激しい雨の音が聞こえ、真依はうっすらと目を開けた。昨日よりも暑くはないものの、不快に感じるほどのジメッとした空気が体にまとわりついていた。

 あぁ、またここーーしかし今日はすでに日暮れも間近。空には一番星が輝いている。その星に向かって手を伸ばしたが、猫の手であることに気付いて落胆した。

 とはいえ、真依の中にわずかな希望が湧いていたのも事実で、こうして猫の中に魂が入り込んでいるのは、死んでしまったけど未練があってこの世に止まっているか、もしくは、生きているけど意識を取り戻せず、魂だけが彷徨っているかのどちらかだと考えられた。

 橋の下から、少し先にあるカフェの方に目をやる。ここからでは店の様子を見ることはできないが、雨の中を走って行く気にもなれなかった。

 水木さんはいるだろうか。今の私がどんな状況かはわからないが、少しでも気に留めてくれているだろうか……。そんなことを考えて、急に悲しくなってきた。どうせ私なんて、アルバイトの中の一人でしかないのに、何を期待しているんだろう。

 今なら誰も見ていないし、聞いてもいない。ましてや今はただの猫。我慢する必要なんてないーーその途端、真依の目からは大粒の涙が溢れ出した。

にゃーん(悲しいよ)……にゃーん(苦しいよ)……」

 その時だった。

「猫ちゃん?」

 驚いて振り返ると、そこには帰る途中らしき絵の具くんが、カバンを肩から掛け、傘をさした姿で立っていた。

にゃーんにゃん(なんで絵の具くんが)……?」

 すると絵の具くんはカバンからタオルを取り出し、真依をそっと抱き上げてタオルで包み込んだ。タオルからはほんのりと絵の具の香りがし、真依はクスッと笑った。あぁ、これが彼の匂いなんだ……そんなふうに感じる。

「大丈夫? 雨で寒かった? なんか悲しそうな鳴き声だったけど」

 タオルの隙間から顔を出した真依は、思わず目を(しばた)いて絵の具くんの顔を見た。今は猫の姿だし、言葉だって話せないから鳴き声だけ。それなのに、どうして悲しんでいることがわかるのだろうか。