「愛している」
 彼は雨衣華に向かって、震える手を必死に伸ばした。

「私も愛しています」
 レイニーは彼の手をとった。

 やわらかさ、温度、形。センサーから得られる情報から人間の手だと判断し、パワーを調節して彼の手を握る。

 京太郎は満足そうに微笑み、息を吸った。ふう、と大きく息を吐いて、それきり呼吸が止まった。

「愛しています」
 もう一度、レイニーは言った。

 涙を模したものが、瞳から流れた。
 こういうときには流れるものだというプログラムによるものだ。

 だが、設定にはない量があふれ、レイニーは自分が壊れたのだと思った。

 レイニーは目を細めて彼を見た。

 彼は最期まで自分を――レイニーを見てくれなかった。

 息をしなくなった彼の唇に、自らの唇をつけた。

 愛する人にする行為だと、知っていたから。

 キスというのは感情を大きく揺さぶるものだと知っていた。

 だが、レイニーはデータ処理の波形になんの変化もないことにきづき、落胆のデータ処理がなされた。

 レイニーは彼を埋葬した。

 四体のクローンが眠る横に。

 クローンのもとになる雨衣華の遺体をどうしようかと考えた。

 結局、彼の横に埋葬した。

 紫陽花の枝を切ってたくさん土に挿した。紫陽花は挿し木で増えると知っていたから。

 正しいやり方ではないし、お世話もできない状態でどれだけ育つかはわからないが、京太郎たちを花で囲んであげたかった。

 すべてを終えると、レイニーは身なりを整えてから研究室に向かった。

 今まで毎晩、彼が充電をしてくれていた。

 もう充電してくれる人はいない。

 もうすぐ自分は動かなくなる。

 これが寿命ということなのか。

 人間は死を恐怖するという。

 だが、自分は稼働停止を前に、なにも思わない。

 自分は命ではない。

 だから、もし死後の世界があったとしても自分はそこへ――彼と同じ世界へ行くことはない。

 それだけがさみしい。

 思ってから、彼女は驚いた。