「えっ、って何か変だったかな? せっかくカップルになれたんだから、一緒に帰ろうって思ったんだけど。あ、もしかして佐々木くんは一緒に帰ったりとか学校でべたべたするのは、あまり好きじゃなかったりする?」

「特にそういうわけじゃないけど」

「良かったぁ。えっと、この前ネットで見たんだけどね。男の人って他の人に見られる場所でべたべたするのを嫌がる人もいるから要注意ってあったの」

「えーと、僕はそこまでは気にしないかな? 行き過ぎると恥ずかしいかもだけど。そもそも僕なんかを好きになってくれるんだったら、なるべく僕の方から相手の女の子にやり方に合わせようかなってって思うだろうし」

 ぶっちゃけ冴えない底辺男子に、偉そうに女の子の行動を縛る権利などありはしない。
 選ばれないには選ばれない理由があるわけで。

 だからもしそんな僕を好きだと言ってくれる女の子がいるのなら。
 自分を曲げて相手の好みに合わせることに何のためらいもありはしなかった。

 むしろ率先して自分を変えて、相手の女の子の好きなタイプになろうと頑張ろうとか思うはずだ。

「えへへ、佐々木くんってやっぱり優しい人なんだね」

 僕の答えを聞いた西沢さんが柔らかくはにかむ。
 その表情は僕の貧相なボキャブラリーでは表現しきれないほどに、それはもう可愛くて可愛くてしょうがなかったんだけれど。

 でも僕にはいい加減、聞かなければならないことがあったのだ。

「あの、西沢さん。さっきカップルって言ったけど、えっと、これってドッキリじゃなかったの?」

 僕はイマイチ頭の中が整理できないままで、ややしどろもどろになりながら西沢さんに問いかけた。

「ドッキリ? ってなんの話? テレビのバラエティ番組? わたしあんまりバラエティって見ないんだよね。あ、よかったら佐々木くんがどんなテレビを好きなのか教えてくれないかな? わたしも見てみるから」

「ええっと、テレビの話じゃなくて」

「じゃあなんの話なの?」

「だからえっと、西沢さんが僕に告白したことがドッキリだったんじゃないのかな、ってことなんだけど……」

「? なんで? 違うよ?」
 西沢さんが不思議そうな顔で、こてんと可愛らしく小首を傾げた。

「……えええっ!? だって西沢さんが僕なんかに告白するなんてありえないでしょ!? だからもうこれはドッキリだなって思ってたんだけど」

(ドッキリじゃない!? じゃ、じゃあ一体どういうことなの!?)

 僕の頭は激しく混乱していた。

(だって、だって……えええええええええええっっっっっくぁwせdrftgyふじこlp!!!!????)

「ふえっ、もしかして佐々木くんは嘘の告白だと思ってたの? じゃあOKしてくれたのも嘘ってこと? 酷いよ佐々木くん、わたし一生懸命告白したのに……」

 西沢さんが笑顔から一転、泣きそうな顔に早変わりした。
 目元にうっすらと光るものが見える。
 西沢さんの涙だ。

「ち、違うんだ西沢さん! いや違わないんだけど、西沢さんに告白されてOKした気持ちは本気だったから! すごく嬉しかったし、ぶっちゃけ舞い上がっちゃってたから!」

「じゃあなんでドッキリだなんて思ったりしたの……?」

「それは、だから……だって理由がわからなかったから」
「理由って?」

「美人でおしとやかではにかむように笑う笑顔が本当に素敵で、学園のアイドルって言われて人気のある西沢さんが、僕みたいな何の変哲もない冴えない男子に告白する理由が思いつかなかったから。だからドッキリだと思ったんだ」

 僕は超早口でまくし立てるように、なぜそう思ったのかを西沢さんに説明した。

 必死だった。人生で一番必死だった。
 合格がやや微妙なラインだった高校受験直前でも、こんなに必死だったことはなかったと思う。

 それもこれも全ては、ただただ西沢さんをこれ以上悲しませたくなかったからだ。