「勘違いって? なにが?」

 僕の言ってることがよくわからないって感じで、西沢さんがキョトンとした顔を見せた。
 そんな西沢さんに僕は自分がどんな人間なのかを説明をする。

「僕は誰かのために頑張れるような聖人君子じゃないんだよ。あの時だって正義感から助けたわけじゃなくて」

「そう……なの?」

「僕はあの時、放っておくと寝覚めが悪そうだったからっていうものすごく後ろ向きな理由で、西沢さんのおばあちゃんを助けたんだ。ただただ自分が嫌な気持ちにならないために」

「うん……」

「だからあの時もし周りに誰か人がいたら、僕はきっと恥ずかしくてあんなことはできなかったと思う。だって僕にとって恥ずかしいのは、寝覚めが悪いことよりも嫌だから。僕は所詮そういう人間なんだ。だから西沢さんもおばあちゃんも、僕のことを勘違いしていると思う」

 あの時の僕の行動理念を、僕はこれ以上なく正直に西沢さんへと伝えた。

 間違いなく西沢さんに幻滅されちゃったと思う。

 でも真剣に想いを告白してくれた女の子に対する、それが僕が絶対に通さないといけない筋だと思ったんだ。
 西沢さんの勘違いを利用して騙して付き合うなんてことは、絶対にしちゃいけないって思ったから。

 だっていうのに――、

「佐々木くんって、さ」
「な、なに?」

「優しいだけじゃなくてすごく正直なんだね」

 そう言った西沢さんは、今日一番ってくらいにとびっきりの笑顔を見せてくれたんだ!

 一旦フラットになったはずの僕の心が再び大きく跳ね上がる。

「正直っていうか、嘘をついて好きになってもらうのはちょっと違うかなって思ったんだ。それに嘘で着飾ったって、どうせすぐに本性はバレちゃうだろうから」

 僕がそんなすごい人間じゃないなんてことは、付き合えばすぐに露呈してしまう。
 そんなもの隠し通せるわけがない。

 となると結局その先に待っているのは、西沢さんの失望からくる破局でしかないわけで。
 その時僕はきっと、ものすごく悲しい思いをするだろう。
 だったら西沢さんとお付き合いするなんて大それた夢なんて見ずに、最初から付き合わないでいる方がマシだ。

 でも西沢さんは少し考えるようなそぶりを見せてから、言った。

「わたし思うんだけどね?」
「なに?」

「少なくともその時近くにいた人は誰もおばあちゃんを助けてくれなかったのに、佐々木くんは助けてくれたわけでしょ? それってやっぱりすごいことだと思うの」

「そう……なのかな? ごめん、よくわかんない」

「そうだよ。佐々木くんはすごいよ。すごすご男子だよ」

「すごすご男子って……」

「あ、『すご力』が足りなかった? じゃあすごすごすごすご男子で」

「あはは、なにそれ『すご力』って」
 僕はその表現のなんともいえない可愛らしさについ笑ってしまった。

 すごいって言ってくれてるはずなのに、『すご力』なる物を重ねれば重ねるほど、逆にイマイチすごくない感じが増していくのは僕の気のせいじゃないよね?

「ちょ、ちょっと佐々木くん、なんでここで笑うかなぁ? わたし一生懸命気持ちを伝えてるのに」

「ごめん、ちょっとツボに入っちゃったみたいで」

「もう、酷いんだからぁ」
 ほっぺを膨らませてわざとらしく怒った振りをする西沢さん。

 そんな芝居がかった姿もすごく可愛いのはさすが学園のアイドルだ。

「でもさ。仮にそうだったとしても、やっぱり僕なんかじゃ西沢さんには釣り合わないって思うし、僕なんかに西沢さんはもったいないって思うから。だから――」

 付き合うのはやっぱりやめよう――そう言いかけた僕の言葉尻に被せるようにして西沢さんは言ったんだ、

「ねぇねぇ、なんかは禁止にしちゃわない?」

 って。