彼女は連絡をくれた。
 お礼に対してのお礼の電話だった。

 お礼なんて良かったのに。
 くすくすと笑いながらそう言った。

 京太郎はその後、彼女を見つけるたびに話しかけた。
 彼女はいつも友達と一緒にいるから、話し掛けるタイミングに苦労した。

 雨衣華は同学年の文学部で、京太郎は生物理工学部でクローンの研究をしていた。

 それを聞いた彼女は顔を輝かせた。
「クローンって難しそう。如月さんって頭がいいのね」
「そんなことないよ」
 京太郎が照れると、くすくすと彼女は笑った。

 徐々に距離を縮めていき、ようやくデートにこぎつけた。

 その日もまた雨だった。
 ショッピングをしてからビルの展望フロアへ行く。
 雨のせいか、土曜日だが人は多くなかった。

 窓の外は一面のグレーだった。
 眺めの良い景色を見るはずだったのに、台無しだ。予定をうまく変更できない自分にため息をついた。

 幻滅されただろうか。
 京太郎は不安になって彼女を見る。

 彼女は白い手摺に手を添えて雨粒のついたガラス越しに景色を眺めている。がっかりするどころか、心なしか楽しそうだった。

 雨にけぶる街は風情があるように見える。京太郎は彼女が同じように見てくれていることを期待した。

「雨ばっかりで嫌になるね」
 京太郎はあえてそう言った。

「でも、雨が降らないと作物が実らないのよ?」
 期待とは違ったが、雨を肯定する答えに、なんだかうれしくなった。

「晴れてたほうが気分がいいよ」
 あえてまた否定してみた。

「しとしと降る雨も風情があると思うけど」
 くすくすと笑って彼女は言った。

 その笑顔に、京太郎は見とれた。