「まぁ僕たち同じ高校で、クラスメイトだからね」

「もう、そういう意味じゃないし。わかってるくせに佐々木くんのいじわる。早く佐々木くんに会いたくて、朝だってすっごく早起きしたのに」

 上目づかいで、わざとらしくぶぅっとほっぺを膨らます西沢さん。

「ご、ごめん。ぼ、僕も西沢さんに会いたかったよ……」

 僕は語尾を若干かすれさせながら、それでもなんとか最後まで言いきった。
 勇気は全然足りてないけど、だけど決してゼロではないのだ。

 西沢さんから気持ちを伝えられたら、僕もちゃんと自分の気持ちを言葉にして返す。
 色々ダメな底辺男子の僕だけど、まずはしっかりと気持ちを言葉で伝えるってことをやっていくんだ。

 コミュニケーションが苦手とかは言ってられない。
 だって西沢さんが向けてくれる気持ちに、僕は真正面から応えたいから。

 ただ、まぁその、ね?
 ここってほら、教室なわけでしょ?

 こんなラブい会話をみんなのいる教室で平然とできる鋼メンタルがもし僕にあったのなら。
 僕は学校カースト1軍のゴールデンルーキーSA☆SA☆KIくんとして、いつでも陽キャデビューできると思うんだよね。

 もちろんそんな鋼メンタルを僕が所持しているはずはない。
 だから『ぼ、僕も西沢さんに会いたかったよ……』という短いフレーズを言葉にするだけで、僕の勇気のライフはゼロになる寸前だった。

 それはさておき。
 挨拶からの短いやりとりを終えた西沢さんが、僕の隣の席にちょこんと腰かけた。

 思えばそこはちょうど西沢さんのグループの女の子の席であり。
 つまりこうやって席を貸すことまで全て、話がついているってことなんだろう。

 身だしなみをチェックする以外に何の準備もせずにのこのこと登校した僕と違って、どうやら西沢さんは準備万端、根回し万全のご様子だった。

 と、そこで僕は小さな違和感に気が付いた。

「あれ、なんだか今日は感じが違うような……?」
 言いながら、なんとなく西沢さんの唇に目がいってしまう。

 昨日、放課後の屋上で西沢さんの顔を至近距離でたくさん見ることができた。
 その時の記憶と比べて、なんとなくだけど唇が艶やかさを増している感じがするような?

「えへへ、正解。リップを変えたんだ~」
「やっぱり。なんとなく大人っぽい気がする、うんすごく似合ってる……と思う」

 頑張って気持ちを言葉にして――やっぱり最後にひよってしまう僕。

 でもね、そんなすぐに自分を変えることができたら誰も苦労はしないと思うし、学校カーストなんて言葉も存在しないと思うんだよ。

「ほんと? 佐々木くんにそう言ってもらえると嬉しいな」
 僕の言葉を聞いて満面の笑顔を向けてくる西沢さん。

(ああ、まるで天使の微笑みだ)

 そんな極上の笑顔を向けられた僕は、ここが教室だと忘れてしまうくらいにその笑顔に見入ってしまって――だけどすぐに現実へと引き戻されてしまった。

「は? どゆこと? 意味わかんないんだけど」
「西沢さんと佐々木、なにあれ付き合ってんの?」
「それはないっしょw」
「でもどう見ても付き合ってるっぽくね?」
「いや佐々木だぞ? ないだろ(笑)」
「美女と野獣ってやつ?」
「野獣ですらねえだろw」
「じゃああれか? 西沢さんが弱み握られて佐々木に脅されてるとか?」
「うわ、ありそう」
「じゃないと考えられないっしょ」

 外野――主にカースト1軍のメンバーたちが、こっちまで聞こえるような隠す気ゼロの大きな声であれこれ好き勝手に言い始めたからだ。