視線を逸らして静かになった。

 クラスの中心にいて発言力も高いカースト1軍メンバーたちであっても、2年や3年の先輩からも美少女と認知されている別格の存在である西沢さんには勝てないのだろう。

「あんなの気にしないでね。みんな佐々木くんのことを知らないだけだから」

 そして再び僕を見ると、西沢さんはとびっきりの笑顔でにっこりと笑ってくれたのだ。

「ごめん……ありがとう」

 僕は西沢さんが僕のために怒ってくれたことに、言いようもない嬉しさと安堵の気持ちを覚えていた。

 だけどそれと同時にほんの少しだけ。

 きつい言葉を平気で投げかけられて笑われる底辺男子の僕と。

 誰もが意見を尊重する学園のアイドル西沢さんとの間に存在する断崖絶壁のような大きすぎる差を、これでもかと見せられてしまって。

 僕はほんの少しだけ惨めな気持ちになってしまったのだった。

 もちろんこれは全くの見当違いの感情だ。
 西沢さんは何も言えずに黙るしかできなかった僕の代わりに怒ってくれたのだから。

 なのにそんな心優しい西沢さんにまで愚かにも劣等感を抱いてしまったことに、僕はまた内心落ち込んでしまうのだった。

(僕が西沢さんに相応しい男子になれる日はまだまだ遠そうだな……)


 ちなみになんだけど。
 僕の唯一の友人たる柴田くんは僕の味方をするしない以前に、話しかけるなオーラ全開で猛烈な勢いでスマホにガリガリと文章を打ち込んでいた。

 朝からの僕と西沢さん、さらにはクラスメイトたちとのやりとりを見て小説のインスピレーションが降りてきたんだろうね。
 執筆に集中している時の柴田くんはいつもこんな感じで鬼気迫る様子で、一人の世界に入り込んでしまうのだ。

 でも1つだけアドバイスさせてもらうと、主人公だけは僕とは全然違う人間にした方がいいと思うんだ。
 そこは間違いなく「ウケない」から。

 そしてもう1人。
 カースト1軍メンバーにしてクラス女子のリーダー的存在の東浜(ひがしはま)奈緒さん。

 西沢さんに怒りの表情を向けられて視線を逸らしたカースト1軍たちの中で唯一、東浜さんだけは僕たちのことを鋭い視線でじっと見つめ続けていた。

(なんか東浜さん、まだじっとこっちを見てるんだけど……)

 まぁ東浜さんが興味があるのは、僕じゃなくて西沢さんの方なんだろうけどさ。

 多分だけど、カースト1軍の自分たちが声をかけてものってこなかった西沢さんが、よりにもよって冴えない陰キャ男子と2人で楽しくおしゃべりしてるっていうのが、気になって気になってしょうがないんじゃないかな?

(まぁこうなったら誰かの視線とか気にしてもしょうがないよね。とりあえずは気付いていない振りをしておこう。せっかく西沢さんとおしゃべりするためにいつもより早く学校に来たのに、視線を気にして上の空じゃ意味がないから)

 その後、朝の予鈴が鳴るまで僕は西沢さんとお話をした。

 さっきのアレを吹き飛ばすみたいに、昨日よりももっと明るい笑顔で話しかけてくれる西沢さん。
 おかげで僕の心はすぐに元通りの状態を取り戻すことができた。

 一人で過ごす朝のぼっちタイムが嫌で、いつも学校が始まるギリギリに登校していたのが嘘みたいに、今日の始業までの時間はとても楽しく、そして瞬く間に過ぎていった。


 西沢さんとは朝から休み時間のたびに話をして。
 そうして迎えたカップルとなって初めてのお昼休み。

「佐々木くんってお昼はいつもパンか学食だよね? お弁当作ってきたんだ。一緒に食べようよ」

 僕の席までやってきた西沢さんは、女の子が食べるには明らかに大きすぎるお弁当袋を見せてきた。

 過去に何度かチラ見していた西沢さんのお弁当は、「本当にそれで足りるの?」って思うくらいに小さなお弁当だったんだけど、今日は違う。
 明らかに2人分以上の量がそこにはあった。

