「アイファンオタ、隠れが多いもんね」
「ねぇ」
 そこで二人は、初めてふふっと笑い合ったようだった(ほら、俺背中向けてるから、雰囲気でしか分からんし)。

「森本さんに伝えよう伝えようって思ってたんだけど、何となく昔の罪滅ぼしの代わりにしてしまっているような気がして……。勇気を出そうとしてはためらってしまって、ずっと言えなかったのぉ……」
「そうだったんだ。私、机の上にフィギュアまで飾ってるし、てっきり不快な思いをさせてしまったのかと」
「ううん、そんなことないのぉ。福祉課と再生課ってあまり交流ないでしょぉ? たまに用事が出来ると嬉しくってぇ。だって森本さん、新キャラゲットするの上手いしぃ」
「実は最近不調」
「え、そうなのぉ?」
「うん、キャラクターくじでみやびちゃん制服バージョンがどうしても当たらないんだ」
「あれ、レア中のレアだもんねぇ」

 何だか俺の背中の向こうで、キャッキャとはしゃぐ声がするな? 須崎さんの顔を見ると、須崎さんもまた俺を見返して、小さく笑った。森本さんと林さんの心にわだかまっていたしがらみは、無事に解けたみたいだ。

「おかわり、いかがですか?」
 須崎さんが、カウンターから森本さんと林さんへ声を掛けた。
「お言葉に甘えて、いただきますぅ」
「じゃあ私も。エメラルドマウンテン、いただきます」
「かしこまりました」
 じゃあ俺は、臨時の給仕係に徹することにしますか。

 結局のところ俺が何をしたわけでもないが、森本さんと林さんはアイドルファンタジー好きという共通点でお互いの殻を破ることが出来て、一件落着だ。

「私、森本さんとこれからもお茶会したいなぁ」
 んふふと林さんが笑う。バッグからアイファンステッカーの貼ってあるスマホやポーチ、缶バッヂなどを続々取り出しては、森本さんと盛り上がっている様子は、本当に楽しそうだ。
 これ私持っていない、不覚……!と、森本さんもこれまた興味深そうに銀縁眼鏡をカチッと上げては、缶バッヂをまじまじと見つめている。
 ──あれ?
 俺は思わず自分の目をこすった。
 いつもは見えない森本さんの銀縁眼鏡の奥に、楽しそうな眼差しが見えるのは気のせいか?

 森本さんが、ぼそりと呟いた。
「……林さん、声を掛けてくれてありがとう。ぜひお茶会したい」
「わぁい。ね、仕事以外では名前呼びでもいいぃ? オタ友が出来たの嬉しくってぇ」
「もちろん」
「私たち、苗字しか自己紹介してないよねぇ? 私は林さと美だよぉ」
「そうだっけ。私は森本める。改めてよろしく」
「める!?」
「何ですか、再生くん」