「私ももちろん専門ではないので、原因までは分かりませんが、脳の血管が詰まったり細くなったりして血流が滞ってしまうらしいです。脳は身体のいろんなところを司っていますから、たしかにさっきの大迫さんのように右手が思うように動かなくなるとか、言葉が出にくくなるとかあるかもしれませんね」
「じゃあすぐにクリニックでそれが分かったのはラッキーだったんですかね」
「分かりません。症状がどれくらい進んでいるのかにもよるでしょうし……。とにかく今は私たちに依頼されたことをしっかりやりましょう」
「はい」

 森本さんとふたりでガスや電気の消し忘れなどを入念にチェックし、分かる範囲で片付けて店のドアの鍵を閉めた。
「店主急用につき、数日お休みさせていただきます」
 プレートの下にお知らせを貼り付けて、鍵は管理事務所で預かってもらうことにする。
「とりあえず団地祭りの予備の屋台、どこかに声を掛けられるようにしておきましょう」
「了解です」
「じゃあ私はこれで市役所に戻って諸々報告しておくので、大川君は予備の屋台の件と、マスターから何かあったら対応、お願いしますね」
「はい」
「私も何かあったらすぐに駆けつけられるようにしておきますので」
「お願いします」

 森本さんと別れて、実行委員の代表にもしかしたら一店舗キャンセルになるかもしれないとだけ伝えた。須崎さんと大迫さんのことは言わないでおいた方が良いと思ったからだ。
 実行委員にもこれ以上のツテはないということで、もしかしたら空きのままになってしまうかもしれない。せっかくの団地祭り、多くの屋台で埋めたいという気持ちもあった。
 市役所の職員食堂に頼んでみるか? いろいろとメモ帳にアイディアを書いては消し書いては消し、気づけば俺はサ店の外に取り付けてあるベンチに座っていた。
 須崎さんが大学病院へ向かってから三時間が経過していた。大迫さんはどうしただろうか。須崎さんは何を思ってこの時間を過ごしているだろうか。

 その時、俺のスマホがピピピと通話の着信を知らせた。
『もしもし大川です』
『須崎です』
『マスター、お疲れ様です。大迫さんどうでした?』
『結果から言うと手術は成功です』
『良かったぁ』
『それで、実は僕もすっかり疲れてしまって、今日はこのまま自宅へ帰りたいのですが』
『大丈夫です。店は森本さんとふたりでしっかり安全確認して、鍵は管理事務所へ預けました』
『ありがとうございます。それを聞いて安心しました』
『マスターまで倒れちゃったら元も子もないので、今日は帰ってゆっくり休んで下さい』