ピッ、ピッ、ピッーー。静かな部屋の中に、無機質な機械音が響き渡る。ゆっくりと目を覚ましたが、部屋の明るさに耐えきれず、再び目を閉じた。

「眩しい……」

 ぼそっと呟いた瞬間、
「真依⁈ 起きたの⁈」
と取り乱した様子の母親の声が耳に入る。

 それから母は真依の頭上にあるナースコールを押し、看護士にそのことを伝える。その様子を見ながら、自分が生きていることに心の底から安堵した。

「大丈夫? 真依、丸二日も寝ていたのよ! もう心配で心配で……」

 うちの家族は本当に賑やかなんだからーーうっすらと目を開けて部屋を見渡せば、ここが病室であることは一目瞭然だった。

「ねぇお母さん、ここってもしかして第一総合病院だったりする……?」
「あら、どうして知ってるの? あなた、酔って足を踏み外して川に落ちたのよ」

 絵の具くんがあの川縁から見ていた第一総合病院。彼は真依がそこに入院していることを知っていた。

「川底にあった石に頭を打ったらしくてなかなか目覚めないし……すぐに川に飛び込んでくれた人がいなかったら、助かってないかもしれなかったんだから」

 飛び込んでくれた人ーーあの時、私たちの周りに人はいなかった。じゃあ史絵が飛び込んでくれた? いや、泳ぐのは得意じゃないと言っていたし、きっとそれはないはず。それなら誰が私を助けてくれたんだろうかーー。

 ふと頭に浮かんだのは絵の具くんの姿だった。彼が泳げるのか知らないし、あの場に彼がいたかも不明だが、なんとなく彼であるような……彼であって欲しいと思う自分がいた。

「あの……私を助けてくれた人ってーー」

 そこまで言いかけた途端、病室の扉がノックされ、数人の看護士が入ってくる。

「失礼します。ご気分はどうですか?」
「あ……今のところ大丈夫です。少しぼんやりしてますが……」
「二日間、寝てましたからねぇ。じゃあ詳しく見ていくので、お母様は少し外で待っていただけますか?」
「はい、よろしくお願いします」

 母親に助けてくれた人のことを聞く間もなく、真依の診察が始まってしまった。