こうして屋上で学園のアイドル西沢さんからまさかの告白を受けて付き合うことになった僕は、西沢さんと手を繋いで学校を出た。

 そんなボクらに、帰宅中の生徒たちや部活中の運動部員たちが一様に驚いた視線を向けてくる。

 そりゃあそうだろう。
 アイドル顔負けの美少女と言われ学校内で知らない生徒はいない西沢彩菜が、冴えないモブ男子と手を繋いで下校しているんだから。

 当事者じゃなければ僕だって何事かと二度見三度見するのは間違いない。

「えへへ、ちょっと恥ずかしいね」

 少しうつむき気味の西沢さんが赤い顔でつぶやく。
 でも僕の顔も多分、西沢さんに負けないくらいに真っ赤なことだろう。

「みんな見てるし手を離したほうがいい?」
 西沢さんが嫌がっていたらまずいと思って、僕は小さな声で提案する。

「ううん、大丈夫。恥ずかしいけど、手が繋がってるほうが佐々木くんを感じられて安心するし」

「う……な、ならいいんだけど」

 西沢さんに上目遣いではにかみながら言われた僕は、圧倒的な可愛さの前にドキッとして言葉に詰まりかけて、それでもなんとか返す言葉を紡いだ。

「でももし佐々木くんが嫌だったら離すよ? 隣にいてくれるだけでもわたしは十分嬉しいし」

「ううん、僕も西沢さんと手を繋ぎたいから。じろじろ見られるのは恥ずかしいけど、それでも手を繋いでいたいんだ」

「佐々木くんは優しいね」

 西沢さんが少しだけ強く手を握ってきて、僕もそれをちょっとだけ強く握り返す。

 手を繋いだまま自己紹介をするように、好きな物とか苦手な物を聞き合いっこしながら僕たちは暗くなった通学路を歩いていった。

「犬も好きだけど、わたしはどっちかって言われたら猫のほうが好きかな。小さいころに拾った子を今も飼ってるの。ちょっと待ってね……はいこれ、ちび太って言うんだ、可愛いでしょ」

 西沢さんがスマホの画面を見せてくれる。
 そこには年老いて穏やかな顔つきをした可愛らしい白黒の猫が映っていた。

「うわ、可愛いね」
「でしょ!?」

 得意げな顔になる西沢さん。
 愛猫を褒められてご満悦みたいだ。

「そう言えば西沢さんのプロフィール画像って――」

 さっき見た西沢さんのラインのプロフィール画像は白黒猫だった。

「うん、ちび太なんだ。あれは子供の頃の写真」

「小さいからちび太なの?」

「拾った時は子猫ですごく小さかったんだよね。当時はわたしもまだ小さかったから安易にちび太ってつけたみたい。今はもう大きくなったから全然ちび太じゃなくなっちゃったんだけど」

 西沢さんが苦笑する。

「あはは、子供あるあるって感じだね。でも西沢さんの子供の頃かぁ。きっと昔から人気者だったんだろうなぁ」

 僕は本当に何気なく、それが当然のことだろうと思って言ったんだけど――、

「え、あ、うん、そうでもなかったかな……」
 急に西沢さんが下を向いて小声になった。

「ええっ、そんなことないでしょ?」

 美人で可愛い西沢さんはなにせモテるし人気者だ。
 カースト1軍のメンバーたちですら一目置く別格の存在なのだ。

 小さいころも当然可愛くてみんなの人気者だったはずだと、僕はそう思ったんだけど――、

「も、もうこの話はいいじゃん。それよりももっと佐々木くんのこと知りたいな? ねぇねぇ好きな食べ物は? できれば嫌いな食べ物も一緒に。これは極めて重要な案件なので正直に答えてくださいね」

 西沢さんは妙に強引に話を変えたのだった。

 今までずっと話し下手な僕が話しやすいようにふんわり優しく会話をリードしてくれてたから、なんだか急で不自然だなと思ったけれど。
 いちいち指摘するのもどうかと思って、僕は突っこんでは聞かないことにした。