「らしいです。普段から足を庇って歩くので、腰痛には悩まされていたみたいです」
 数日後、仕事のついでにサ店へ立ち寄った際、福留さんお願い作戦を須崎さんへ伝えたところ、少し心配な返事が返ってきた。
「ですが、ヘルパーさんが来てくれたので、大事にならずに済んだようです」
「良かった。ちょっと前の福留さんだったら、ほっときゃ治るとか言いそうですもんね」

「再生くんも、若いからってぎっくり腰なめたらダメよ!」
 サ店の前で掃き掃除をしていた須崎さんと立ち話をしていたら、後ろから声を掛けられてびっくりした。
「前島さん!」
「いらっしゃいませ」
「マスター、いつものちょうだいな。はぁ疲れた」
「かしこまりました」
 買い物帰りの前島さんは、ありがとねと言いながらマスターが開けたドアから店に入り、近くの椅子によっこいしょと座った。ふたつの買い物袋は食料品で一杯だ。
「たくさん買いましたね」
「今日火曜日だから、冷凍食品が安いのよ」
「へぇ、冷凍食品」
「そ。この歳になると作り置きなんかしたって食べきれないもの。無駄にしちゃうくらいなら冷凍食品を使った方が良いの。美味しいしね」
「なるほど」
「で? 福留のおじいちゃんに何の用事だったの?」
 
 さすが耳の早い前島さんだ。俺には、前島さん包囲網を上手くかいくぐれる自信はない。ここはひとつ、前島さんに頼んだ方が早いかもしれない。
 須崎さんの方をちらりと見れば、コーヒーをカップに注ぎながら、達観したような顔で小さく頷いている。すべて話せ、と。

「林さんと森本さん接近作戦ね……あらやだ。林さんと森本さんが仲良くなったら、森林じゃない、あっはっは」
「は……ははは」
 前島さんのペースは相変わらずぐいぐいくるな。

「福祉課の林さんを呼び出す、ねぇ……。あ、そう言えば松木さんが、包括支援センターの申し込み方法を知りたがってたわねぇ。広報誌は読みづらくて、どこに電話をしたらいいのか分からないって言ってたわ。そうそう松木さんねぇ、最近ちょっと物忘れが酷いのよ。娘さんがいるんだけどね、あまり頼りたくないって……あの人もほら、いろいろあるから」
 前島さんの独壇場は続く。松木さんがだれなのか俺にはピンとこないが、前島さんの頭には、何号棟の誰々さんという情報がぎっしり詰まっていそうだ。
「──って感じで、包括支援センターの案内をお願いしたらいいんじゃないかしら、林さんに」
「はい」
「私から松木さんに言っておくわ。林さんに聞いてみましょって」
「何から何まですみませんです」