お盆を過ぎたあたりから、ゲリラ豪雨が毎日のように降っている。打ち合わせに行こうにも外にすら出られない状況で、窓口に来る人も少なく、市役所全体がどんよりとした空気に覆われていた。この人を除いては。
「再生くぅん、ぐふふ」
「だから職場でそのあだ名はやめて下さい」
「みやびちゃん制服バージョンのフィギュアをゲット出来たんです。制服バージョンはレアなので、今日は何か特別なことが起こるに違いありません」
「そうですか。市役所に大きな雷が落ちるかもですよ」
「それもまた一興。この建物には大きな避雷針があるので大丈夫です。さて、フィギュアを買ってしまったのでお昼はコンビニ飯ですが、大川君は何を食べるのですか?」
「俺ですか? 俺、今日本当は外で食べる予定だったんで、何も持って来てないんですよ。職員食堂は今日休みだし」

 森本さんに教えてもらって以来、チャンスがあれば通っている職員食堂が改装中ということで、エネルギー不足なのもあって、俺はどうにも森本さんのいつもと変わらないテンションについていけずじまいだ。朝はゼリードリンク、夜はカップラーメン、昼飯しかちゃんと食ってないもんな、俺。
 というか、むしろこのゲリラ豪雨と蒸し暑さの中で、夏バテもせずにいつもと同じパフォーマンスが出来る森本さんがすごいと思う。

「雨が止んだら、団地祭りの打ち合わせがてらちょっとサ店へ行ってきます」
「マスターによろしく言っておいて下さい」
「はい」

 今日の午前中にやるはずだった団地内で行われる夏祭りの打ち合わせは、この雨でポシャってしまった。
 団地に人が少なくなって団地祭りは自然消滅してたそうなんだが、ここ最近少しずつ住民が増えてきているのと、町興し? 団地興し? にもう一度やってみてもいいんじゃないかという案が出て、その実行委員として再生課の職員も参加することになった。
 午後にもう一度実行委員の人たちとアポを取ってみていけそうだったら団地へ向かおう。その前に、サ店でトーストとサンドイッチを昼飯代わりにしよう。コーヒーと一緒に。
 よし、何だかテンションが上がってきたぞ。

 団地に着いてみると、サ店の前に植えられたイヌツゲは雨滴でぐっしょりと濡れていた。水はけの良いように少しだけ斜面をつけ、屋根で雨よけがされているはずの団地のアーケードも、水溜まりがあちこちに出来ていた。