「おかしいわ、京太郎さん」
「その笑い方をやめろ! それは雨衣華のものだ!」
 彼女はまた驚き、笑うのをやめた。

「しょせん、俺が組んだプログラムだ」
 彼は吐き捨てるように言い、窓を見た。
 雨がざあざあと打ち付けるように降っていた。

「お前は今日からレイニーだ」
 彼女は目を見開いて彼を見たあと、うつむいて涙をこぼした。それもまた、反応を学習した結果の人間の模倣だった。

 次に目覚めたとき、彼女は自分がレイニーだと自覚した。更新プログラムにより、くすくす笑いをしてはいけない、と刻み込まれていた。

***

「京太郎様は三十五歳を前に、人工子宮を完成させ、クローンの開発を再開しました。私はそのお手伝いをしました」
 レイニーの言葉に、孝行はただただ驚いた。

「ありえない。当時に一人でこんな高度なAIを開発して、なおかつ人工子宮だなんて、世界が変わる!」
「執念だな」
 和俊がつぶやく。

 心春には京太郎が理解できなかった。
 自分がそれだけの頭脳を持っていないからだろうか。

 能力があり、実現できそうだからこそ可能性にすがってしまう。

 それは希望というより、いっそ泥沼だ。はまりこんで動けず、引くことはできない。届きそうで届かない岸辺に、どれだけ焦燥を募らせるはめになるのか。

 だが。

「彼の努力は実を結び、クローンの雨衣華様が誕生しました」
 レイニーの言葉に、全員が息を呑んで続きを待った。