「ねぇ佐々木くん、少しだけここで話していかない? ほらせっかく誰もいないからゆっくり話せそうだし。このまま帰っちゃうのって、なんだかもったいなくない?」

 手を繋ぎながら西沢さんがふと思いついたように言った。

「そうだね、だ、誰もいないもんね」

「あ、今えっちなこと考えたでしょ」
「か、考えてないからね!?」

「ええっ、ほんとかなぁ?」
「ほんとだってば、いきなりそんな失礼なこと思わないから」

 こう言っちゃなんだけど、告白された直後にいきなりえっちなことを考えるほど、僕はウェーイなタイプでは決してない。

 というか現状では普通に話すことすらさっぱり自信がないっていうのに、えっちとか絶対無理だから。
 いざ本番で立たなかったらどうしようとか思っちゃうし、そういうのはもっと自分に自信を持てるようになってからにしたい。

 なによりちゃんと交際を深めてから、お互いの気持ちをしっかりと確かめあった上でじゃないと、そういうのはダメだと思うんだ。

「えへへ、ちょっとした冗談ですので」

「も、もう……西沢さんって結構お茶目なんだね。もっとおしとやかな感じに見えたからちょっと意外だったかも」

「もしかして、幻滅しちゃった?」
 西沢さんが不安そうな硬い表情で聞いてくる。

「それこそまさかだよ。西沢さんにこんな一面があるんだなって知れて、ちょっと嬉しかったくらいだし」

「ほんと? 気使ってたりしない?」
「ほんとだってば」

「はぁ、ならよかったぁ」
 ホッとしたように表情を崩し、肩の力を抜いて脱力したように言った西沢さん。

 でも僕が西沢さんへの劣等感から付き合うことに様々な不安を覚えることはあっても、西沢さんが僕に不安を感じる要素なんてこれっぽっちもないと思うんだけどなぁ。

 そうでなくてもふんわり優しい笑顔が魅力の西沢さんは、男女問わず誰からも好かれる人気者で憧れの的だっていうのにさ。

(意外と心配性なのかな? もしくは一点の曇りも許さない完璧主義とか?)

 あ、心配と言えば――、

「ねぇねぇ西沢さん、おばあちゃんはその後大丈夫だったの? 腰を打ってたみたいだったけど」

「うん、全然元気みたいだよ。昨日も電話で痛いところとかないって聞いてみたんだけど、もうすごく元気でぴんぴんしてたもん。今日も老人会の昼カラオケに行って軍艦マーチを歌うんだって張り切ってたから」

「あはは、それは良かったね」

 腰って漢字は「月(にくづき=身体)の要」と書く大事な部分だ。
 おばあちゃんだと年齢的にも怪我をして寝たきりになる可能性もあるし、だから大丈夫って話を聞けて僕は胸をなでおろしたのだった。

「ついでに助けてくれたのが同じクラスの男子だって言ったら、おばあちゃんすごくびっくりしてたの。これは運命かもしれんの、って言ってたよ」

「確かにものすごい偶然だよね。偶然助けたおばあちゃんのお孫さんがクラスメイトの西沢さんだったなんて」

「それに後押しもされちゃったし」

「後押し? ってなんの?」
 突然出てきた単語の意味するところがわからなくて、僕はおうむ返しに聞き返す。

「えっと、だから……えっと、つまり、告白の、後押し……されたの」
「えっ!? おばあちゃんは西沢さんが僕に告白するって知ってるの!?」

「う、うん。なんていうか話の流れで、てへへ」

「それはちょっと――どころかめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!?」