「えっ、お弁当を作ってきてくれたの? 僕のために?」

「昨日ほら、好きな食べ物と嫌いな食べ物を聞いたでしょ?」

「そう言えば聞かれたね。もしかしなくてもお弁当のためだったんだね! ありがとう」

「えへへ、そうだったんだ」

 ふんわり柔らかくはにかむ西沢さん。

 昨日の帰り道で好きな食べ物を聞かれたときに、好きな食べ物で相性占いでもするのかなとか思った恋愛感性ゼロの自分が恥ずかしい……。

「あ、早起きしたって言ってたけどもしかして――」

「男の子にお弁当を作るのは初めてだったので、それなりに気合を入れましたから」

 あ、西沢さんがちょっと得意げな顔をしてる。
 ふふん、って感じだ。

 そんな顔もまたすごく魅力的で可愛くて、お弁当を作ってきてくれたことも相まって、僕はもう心が幸せの2文字で溢れてしまいそうだった。

「でも2人分なんて大変だったでしょ?」

「量が増えるだけだから実はそうでもなかったんだけどね。どちらかって言うと、味付けを失敗しないように微調整するのに時間がかかった感じかなぁ」

「やっぱり時間かかってるよね。ありがとう、本当に嬉しいよ」

「わたしも佐々木くんが喜んでくれて嬉しいな。頑張って早起きした甲斐がありました!」

 早起きしてお弁当を作ってくれた西沢さんへの感謝の気持ちを伝えていると、ここで僕はクラスメイトのほとんど全員の視線が、僕と西沢さんに向けられていることに気が付いた。

 そりゃあそうなるよね!

 学園のアイドルと呼ばれ知らない生徒はいない西沢彩菜が、スクールカースト底辺の冴えない男子と朝から仲良さそうに話しているだけでなく。
 なんとお弁当まで作ってきて一緒に食べようと言ったのだから。
 
 スクールカースト1軍をも凌駕する学園のアイドル西沢さんの反感を買いたくないからか、さすがにもう僕をあれこれいう声は聞こえてはこなかったけど。

 代わりにスマホをいじってる人が結構いて、見えないところでさっきのようなやり取りしているんだろうなと、なんとなく感じていた。

「えっと、今日は天気もいいし、中庭にでも行かない?」

 そんな微妙な空気だったので、このまま教室で一緒に西沢さんの手作り弁当を食べるのは恥ずかしすぎて精神が持たなさそうで、だから僕はやや小声で場所の移動を提案する。

 それでやっと西沢さんも、僕たち2人が周囲の視線を集めていることに気が付いたのか、

「はうっ、みんな見てる……い、行こっ?」

 一瞬で顔を真っ赤にすると、僕の手を取って教室を出ていこうとする。

 手を繋いだことでよりいっそう周囲の視線を集めてしまってるんだけど、今の西沢さんはそこまでは思い至らないみたいだった。

 西沢さんの女の子らしい柔らかい手に引かれながら、僕たちは中庭へと向かう。
 
 廊下でも道行く生徒たちから好奇の視線を散々に向けられた僕たちは、衆人環視の昼休みの校内を潜り抜けて、ようやっと穏やかな陽光が差し込む中庭へとたどり着いた。
「はぅ、緊張した……クラスのみんながこっちを見てるんだもん」

「そりゃあ学園のアイドルの西沢さんだからね。それが僕にお弁当でしょ? 興味を持つなってほうが無理なんじゃないかな?」

 僕だって西沢さんが急に特定の男子と仲良くしだして、その男子にお弁当を作ってきたら「ええ、なんで! いったい何があったの?」って思うだろうし、羨ましくてつい見ちゃうはずだもん。

