校長の独特な挨拶が恒例となっている始業式も終わりひと段落した後、僕は久しぶりの給食を食べ過ぎたせいで眠気と戦っていた。
「まだ眠そうだねー、始業式寝てたの見てたよ。君よく食べるから糖質回ってすぐ眠くなるの?」
月夜が欠伸をしながら教室に戻ってきた。おそらく友達に会いに二組にでも行っていたのだろう。
「君も欠伸してるじゃんか」
「私のは欠伸じゃない。緊張をほぐすためにわざと口を開けたの」
僕が呆れていると彼女は朝のようにもう一度クラス内を見渡す。
「何、イケメンでもいた?」
「んー私どっちかというと顔より筋肉派なんだよね。ただやっぱりこのクラス賑やかすぎるなーって思って」
筋肉派という衝撃的な言葉の方に気を取られそうになったが、この話をし始めると収集がつかなくなりそうなので慌てて言葉を飲み込んだ。
しかし、月夜が言ったことはごもっともだった。このクラス、と言うか一組のクラスメイトはだいぶ騒がしい。ただギャーギャー騒ぐやつも居れば、走り回ったり物を投げ合う人たちもいる。正直言うと、本当にうるさい。
「朝も言ったけど一年生のときはもっとうるさかったよ。多分月夜が想像してるよりずっと。」
「二組ってすごい平和だったんだね。あの頃が懐かしい…」
「あの頃て。たった数週間前の話だけどね」
月夜は思い切り眉と口角を下げて残念残念、とつぶやきながら自然な流れで次の授業の予習を始めた。感情の起伏、どうなっているんだろう。
流石にこれ以上話しかける訳にもいかなかったので、僕も月夜の横顔を少し眺めたあと授業の予習をしておこうと教科書を開く。
「あのね、私さっき先生に「よろしくね」って言われたの。海はこれどういう意味だと思う?」
少し経った月夜があとペンを走らせながらこちらを見ずに口を開いた。昼休みの間何か会ったのだろうか。
「…?1年間担任だからよろしくって意味だと思うけど。それ以外になにかあったりする?」
あまりにも簡単な質問だったので僕は逆に聞き返す。その時ノートと向かい合う月夜の顔から一瞬光が無くなったような気がした。しかしすぐにまたいつもの笑顔を取り戻し僕を見る。
「ふふ、やっぱそうだよね。それしかないよなー」
何かを自分に言い聞かせるように呟きながら月夜は再びペンを走らせた。
僕はどうしてそんなことを言ったのか月夜に聞こうとしたが、チャイムが鳴ってしまい聞くことは出来なかった。