今から──てかもうずっと変な話してるけどこれからもっとおかしな話するんで、ツッコまないでくれるとありがたいっす。とりあえず先に全部話しちゃうんで。時間もないし。
 その掲示板を知ったのは偶然でした。いつもみたいに裏サイトで先生とか授業のグチとか色々書き込んでて。
 友達の悪口? んー……てか悪口書いてたら友達じゃなくないっすか? オレはそうっす。ムカつくヤツの悪口は書くけどそれはそもそも友達じゃないんで罪悪感とかも別にないっすね。だってムカつくから。 
 それはみんな同じですよ。オレだけじゃないし。先生に対しては授業がつまんねーとかわかりにくいとか、不倫してるらしいとかくっだらないネタばっかっすよ。当たり前だけど生徒の悪口が一番燃えるっす。誰が何書いてるかわかんないんだから、書きたい放題。どうなるかなんてお姉さんにもわかるんじゃないっすか?
 で、オレもいつもみたいに書き込んでたんす。その日はパソコンでやってて。そしたらいきなり名前書き込むとこ……本名でなんてやるわけないっしょ。何て名前使ってんのかは……それはさすがに。
 とりあえずいつもみたいに部屋で好き勝手書き込んでる時に、名前を打ち込むところがあるんですけど、書き込んだあとに点滅したんすよ。リンクになってて踏むと飛べるようになって。……難しい顔してるけど、オレ言ってる意味わかります? あ、大丈夫。ふーん。
 そんでそっから飛んだら、真っ黒な掲示板に辿りついたんす。真っ黒。
 初めて見たんで誰かが勝手に作ったのかなとか色々考えたけど、まぁそこまで深く考えないでそのままの覗いたんすよ。そしたら裏サイト以上に燃えてて。下ネタ悪口なんでも来いの、クソえげつねぇ掲示板だったんす。最初はうっわーってドン引きしたんすけど、見てるうちにあーわかるーってことが多くて……
 どんなって、そりゃークソみたいな色々っすよ。お姉さんはないんすか? アイツがいなきゃいいのにとか、邪魔とか、消えろとか。
 全くないとか聖人君子でしかありえなくないっすか? 
 中学生にだって、思っても口に出せないことあるんすよ。いくら裏サイトがあったってギリギリのラインで我慢してる色々があそこでは全部出しても許された。引いてる書き込みがなくて、みんな言いたい放題なだけの一方通行なんす。何て言うんだっけ。掃きだめみたいな? そういう感じ。別に反応は求めてない。ただ吐き出したいクソみたいなものを出すだけの掲示板。
 だからオレも全部書いて。夢中で書きました。それこそ取り憑かれてたんじゃねぇかなってくらい、毎日毎日書いてました。寝ないで書いてた時もあった。
 今思えばそのくらいなんすよね。キモイ息が聞こえるようになったり、パソコンの画面に目を見たのも。だからもしかしてあのサイトが原因なんじゃないかってバカみたいなこと考えたけど、誰にも聞けないじゃないっすか。あんな悪口だらけの掲示板、知ってる? とか聞く自体がありえない。ありえないって意味わかんないっすか?
 バレたくないに決まってるっしょ。あんな掲示板に書き込んでて、わけわかんねぇ幽霊みたいなやつが見えるんだけどとか。言えるわけない。全部が恥でしかないんすよ。


 膝に視線を落としたまま、大翔は話を続ける。
 自らがそういった掲示板に書き込むことや、それを友人に知られることを「恥」と言い切った。
 私にも覚えがある。それはきっと最低限のプライドがあるからだろう。
 自分にドロドロとした黒い感情があることを認めたくない。しかもそれを誰もが見られるネット掲示板という場所に書き込むことで発散されているだなんて、まともな神経をしていたら堂々と人様に言えることではない。
 大翔の話は中学生らしい感情的な部分と、背伸びもしたいのだろうが理性的に努めようとしている部分が感じられた。しかし、私にとって重要なのはそこではない。

「……大翔くんは、やめたのよね?」

 彼の乾いた唇が微かに動いた。小さく頷きかけて、そのまま自問するように首を振る。

「やめられたのかはわかんないっす」

 そんなはずはない。私は思わず身を乗り出して訊ねた。

「でも、あの気配を家の外で感じることはなくなったんでしょう?」
「……はい」
「じゃあ、どうして?」

 私の問いに、今度はまっすぐ視線をぶつけて答える。

「おかしな話するって言ったっすよね」
「え、ええ」

 思わぬ迫力に身をひきかけて、思い出した。
 つい先ほど大翔は「もっとおかしな話をする」と宣言した。しかし今聞いた話にそこまで特別なおかしさは感じない。──とすると。
 私が口を開くより先に、大翔は続けた。