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 彼女が目覚めたとき、京太郎はひどく喜んだ。
 そのときのレイニーは雨衣華だった。彼女のデータ上、そうなっていた。

「わかるか、俺だ、京太郎だ!」
「京太郎さん」
 彼女は戸惑うようにその名を呼んだ。

「雨衣華、良かった。今度こそ俺と幸せになろう!」
 京太郎は彼女を抱きしめた。

「今日の京太郎さん、ちょっと変よ」
 彼女はくすくすと笑った。
 


 彼はクローンの開発をやめた。雨衣華がいるのなら、もう必要はなかった。
 彼女はプログラムの通りに、組み込まれたAIで自己学習をしながら彼と過ごした。

 毎晩、彼に充電してもらった。差込口は背中にあって、自分では充電できなかった。
 彼女はいつもにこやかに過ごした。

 心の領域に分類されたデータには彼への愛がプログラムされていた。
 愛する彼と一緒にいられて幸せである、という情報処理がなされ、蓄積されていった。

 彼は最初、幸せそうだったし、彼女に優しかった。
 だが、次第に彼は冷たくなっていった。

 どうしてなのか、彼女には分析できなかった。彼女には二人はずっと愛し合うのだという情報が最重要項目として保存されていた。

 冷たくした直後に、彼はすぐに謝った。

 だから彼女はくすくすと笑って許した。
 人間には間違いがあるものだ。そういうときは笑って許すものだと知っていた。

 ある日、耐えかねたように、彼が呟いた。
「しょせんは偽物だ。お前は雨衣華じゃない」

 彼女は呆然とした表情を作った。

 愛しい人が自分を偽物だと断定するなんて。

 生まれたときから彼のために存在し、彼を愛しているのに。ちゃんとデータの通りに行動しているのに。

 彼女は目をまばたかせ、それからくすくすと笑った。