「おはようございます。昨日はいろいろとお願いしてしまってすみませんでした」
「お疲れ様でした」
「お疲れさまでした、眠れましたか?」
「ええ、泥のように眠りましたのでもう大丈夫です。コーヒー飲みますか?」
「今日はおかまいなく」
「そうですよ、マスター疲れてるんすから」
「いや、僕が淹れたいんです。コーヒーを淹れていると落ち着きますからね」
「じゃあ遠慮なくエメラルドマウンテンを」
「俺はマンデリンお願いしまっす」
「はい」
 こぽこぽとコーヒーが少しずつ出来上がっていく音を聞きながら、しばらく店内の三人は無言のままでいた。それぞれが今回の件で思うところを反芻しているような時間だった。
「お待たせしました。森本さんはエメラルドマウンテン、大川君はマンデリンです」
「いただきます」
「いただきまっす」
 朝の早いうちのコーヒーは頭も身体もすっきりする気がして良い。暑さが真上に昇る前にサ店に来た俺たちは、昨日の話を詳しく聞かせてもらうことにした。

「クリニックから救急車で大学病院まで行って、そのまま血管造影室というところで処置が行われました。ご家族の同意じゃなくても良かったのと、僕が一部始終を説明出来たのが役に立ったとのことで、いろいろ早期処置が出来たのが良かったとのことでした」
「大迫さんが具合悪くなったその場にいたんですもんね」
「ええ。それと、カテーテルという細い管を入れて血管の詰まりを取り除いたあと、ステントという特殊な金属で血管を広げるという処置が行われたそうなんですが、比較的通しやすいところに詰まりがあったみたいで、大迫さんへの負担も軽くて済んだそうです。後遺症はほとんど残らないでしょう、とのことでした」
「良かったぁ!」
「入院中はリハビリをして、そのあとは血液をサラサラにする薬と食生活の見直し、適度な運動などで予防していくそうです」
「俺も気をつけます……」
「どうしました大川君?」
「いえ、こっちの話です。で、ご家族にはどうやって連絡を?」
「実は、昨日の時点で大迫君は麻酔から醒めていたのですが、ちょっとまだぼんやりとしか周囲のことを認識出来ていないようで……一週間ほど入院するそうなので、着替えを見繕いがてらもう一度聞いてみようとは思っているんですが……」
 そこで須崎さんは言いにくそうに口ごもった。
「昨日、実は名乗らないまま帰ってきてしまったんですよね」