「どちらにしても仮親が——女性が必要なんですね」
 心春は顔をしかめた。協力する女性はいたのだろうか。

「解説はあとにしてもらおう」
 和俊が遮り、レイニーを促す。

「レイニーさん、続きを」
 彼女はうなずき、話を続けた。

***

 京太郎は助手をやめて山梨の奥地に土地を買い、研究施設と住居を作った。

 特許のおかげで資金は潤沢にあった。

 命を失った雨衣華は、彼が引き取って冷凍保存していた。だから元になる細胞に不自由はしなかった。

 未受精卵は海外から買えば良かった。

 問題はそのあとだ。
 クローンを作るには、仮親となる女性が必要だ。

 だが、そんなことを頼める女性はいない。
 金で雇うことも考えたが、人間は口が軽い生き物だ。いつ秘密をばらされるかわからない。

 だから彼は人工子宮を作成した。その間、クローンの研究は止まった。

 羊のドリーの成功は彼の心を励ました。
 彼は必死に人口子宮を作成した。
 マウスを使った動物実験で成功したとき、三十四歳を超えていた。

 人工子宮の作成と並行して、アンドロイドを作った。
 アンドロイドは人工子宮よりもたやすく感じられた。
 
***

「そうして、私は作られました。当初は雨衣華と呼ばれました」
 レイニーは言う。

「京太郎さんはクローンよりも先に生まれた私を愛そうとしてくださいました」
 レイニーはまた目を伏せ、悲し気に続けた。