「むー、わたしアイドルなんかじゃ全然ないのに……普通なのに……」

「ええっ? まさにアイドルって感じだと思うけどなぁ。みんなに好かれてるし、それにか、か、可愛いし……」

 僕は思ったままのことを言葉にした。
 最後の一言なんかほんと頑張った。

 僕がこんな浮ついたセリフを言うのは似合ってない――そんなことは僕が一番わかっている。

 でも西沢さんがこれだけ好意を伝えてくれるんだから、僕もうじうじと恥ずかしがっていないで、ちゃんと好意を伝えないといけないって思ったんだ。

 少しずつでいいから、西沢さんの隣にいても笑われない男子に僕はなりたい。

「そんなこと……ないから……ないんだもん……」

 だけど西沢さんはちょっと沈んだ声でそれをはっきりと否定した。
 それが僕には、なんとなくこの話はしたくないっていう西沢さんの意思表示に見えたのだった。

 もしかしたら西沢さんは自分が学園のアイドルって呼ばれている現状を好ましく思ってないのかもしれない。
 理由はわからないけど、だったらこの話はもうしちゃいけないよね。

 人の嫌がることはしない、小学生でもわかることだ。
 もちろん底辺男子からどうにか脱却しようと藻掻(もが)いている僕でも当然わかる。

 ましてやそれが僕を好きになってくれた西沢さんの希望なら、なおさらのことだった。

「うわっ、もうこんな時間。このまま話してたらお昼休み終わっちゃいそうだから、そろそろ食べない? あそこのベンチとかどう?」

 だから僕は中庭に立っている大きな時計を見上げると、明るい声で元気よく、ちょっとわざとらしく言った。
 大きな声を出すのはすごく苦手なんだけど、どんよりとした空気を切り替えようと頑張ってみる。

 だってせっかく西沢さんが――僕の初めての彼女が手作りのお弁当を作ってきてくれたんだ。
 初めてのお弁当は楽しい気持ちで食べたいもんね!

 西沢さんもそんな僕の意図を察してくれたのか、すぐにいつものふんわり優しい笑顔に戻った。
 そのまま僕たちは連れ立ってベンチに腰掛ける。

 ベンチに座ると西沢さんがすぐにお弁当を開いてくれた。

「見て見て、佐々木くんの好きな玉子焼き、綺麗に焼けたんだ。ほら、こんがりきつね色♪」
 途端に、色とりどりの見目鮮やかなおかずが僕をお出迎えしてくれる。

「うわ、ほんとだ、すごくきれいに焼けてるね。プロが作ったみたいだよ」

「えへへ、ありがとうございます。実は会心の出来でした。朝のわたし、グッジョブ!」

「から揚げにウィンナーにサラダに、他もすごく美味しそうだね」

「から揚げはその、実は冷凍食品なんだけど……でもでも他は手作りだからねっ!」

 せっかく手作りのお弁当なんていう人生最高レベルのサプライズプレゼントを持ってきてくれたのに。
 申し訳なさそうに冷凍唐揚げだと言って肩をすぼめて小さくなる奥ゆかしい西沢さんに、僕はもうどうしようもなく愛おしさを感じてしまって――、

「作ってきてくれただけでも嬉しいのに、こんなに美味しそうなんだもん、僕は今日のこと一生忘れないよ。ありがとう西沢さん、本当に嬉しい──ってさっきから同じことばっかり言ってるけど。ごめんね、ボキャブラリーが貧困で……」

 僕の口からは自然とそんな言葉がこぼれ出ていた。
 心の中で思っていたことがスルッと勝手に言葉になってくれていた。

 勇気を出して伝えようなんて思わなくても、僕の口からは今、自然と西沢さんへの思いがあふれ出てきたのだ。

 まぁその。
 ボキャブラリーが貧困すぎる点に関しては、他人とのトークスキル&経験値が圧倒的に不足し過ぎているので仕方ないと割り切るしかないけれど。

(でもなんだか大きな一歩を踏み出せた気がする―-)

「ううん、何回言われても嬉しいよ。今日は早起きして作ってきて良かった~」

 僕のそんな率直な感想を聞いた西沢さんは、安心したように胸に手を当てて微笑んだ。

「じゃあ早速食べてみるね」

「はい、どうぞ召し上がれ」
「まずは会心の出来っていう玉子焼きから……ってごめん、お箸持ってきてないんだけど、僕のぶんのお箸ってあるのかな?」

 僕はお昼は学食に行くつもりだったので、マイ箸を持ってきていない。
 だからお箸があるかを西沢さんに確認したんだけど――、

「はい、あーん♪」

 なぜか西沢さんは玉子焼きをピンク色のマイお箸でつかむと、左手を添えながら僕の口元に差し出してきたのだ――!

