「雨の味方をするのは、名前にも使われているから?」
「名前、好きじゃないの」
 残念そうに彼女は言った。

「雨の衣だなんて嫌だわ。カッパじゃない」
「きれいな名前なのに」

「そう?」
「雨の衣の華でウイカ。響きもいいし、ロマンチックだと思う」

「あなたがそう言ってくれるなら、好きになれそうだわ」
 彼女はうれしそうに微笑した。

 京太郎はどきどきして彼女を見つめた。
「好きだよ」
 ぽろっと口から零れていた。

「え?」
「あ、あの、名前が……」
 京太郎はどきどきと付け足した。

「名前だけ?」
 いたずらっぽく彼女が見つめる。

「あの……本体も」
「本体って!」
 くすくすとまた彼女は笑った。

 京太郎は、やけくそで覚悟を決めた。
「好きです。つきあってください!」
 大声で言って、頭を下げる。

 周囲の人が驚いて二人を見るが、京太郎にかまう余裕はなかった。

 断られるだろうことはわかっていた。
 彼女は美しくて、自分は普通の人間だ。

 いや、普通よりダメだ。服はセンスないし、梅雨の時期に傘を持ってこないほどのドジだ。おまけにこんなダサい告白なんて。

「よろしくお願いします」
 聞こえた声に、京太郎はため息をついた。

「やっぱりダメで……え?」
 驚いて、彼女を見る。

 彼女はくすくすと笑って京太郎を見ていた。