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「雨衣華様は助かりませんでした」
 レイニーは淡々と言う。
「京太郎様はショックを受けられました。呆然とした日々を過ごしたのち、ふと気が付きました。自分はクローンの研究をしている。彼女を蘇えらせられるのでは、と」

「人間のクローンは許されていないぞ」
 険しい顔をした和俊が言うと、レイニーはうなずいた。

「ですから山奥に引っ越しをなさって、ひそかに作成を始められました。三十歳のときでした」
「京太郎は六十五歳だから、三十五年まえか」
 和俊がつぶやく。

「私が生まれるより前ね」
 心春もつぶやいた。

「羊のドリーが生まれる前じゃないか!?」
 孝行の言葉に心春が首をひねる。

「知らないのか、有名なクローン羊」
「知りません」
 心春の答えに、孝行はショックを受けたようだった。

「世界初の体細胞クローンの羊だよ。世界に衝撃が走った」
「クローンってそのころにはもう作られてたんですね」
 もっと最近の技術だと思っていた心春にはそれが衝撃だった。

「それ以前から受精卵クローンはあったが、体細胞クローンはドリーが初めてだった」
 違いがわからなくて、心春はまた首をひねった。

「本当にクローンだったのか疑義を唱える者もいたが、科学界に激震が走ったのは確かだ。」
「京太郎様が成功したのはそれよりあとです」
 レイニーが言う。

「だが、結局は体細胞クローンを一人で成功させたんだろう? すごいことだ」
「二種類あるみたいですけど、どう違うんですか?」
 心春がたずねると、孝行はめんどくさそうに説明を始めた。

「受精卵クローンは、受精卵の分割が進んだ段階で核を取り出して、未受精卵に移植する。その後、分裂が進んでから仮親の子宮に移植する」

 核とか理科の授業で習ったなあ、となんだか懐かしくなった。

「体細胞によるクローンを誕生させるには、元の細胞の核を、核を抜いた未受精卵に移植して融合させ、胚になったところで仮親の子宮に移植、受胎させ、出産させる」

 心春がまた首をひねると、孝行はため息をついた。