「えっ!? あーん!?」

 だから僕の心が驚天動地の事態に陥ってしまったのも、これまた無理はないことだった。

 どうしたものかと混乱しきりな僕の視線は、差し出された玉子焼きと西沢さんの顔の間を何度も行ったり来たり繰り返す。

「え、あれ、なにか変だった? 彼女はお弁当を作ったら彼氏にあーんするものなんだよって教えてもらったんだけど……」

「僕は世間の恋愛事情には極めて疎いんで変かどうかはまったく判断がつかないんだけど。なにさいきなりだったから、とにかくびっくりしたかなって……」

「うっ、ごめんなさい……もしかしてこういうのって嫌だったかな?」

 目を伏せて悲しそうに言う西沢さん。

「まさか、そんなことないよ! ほんといきなりだったから、単に心の準備ができてなくてちょっとビックリしただけなんだ」

「気使ってない……?」

「全然ぜんぜん! ちょっと恥ずかしいけど、だけど西沢さんにあーんしてもらえてすごく嬉しいから!」

 偽らざる本心だった。
 西沢さんみたいな可愛い女の子にお弁当を作ってもらえただけでなく、あーんまでしてもらえるだなんて。
 僕の人生は間違いなく今が絶頂期だ。
 そんなの嬉しくないはずがなかった。

「ならよかった」

「ちなみになんだけど、誰から教えてもらったの? いつも仲良く話してるグループの女の子から?」

「ううん、おばあちゃんから聞いたんだ。そういうのがナウでヤングなハイカラアベックのトレンドなんだって」

「ハイカラ? アベック? なにそれ英語?」

 突然出てきた見知らぬ横文字に、僕は少しだけ戸惑ってしまう。

「カップルのことをアベックって言うのがハイカラ、えっとおしゃれなんだって。ほら野球でもアベックホームランとか言うでしょ?」

「ごめん、野球――というかスポーツはあまり詳しくないんだ。西沢さんは野球見るの? なら僕も今度見てみようかな? お勧めのチームとかあったら教えてくれないかな?」

「わたしも見ないんだけど、昔おじいちゃんが生きてた頃は、おばあちゃんの家に行くとよくおじいちゃんがメジャーリーグを見てたんだよね。だからわたしもイチローとか松井とか城島とか、あとは藤川とか藪とか井川とかいろいろ知ってるよー」

「あ、その人知ってるかも。イチローはドラマにも本人役で出るくらい有名だったんだよね」

 いくらスポーツには縁のないボクでも一世を風靡したメジャーリーガーの名前くらいはさすがに知っている。
 他の選手の人は知らなかったけど、その人たちもきっとメジャーリーガーな人たちなんだろう。
 あとでスマホで調べてみよう。

 ――というやり取りを経たのち、ついに僕はあーんしてもらうために大きく口を開けた。

 僕の口の中に綺麗なキツネ色をした玉子焼きを、西沢さんがそっと差し入れてくれてくれて――、

(もぐもぐ……)

「………………うううぅんんっっ????」
 しかし僕は、食べてすぐに僕は何度も目をぱちくりとさせてしまっていた。

 何度も何度も口の中で玉子焼きを味わって、自分の味覚が変になっていないことを確かめる。

 でもちゃんと卵の味は感じている。
 僕の味覚は極めて正常だった。
 
 でも、な、な、な……なんだこれ!?
 いやほんとなんだこれ!?

(全然ちっとも甘くないんだけど!? わずかにしょっぱいだけで甘味はゼロなんだけど!?)

