絵の具くんは猫になった真依の頭を撫でながら、柔らかな笑顔を浮かべていた。いつもはどこか緊張した面持ちでレジにやって来るのに、そのギャップに真依の心臓はドキッと大きく弾んだ。

 彼ってこんなふうに笑うんだ……知らなかった。水木さんが大人の男性の優しさを醸し出しているなら、絵の具くんはまだ少年のようなあどけなさを感じるーーそれはまだ大人と子どもの狭間にいる真依には、共感しやすいものだった。

 その時彼の(かたわら)に、真依がアルバイトをしているカフェのテイクアウト用のカップが置かれているのが目に入った。しかしいつものLサイズではなく、何故か一回り小さいMサイズ。そのことに違和感を覚え、真依はカフェオレのカップにすり寄ってみせた。

「ん? それが飲みたいの? でも猫ちゃんにカフェオレはどうかなぁ」
にゃーん(違ーう)にゃんにゃにゃんにゃにゃん(なんでMなの)?」

 これが夢だと割り切ってしまえば、意外と順応が早い自分に感心した。伝わらないとわかっていても、話しかけずにはいられなかった。

「あぁ、これ? お気に入りのカフェがあってそこで買うんだけど、今日はいつもの店員さんがいなくて……だからサイズを聞かれていたのに、曖昧な返事をしちゃったらMサイズになっちゃった」

 その瞬間、真依の顔から血の気が引いていく。ちょっと待って……絵の具くんが来る日は火曜日と水曜日と金曜日だと史絵が言っていた。じゃあ今日は何曜日なの?

 真依は彼のスマホがカバンから飛び出していることに気付き、慌ててジャンプをしてスマホの画面を覗き込む。

にゃー(ウソ)……」

 表示されていたのは"水曜日"の文字。自分が出勤していないということは、これは現実なのだろうかーー? そう考えると、疑問が湧いてくる。じゃあ私は、昨日あれからどうなったの?

 真依の頭に最悪の結末が頭を()ぎった時だった。絵の具くんの手が真依の頭を撫でたのだ。