俺にはよく分からないが、カントリー調のファッションってところだろうか。林さんは、よくこういう服を着ているイメージがある。ユニセックスなパンツルックの森本さんとは対照的だ。
「林さん、お疲れ様です。もう福留さんのところへ行きますか?」
「それがねぇ、福留さんに電話してみたら、訪問ヘルパーさんと意気投合しているみたいでねぇ。間に合ってるから来なくていい、ですってぇ」
「へぇ。良かったじゃないですか」
「ええ。やっと行政サービスを罪悪感なく利用してくれるようになったみたい。私も肩の荷が下りましたよぉ。大川君はじめ再生課の皆さんには本当にお世話になりましたぁ」
「いやいや、俺じゃないですよ。ここにいるマ」
──スターがうまいことやってくれたんです、とネタバレしかけた俺を、厨房から飛び出してきた須崎さんが遮った。
「そろそろ夕方の仕込みがあるので」
「あっ、すいませんお邪魔しましたぁ。じゃあ大川君、そういうことでぇ。もしまた何かあったらご協力お願いしますねぇ」
「了解しました、お疲れ様です」
 福留さん事件簿はあっけなく収束を迎え、福祉課との合同案件はおしまいとなった。
 
「福留さんも気持ちの切り替えが出来たようで、良かったですね」
 アイドルタイムが終わるのは本当のようで、須崎さんは夕方以降の軽食に使う食材を小分けにし始めていた。
「ヘルパーさんに付き添ってもらえるので、この店に来ていただく回数も増えましたし、他の住民の方とも、よくお話されているようです」
「そうなんですか」
「再生くんにも、もっと会いたいと言っていましたよ」
「はは」
 再生くんなんて大げさなあだ名はさておき、一年前までは別の部署で華々しく活躍したいなんて思っていた俺が、今の仕事をもっと頑張ってみたいと思っていることに、俺自身まだ信じられない部分はあるが、福留さんからそう言ってもらえて悪い気はしない。

「それはそうと、大川君」
「何でしょう」
「気がつきましたか? 林さんのバッグに付いていたキーホルダー」
「え? いや全然。俺、そういうの疎いんですよね」
 俺は、他人の顔色を伺うとか変化に気づくとか、そういうのはまったくダメなのだ。そういうわけで彼女が出来ても続いた試しはなく、そのうちに面倒くさくなって、わざわざ作ることもしていない。

「何のキャラクターかは分からないのですが、林さんの服には少し不釣り合いに思えたので、目に留まったんです」
「え、どんなキャラクターでした?」
 須崎さんはレジの横にあったメモ帳を取り上げると、少々……というか、けっこう拙い感じの絵を描いた。