変な息が聞こえるようになって、気のせいだって思い続けるのも無理になってきた時、車に轢かれそうになったんすよ。
はい、マジです。サッカーの帰りに信号待ちしてて、オレはちゃんと立ち止まってたのに道路に飛び出したんです。その時の記憶は全然ないんす。気づいたら道路に飛び出してて、真っ白なライトが迫ってて、あ、車が来る、って。一緒にいたチームメイトが掴んで後ろに引き倒してくれなかったら死んでました。間違いなく。勢いよく転倒したから怪我したけど、事故るよりは全然マシでした。
直前にため息が聞こえたのは覚えてるんす。あ、きた、って思って。でもシカトするって決めてたから目ぇつむってシカトしてて、そしたら、あっという間に道路に。
そんで……さすがにまずいと思ったんす。バカだと思われるかもしれないけど、オレはあの掲示板のせいって思ってたから、もうやめないとヤバいってパソコン開くのやめたんす。それに、サッカーにも集中できなくなってたからちょうどいいと思って。でも、立ちあがるんす。勝手に。パソコンが。毎日じゃないけど、夜中になると勝手につく。閉じてても光が漏れるからわかるんすよ。机の中にしまっておくと今度は引き出しが開くんじゃないかと思って寝れないから、しまえない。充電はもう切れてるはずなのに、つくんす。絶対ありえないっすよね、こんなの。
それが一か月くらい前かな。夜に電気消すのも怖くなったから無理すぎて、友達に何となく聞いてみたんすよ。「闇掲示板って知ってる?」みたいな。あ、闇掲示板ってのはオレがその時勝手に名付けました。裏サイトから飛べるらしいぜとか何とかそれっぽいこと言って、オレも噂で聞いたんだけど的にいけると思って。でも、誰も知らないんす。いろんなツテに聞いてもらっても誰も知らないって。
でもあの掲示板、うちの中学の連中も絶対使ってるんすよ。だってオレ、学校の裏サイトから飛んだんすよ。オレだけのわけないじゃないっすか。だから隠してるだけだろって思ったんす。思ったんだけど、確認しないでいられなくて、パソコン充電してブクマしてたページに飛んでみたんす。そしたら「ページは存在しません」ってなってて……
あ、サイト消したんだって、ホッとしたんすよ。オレはあそこに行けない。じゃあもうあれは出てこないって、よくわかんねぇ理由でホッとしたんす。実際、さっき言った通り減りました。でも……
大翔が鞄からスマートフォンを取り出した。何度かタップをして、見せてくれる。
「オレのブクマ欄なんすけど。わりと大量なんで、下おりてってください」
指で示されたところを見ると、彼の言う通りいくつかのURLが羅列されていた。
海外サッカーチームのホームページや、ゲームの攻略サイト。洋服の通販サイトから大型ネットショッピングサイトまであった。
「趣味がたくさんあっていいね」
微笑ましく思いながら視線を下ろしていくと──
「ありましたか。多分あると思ったっす」
自分のブックマークだと言って見せてくれた大翔が、私が言葉を失った理由を「多分ある」と推測した。
小さくため息を吐いて、スマートフォンを自分に向ける。
質のいいソファタイプの椅子の背に寄り掛かり、スマートフォンを持たない手でもう片方の腕を抱き寄せるような仕草を見せた。
「あー、やっぱあった」
「……どういうことなのかな……?」
やっとのことで声を絞り出した私を見て、大翔は苦い顔をする。
さっき彼の携帯で私が見たのは、不気味なほどに文字化けしたブックマーク。
「何回消しても勝手にブクマされてるんすよ。ページが消えてるはずの闇掲示板が」
ねぇお姉さん、と大翔は続ける。
「やめられたって言ってもいいんすかね。オレ」
──ハァ。と、小さな息が耳元で聞こえた気がした。
はい、マジです。サッカーの帰りに信号待ちしてて、オレはちゃんと立ち止まってたのに道路に飛び出したんです。その時の記憶は全然ないんす。気づいたら道路に飛び出してて、真っ白なライトが迫ってて、あ、車が来る、って。一緒にいたチームメイトが掴んで後ろに引き倒してくれなかったら死んでました。間違いなく。勢いよく転倒したから怪我したけど、事故るよりは全然マシでした。
直前にため息が聞こえたのは覚えてるんす。あ、きた、って思って。でもシカトするって決めてたから目ぇつむってシカトしてて、そしたら、あっという間に道路に。
そんで……さすがにまずいと思ったんす。バカだと思われるかもしれないけど、オレはあの掲示板のせいって思ってたから、もうやめないとヤバいってパソコン開くのやめたんす。それに、サッカーにも集中できなくなってたからちょうどいいと思って。でも、立ちあがるんす。勝手に。パソコンが。毎日じゃないけど、夜中になると勝手につく。閉じてても光が漏れるからわかるんすよ。机の中にしまっておくと今度は引き出しが開くんじゃないかと思って寝れないから、しまえない。充電はもう切れてるはずなのに、つくんす。絶対ありえないっすよね、こんなの。
それが一か月くらい前かな。夜に電気消すのも怖くなったから無理すぎて、友達に何となく聞いてみたんすよ。「闇掲示板って知ってる?」みたいな。あ、闇掲示板ってのはオレがその時勝手に名付けました。裏サイトから飛べるらしいぜとか何とかそれっぽいこと言って、オレも噂で聞いたんだけど的にいけると思って。でも、誰も知らないんす。いろんなツテに聞いてもらっても誰も知らないって。
でもあの掲示板、うちの中学の連中も絶対使ってるんすよ。だってオレ、学校の裏サイトから飛んだんすよ。オレだけのわけないじゃないっすか。だから隠してるだけだろって思ったんす。思ったんだけど、確認しないでいられなくて、パソコン充電してブクマしてたページに飛んでみたんす。そしたら「ページは存在しません」ってなってて……
あ、サイト消したんだって、ホッとしたんすよ。オレはあそこに行けない。じゃあもうあれは出てこないって、よくわかんねぇ理由でホッとしたんす。実際、さっき言った通り減りました。でも……
大翔が鞄からスマートフォンを取り出した。何度かタップをして、見せてくれる。
「オレのブクマ欄なんすけど。わりと大量なんで、下おりてってください」
指で示されたところを見ると、彼の言う通りいくつかのURLが羅列されていた。
海外サッカーチームのホームページや、ゲームの攻略サイト。洋服の通販サイトから大型ネットショッピングサイトまであった。
「趣味がたくさんあっていいね」
微笑ましく思いながら視線を下ろしていくと──
「ありましたか。多分あると思ったっす」
自分のブックマークだと言って見せてくれた大翔が、私が言葉を失った理由を「多分ある」と推測した。
小さくため息を吐いて、スマートフォンを自分に向ける。
質のいいソファタイプの椅子の背に寄り掛かり、スマートフォンを持たない手でもう片方の腕を抱き寄せるような仕草を見せた。
「あー、やっぱあった」
「……どういうことなのかな……?」
やっとのことで声を絞り出した私を見て、大翔は苦い顔をする。
さっき彼の携帯で私が見たのは、不気味なほどに文字化けしたブックマーク。
「何回消しても勝手にブクマされてるんすよ。ページが消えてるはずの闇掲示板が」
ねぇお姉さん、と大翔は続ける。
「やめられたって言ってもいいんすかね。オレ」
──ハァ。と、小さな息が耳元で聞こえた気がした。