「えっとね、わたしは言うつもりはなかったんだよ? でも話の流れでそういう感じになっちゃって。おばあちゃんってばすごく話し上手で、つい佐々木くんのこと好きかもって言ったら、あれよあれよという間にお節介を焼かれちゃった的な……」
「あー、うん。確かに西沢さんのおばあちゃんってすごく話し上手だったよね。僕も初対面だったのにすごく会話が弾んだ記憶があるよ」
僕は誰が見ても分かるレベルで、初対面の相手と話すのが苦手だ。
緊張してもごもごと小さな声になっちゃうし、目を合わせるのも怖くてつい視線をそらしてしまう。
そんな僕ですら割と普通に話せてしまえるくらいに、西沢さんのおばあちゃんは親しみやすい雰囲気を持っていたのだ。
「それでその、ね? わたし的には実は告白までするのはちょっと勇気がなかったんだけど。もっとゆっくり、お友達から始めたかったんだけど」
「おばちゃんに後押しされちゃった、と」
「誰かのために行動できる男の子はなかなかいないから、早めに捕まえておきなさいって言われちゃったの。逃がした魚はいつも大きい、後から悔いるから後悔って言うんだよって。それで今日勇気を出してえいや!って告白してみたの」
「そうだったんだね。なら僕としては西沢さんの背中を押してくれたおばあちゃんには、感謝しかないなぁ」
つまりあの時たまたま西沢さんのおばあちゃんを助けたことが、巡り巡って僕に返ってきて西沢さんと付き合うことになったというわけだ。
情けは人の為ならず(つまり自分の為になる)ってことわざは本当のようだった。
(人生って何が起こるかわからないなぁ)
僕はしみじみと思った。
「でもほんと、おばあちゃんの言うとおり勇気を出してみてよかったかな。おかげでこうやって佐々木くんとカップルになれたんだから」
「僕もあの時勇気を出しておばあちゃんを助けてよかったよ。西沢さんみたいな素敵な女の子が彼女になってくれたんだから」
「おばあちゃんは恋のキューピットだね」
「それは間違いないよね」
「でも――」
「え?」
そこで西沢さんは言葉を切ると、わざとらしく口をとがらせながら言った。
「でもせっかくカップルになって2人きりで話をしてるっていうのに、わたしのことじゃなくていきなりおばあちゃんの話をするのは、ちょっとどうかなって思うな」
「うぐっ……そうだよね、ごめん。こけた時におばあちゃんが結構痛そうにしてたから、つい気になっちゃって」
せっかく告白してもらって西沢さんとカップルになったっていうのに、その初めての会話でいきなり他人の話を始めるとか、さすが僕だ。
女心がわかってないにもほどがある。
しかも西沢さんに言われるまでそれに気づかないときた。
彼氏力がどこまでも低すぎて、本気で泣きたい僕だった。
僕は優先順位や女の子の気持ちをちっとも考えなかった大失態を、大いに反省したんだけど――、
「だけど佐々木くんのそういう優しいところを、わたしはすごく好きなんだ」
西沢さんはそんな僕にふんわり柔らかく微笑んでくれたのだった。
「ぶ――っ、げほっ、ごほっ!」
そして優しい笑顔とともに真正面からこれ以上なく好きと言われてしまった僕は、緊張が限界に達して思わず咳き込んでしまう。
「だ、大丈夫!? っていうか顔真っ赤だし、あとちょっと鼻血が出てるよ?」
「ごめん、西沢さんに面と向かって好きって言われたら感情が爆発しちゃって、顔がかぁって熱くなって……」
「上向いてくれる? はい、ちょっと息苦しいかもだけど我慢してね」
ポケットからティッシュを取り出した西沢さんが丸めて鼻に詰めてくれる。
カップルになって最初に彼女にしてもらったことが、鼻にティッシュを詰めてもらうことだった僕。
どうして僕はこう、やることなすことダサダサなんだろう?