「どうかな佐々木くん? 口に合うといいんだけど……」
「えっ!? あ、うん、えっと……」

「うんうん」
 西沢さんは神妙な面持ちで僕の反応をうかがっていた。

 でも明らかにそわそわワクワクしている。
 明日の遠足を楽しみにしている小学生って感じを隠しきれていなかった。

 西沢さんがそんな様子だったから、僕は言葉をとてもとても、とてつもなく慎重に選んでから言った。
「なんて言えばいいのかな……一言では言い表しにくいんだけど……」

「うんうん」

「素材の味をよく生かした、天然かつ素朴な味わいって言うのかな? 塩味が玉子の味をしっかり引き立ててくれてて、これはこれで悪くないと思うな~」

「? 甘すぎるのは苦手って言ってたから甘くし過ぎないようにしたんだけど、もっと甘い方が良かったかな?」

 僕の感想に西沢さんが首を傾げた。
 どうやら期待していた感想とは少々違うようだった。

「えっと、その、甘さについてなんだけどさ? えっとね? ちょっと基本的なことを聞きたいんだけど」

「なぁに? なんでも聞いて?」

「ほんと確認だから、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……この玉子焼きってさ? 砂糖って入ってる?」

「え、お砂糖? もちろん入ってるよ? 佐々木くんが甘い玉子焼きが好きだって言ってたから、普段より甘々にしましたから」

 僕の質問に西沢さんは上機嫌で答える。

「そうなんだ? でもうーん……実はその、まったく甘くないんだよね、全然、ちっとも、これっぽっちも」

「そんなまさかぁ。すごく気合入れて砂糖の量を調整したんだもん。わたしの分をまず先に作って味見して砂糖と塩の加減をチェックしてから、佐々木くんの分の玉子焼きを焼いたんだもん――あっ」

 そこで西沢さんが口を開けたままピシリと固まった。

 さっきまでの笑顔が一変、泣きそうな顔で酸欠気味の金魚みたいにパクパクさせはじめる。

「ええっと、もしかしてなにか思い当たることでもあったり……?」

 もう完全に涙目になってしまっている西沢さんをヘタに刺激しないように、僕は静かな声で優しく問いかけた。

「さ、佐々木くんの玉子を割った時にね? 黄身が2つある双子玉子だったの。わわっ、珍しいな。しかも佐々木くんにお弁当を作る時にだなんて、今日は良いことあるかもって思って喜んだんだけど……」

「へぇ、それは確かに珍しいよね。玉子焼きじゃなくて目玉焼きにしたくなるかも」

 そうしたら一つの玉子で2つの目玉焼きができてお得だもんね。

「そうなの、わたしはその時まさにそう思ったの。それでそのことに気を取られてて砂糖を入れなかった気がするような、しないような。するような、しないような……はい、入れ忘れました……砂糖を入れた記憶がないです……」

 西沢さんは蚊の鳴くような小さな声でそこまで言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「あ、えっと……」

