「ええ、僕もまだ若輩者ですから。でも、そんな風に悩む時は、一滴一滴丁寧にコーヒーを淹れるんです。そういう時こそ時間を掛け、自分の心を癒やしてあげるんです。今日は頑張ったから、明日は頑張らなくても良い。頑張らなくても、ふとした時に人の心はすっと変化したりするものですから」
 ──大川君の場合は、ぜひうちの店へ来てコーヒーを飲みに来て下さい。このサ店では、大川君のコーヒーがいつでも待っています。
 俺のコーヒー。それはマスター須崎さんが丁寧にサイフォンで淹れてくれた特別な一杯だ。この喫茶柘植の木団地があれば、俺も団地も、ほんの少し先の未来に向けて一歩ずつ進んでいけそうな気がする。

 サ店にはいつもと同じようにコーヒーのアロマが漂い、こぽこぽこぽとあたたかい音が響いている、窓の外にはイヌツゲの木。この団地を再生するのが、俺の仕事だ。

 終