二人は順調に交際を続けた。
 卒業後、彼女は就職し、京太郎は大学院に進んだ。

 彼は修士課程を修了すると博士課程に進んだ。
 彼女が就職してからケンカが増えた。社会人と学生の常識が違い過ぎて、何度もすれ違った。

 それでも二人は交際を続けていた。

 彼はいくつかの特許をとり、企業に使ってもらえることになった。
 その収入を頼りに雨衣華に結婚を申し込んだ。

 まずは卒業して就職してからね。
 彼女はくすくすと笑って返事を保留した。

 彼が卒業するまでに、彼女の両親が相次いで亡くなった。
 この世で一人ぼっちになっちゃった、と彼女が泣いた。

 俺がいるから。俺は一人にしないから。
 そう言って彼女を励ました。

 卒業した彼は大学の助手として就職した。

 改めてプロポーズをすると、彼女はくすくす笑いながら承諾の返事をくれた。
 京太郎は大喜びした。

 二人で婚約指輪を見に行った帰り。

 赤信号に気付かなかった子供が飛び出した。
 子供を避けた車が急カーブして歩道に突っ込む。

 雨衣華が跳ね飛ばされた。
 つないだ手が強制的に離される。

 大きく宙を舞った彼女は、頭からアスファルトに叩きつけられた。

 京太郎はすぐに彼女に駆け寄る。
 黒い地面に、血の染みが広がっていく。

 それを止めようと、必死に手を当てた。だが、どれだけ強く抑えようとも、隙間からとめどなく赤い液体が——命が零れていく。

 ぽつぽつと雨が降り始めた。

「雨衣華!」
 呼びかけるが、返事はない。

 ざわざわと人の輪ができ始めた。
 降り出した雨は、すぐに勢いを増した。

「ういかああああ!」
 叫びは雨を裂くように響き渡った。