 僕もなんと声をかけたものかとかける言葉に困ってしまった。

 やらかした理由はなんとなくわかる。
 玉子焼きと違って目玉焼きを焼くときには砂糖も塩も入れないから、きっと目玉焼きって言葉に引っ張られちゃったんだろう。

「ううっ、わたしって昔からちょっと抜けてたところあって……特に大事な時に失敗するんだよね……」

「そう言えば昨日そんなことを言ってたよね。テストで解答欄がずれてたこともあったんだっけ」

 昨日の帰り道で西沢さんと話した会話を思い出す。

「うん……今日もよりにもよって、佐々木くんが楽しみにしてた玉子焼きに砂糖を入れ忘れるだなんて……ぐす……」

 西沢さんはよほどこの失態が辛かったのか、悲しみのあまり鼻をすすり始めてしまった。

 でもそっか。
 そういうことだったのか。

「西沢さんは大事な時に限って失敗するんでしょ? だったらよかったかな」

 だから僕はそう言ったんだ。

「なんでよ、全然よくないもん……わたしのバカ……バカバカ……」

「だってさ? この玉子焼きを作ることは、西沢さんにとってテストに負けないくらい大事なことだったってことでしょ?」

「あ……」

「西沢さんにそこまで大事に思ってもらえてるってわかって。だから僕は今すごく幸せなんだ。ありがとうね西沢さん。だからもう泣かないで」

「佐々木くん……今すっごくキザなこと言ってるよ?」
「うぐっ……わかってるよ、こんなセリフは僕に似合ってないことくらい」

 でも早起きしてお弁当を作ってくれた西沢さんをこれ以上は悲しませたくないって思ったら、自然と言葉が湧き上がってきたんだ。

「でもすごくカッコよかった。胸がドキドキしてキュンてきたもん。佐々木くんはやっぱり優しくて素敵な人だなって思った」

 そう言った西沢さんはまだ少し目が赤かったし、笑顔はぎこちなかったけど。
 それでも立ち直りつつあるのが見て取れた。

「じゃあ続きを食べさせて欲しいかな。昼休みもだいぶ過ぎちゃったし、あーん」

 僕が口を開けると、西沢さんが驚いたような顔をする。

「でも、お砂糖が入ってないし……あ、そうだ、わたしのと交換すればいいんだよね!」

 そう言って西沢さんは自分のお弁当箱に入っている玉子焼きを取ろうとする。
 だけど――。

「ううん、西沢さんが僕のために作ってくれたその玉子焼きを食べたいんだ」

「でもこっちはお砂糖を入れ忘れてるし……ほら、わたしのお弁当に入っている方はちゃんと甘くできてるから。そっちのほうが絶対美味しいもん」

「美味しいは美味しいかもだけど、それでも僕は西沢さんが一生懸命気持ちを込めて作ってくれた、そっちの甘くない玉子焼きの方を食べたいんだ」

「佐々木くん……」

「それにさ、そっちのほうが一生の思い出になりそうじゃない? 甘い玉子焼きはまた今度食べられるかもしれないけど。この甘くない玉子焼きは多分もう2度とお目にかかれないよね。だから僕はこっちの玉子焼きを食べたいな」

 女の子の手作り弁当を食べさせてもらって。
 さらにちょっとしたアクシデントまで起こるだなんて。
 昨日までの僕の平凡以下の人生じゃとても考えられなかったことだ。

 それもこれも全部、西沢さんが告白してくれたおかげで。
 そんな西沢さんの思いがいっぱいに詰まった玉子焼きを、僕は食べたかったのだ。

「じゃあ提案なんだけど、半分こしない? 美味しい玉子焼きも作れるんだってことはちゃんとわかってもらわないと、わたしだって納得いかないもん。だから半分こ、ね?」

「そうだね、うん。半分こしよっか」
「うん! それにそっちのほうがカップルっぽいもんね♪」
「えっと、あの……うん」

 とまぁこうして。
 僕と西沢さんは2つの玉子焼きをそれぞれ半分こして食べあった。

 甘い玉子焼きも甘くない玉子焼きも、もちろん他の料理もどれを食べてもとても美味しかった。

 トマトやレタスに彩られたポテトサラダも。
 目と口までついた可愛いタコさんウィンナーも。
 冷凍ものを解凍しただけだって申し訳なさそうに言っていた唐揚げも。
 そのどれもこれもがそれはもう本当に美味しかった。

 なによりすぐそばに西沢さんがいて、「あーん」して食べさせてくれるのだ。

「えへへ、いっぱい愛情を込めましたから……なんちゃって」

 西沢さんは冗談っぽく言ってくるけど、一人で食べる学食での食事と違って、触れあえる距離に西沢さんがいてとびっきりの笑顔を向けてくれることは、これ以上ない最高のスパイスだった。

 今まで1人で過ごすことが多かった学校のお昼休み。
 それがこんなに楽しいと思えたのは、掛け値なしに生まれて初めてのことだった。

「お弁当を作ってきてくれてありがとね、西沢さん」

 だから僕は、もう何度目かわからない感謝の言葉を伝えたのだった。