西沢さんの隣に立つのにふさわしい男になるんだって心に決めたものの。
今の立ち位置があまりにマイナスすぎて、まずは平均を目指すのが先だと速攻で目標を下方修正するしかない僕の前途は、どうしようもなく多難のようだった。
「あー、うん。確かに西沢さんのおばあちゃんってすごく話し上手だったよね。僕も初対面だったのにすごく会話が弾んだ記憶があるよ」
僕は誰が見ても分かるレベルで、初対面の相手と話すのが苦手だ。
緊張してもごもごと小さな声になっちゃうし、目を合わせるのも怖くてつい視線をそらしてしまう。
そんな僕ですら割と普通に話せてしまえるくらいに、西沢さんのおばあちゃんは親しみやすい雰囲気を持っていたのだ。
「それでその、ね? わたし的には実は告白までするのはちょっと勇気がなかったんだけど。もっとゆっくり、お友達から始めたかったんだけど」
「おばちゃんに後押しされちゃった、と」
「誰かのために行動できる男の子はなかなかいないから、早めに捕まえておきなさいって言われちゃったの。逃がした魚はいつも大きい、後から悔いるから後悔って言うんだよって。それで今日勇気を出してえいや!って告白してみたの」
「そうだったんだね。なら僕としては西沢さんの背中を押してくれたおばあちゃんには、感謝しかないなぁ」
つまりあの時たまたま西沢さんのおばあちゃんを助けたことが、巡り巡って僕に返ってきて西沢さんと付き合うことになったというわけだ。
情けは人の為ならず(つまり自分の為になる)ってことわざは本当のようだった。
(人生って何が起こるかわからないなぁ)
僕はしみじみと思った。
「でもほんと、おばあちゃんの言うとおり勇気を出してみてよかったかな。おかげでこうやって佐々木くんとカップルになれたんだから」
「僕もあの時勇気を出しておばあちゃんを助けてよかったよ。西沢さんみたいな素敵な女の子が彼女になってくれたんだから」
「おばあちゃんは恋のキューピットだね」
「それは間違いないよね」
「でも――」
「え?」
そこで西沢さんは言葉を切ると、わざとらしく口をとがらせながら言った。
「でもせっかくカップルになって2人きりで話をしてるっていうのに、わたしのことじゃなくていきなりおばあちゃんの話をするのは、ちょっとどうかなって思うな」
「うぐっ……そうだよね、ごめん。こけた時におばあちゃんが結構痛そうにしてたから、つい気になっちゃって」
せっかく告白してもらって西沢さんとカップルになったっていうのに、その初めての会話でいきなり他人の話を始めるとか、さすが僕だ。
女心がわかってないにもほどがある。
しかも西沢さんに言われるまでそれに気づかないときた。
彼氏力がどこまでも低すぎて、本気で泣きたい僕だった。
僕は優先順位や女の子の気持ちをちっとも考えなかった大失態を、大いに反省したんだけど――、
「だけど佐々木くんのそういう優しいところを、わたしはすごく好きなんだ」
西沢さんはそんな僕にふんわり柔らかく微笑んでくれたのだった。
「ぶ――っ、げほっ、ごほっ!」
そして優しい笑顔とともに真正面からこれ以上なく好きと言われてしまった僕は、緊張が限界に達して思わず咳き込んでしまう。
「だ、大丈夫!? っていうか顔真っ赤だし、あとちょっと鼻血が出てるよ?」
「ごめん、西沢さんに面と向かって好きって言われたら感情が爆発しちゃって、顔がかぁって熱くなって……」
「上向いてくれる? はい、ちょっと息苦しいかもだけど我慢してね」
ポケットからティッシュを取り出した西沢さんが丸めて鼻に詰めてくれる。
カップルになって最初に彼女にしてもらったことが、鼻にティッシュを詰めてもらうことだった僕。
どうして僕はこう、やることなすことダサダサなんだろう?
西沢さんの隣に立つのにふさわしい男になるんだって心に決めたものの。
今の立ち位置があまりにマイナスすぎて、まずは平均を目指すのが先だと速攻で目標を下方修正するしかない僕の前途は、どうしようもなく多難のようだった。