【リシャール歴_1年25日~30日】
 “月虹商会”と取引を結んだ後も、リシャールさまは変わらず紙を漉く毎日だ。子どもたちの間では“紙漉きごっこ”が流行っているらしく、板を水に漬けてバシャバシャと遊ぶ光景が村のあちこちで見られる。リシャールさまの道具と同じような玩具を作ってあげたら大喜びされた(私は大工仕事がわりかし得意である)。
 紙を漉く毎日の中、“キウハダル”全体の探索も行った。北には湖があり、村の水源として使われている。東から南には森が広がり、西は荒れ地。
 森ではリシャールさまが望む糊として使えそうな素材を探した。ヒカリ苔という光る苔は入手できたが、リシャールさまが欲しい植物は見つからなかった。残念だ。私が思うより、珍しい植物なのかもしれない。
 探索をしていると火焔蜥蜴が出現したので、【剣聖】ジョブを使い切り刻んでおいた。リシャールさまが「和紙の素材に使えるかも……」と言うので、皮を渡すとヒカリ苔とともに嬉しそうに細かく加工していた。隅にイラストとして記録しておくので、参照されたし。
 探索が終わった夜。王国騎士団の一行が村を尋ねた。“北方警備隊”の副隊長アランさんと、四人の騎士たちだ。防寒具と灯りの燃料が欲しいとのこと。村にはどちらもあるが、あいにくと重い物ばかりだ。北方地域まで運ぶのは難儀だと考えられる。
 そこで、リシャールさまは専用の特別な和紙を作ると提案した。“温かい和紙”に“光る和紙”。どんな品になるのか、今から楽しみだ。

【リシャール歴_1年31日~42日】
 翌日から、さっそく和紙の生産が始まった。温かい和紙は火焔蜥蜴の皮を、光る和紙はヒカリ苔の繊維を使うそうだ。ちょうど素材が入手できてよかった。
 諸々の準備の後、リシャールさまが紙を漉き始めると、アランさんたちは圧倒されていた。パワーあふれる光景だからしょうがないだろう。和紙の製作は順調に進み、二種類の和紙が生産された。巻きつけるとお風呂のような温かさをもたらす“懐炉和紙”に、魔力を包むと自動で浮遊し優しく照らす“灯り和紙”。やはり軽くて持ち運びしやすく保管スぺースも少ないのはありがたいようで、アランさん一行は大変に喜んでいた。
 温かく明るい……まるで、リシャールさまの心が具現化したような和紙だ。これも村の新しい特産品になるだろう。「“月虹商会”に卸してみては?」と、リシャールさまに進言すると快諾された。
 ナタリーさんが村に来ると困るので、手紙でやり取りを進める予定だ。