外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

 まず王都の構図について説明するぞ。
 
 「王都の門は東西南北に四箇所ある。そんで魔物が発生したのは東門らしい」
 
 エリックが話始めるとリズが手を挙げる。
 
 「なるほど~今私たちがいるのは東門のすぐ近くだし、魔物を後ろから奇襲……とかどう?」
 
 その言葉にエリックが反応する。
 
 「いい案なんだが、ただ後ろから奇襲しても数が多すぎて俺らがやられる可能性しかない。数を削ろうにもあまりにも多いしな、もっといい手は無いものか……」
 
 するとレズリタが提案する。
 
 「ねぇねぇ! 私達が二手に分かれて戦おうよ! ほら私とラゼルは魔法を使えるし。リズとエリックは剣を使えるでしょ?」
 
 確かに二手に分かれた方がいいかもしれないと思い私も提案に乗る。
 
 「じゃ二手に別れて私とラゼルが左翼、レズリタとエリックが右翼でいいかな?」
 
 私達3人は問題無いのだがエリックは問題があるらしい。
 
 「ちょっと待ってくれ!君たちだけで左翼は危険だ!」
 
 エリックは心配してくれているみたいだった。

 しかし悩んでいる暇はない。
 
 「でも……しょうがないよな……」
 
 私はエリックの気持ちを汲んで感謝する。
 
 「ありがとうございます。心配してくれて」
 
 私がそう言うとエリックは口を開く。
 
 「俺は3人に命を救われた、だから俺も君たちに命を張るのは当然さ」
 
 頼もしい言葉をもらい私もその言葉に応えるためにやる気が湧いてきた。

 するとリズが口を開きみんなを鼓舞する。
 
 「じゃあ二手に分かれて戦いましょう!」
 
 私たちは頷きそれぞれの担当の場所に散っていったのだった。
 
 まずは左翼に移動を開始した私とリズだが、少しずつ魔物が見え始める位置まで進んできている。

 やはり数が多そうだ……。

 と思っていると門付近には騎士団や冒険者が戦っており、魔物をどんどん殺している。
 
 「私達も急ごう!」
 
 リズがそう言うと私たちは走り出す。

 魔物は私たちが後ろにいることを気づいていないらしい。

 どんどん近づいていくと魔物が1体私たちに気づく。

 それにつられるようにほか魔物も私たちの存在に気づき始める。

 その時リズがスキルを発動する。
 
 「〈バーチカルッッ!〉」
 
 さすがリズだ。

 先制攻撃を決めてくれるとは頼もしい。

 魔物はオークの上位種だった、体は大きく2メートル程あり腕が太い。

 そして目が血走っている。

 そんなオークがリズに襲い掛かろうとしていた。
 《ブリザードッッ!》
 
 私は手を挙げてスキルを発動し、冷気がオークを襲う。

 オークは冷気を浴び体を凍らせてしまって動かない。

 そこにリズが追撃をかけるようにスキルを発動させる。
 
 「バーチカルッッ!」
 
 綺麗にオークは切り刻まれ絶命してしまう。

 それを見たオーク達は一気に襲いかかってくる。

 私は束になって襲ってくるオークに向けてスキルを発動する。
 
 《ポイズンッッ!》
 
 ポイズンを食らったオーク達の体は溶けていき見るも無惨な姿になってしまう。

 そしてそこにリズのスキルが発動する。
 
 「〈バーチカルッッ〉!」
 
 リズの剣撃をオークは避けられるはずもなく次々と屠られていき、あちらこちらに肉片が飛び散る。
 
 「す、すごすぎる……」
 
 私はリズの戦いぶりを見てドン引きしてしまう。

 そう思っているとリズが近づいてきて声をかけてくれた。
 
 「ラゼルの援護のおかげで凄い楽に倒せるよ! ありがとうね!」
 
 そんな事を言われたら嬉しくてたまらないがまだまだ魔物はいる。

 この調子でいけたらいいのだけど。

 そう思っていた時、なにやら不穏な気配が近づいている。

 その気配につられてると、それは瞬間的に見えた。
 
 「リズ! 危ないっ!」
 
 私はいち早く感知をし危機を察知したためすぐにリズを突き飛ばす事が出来たが、状況が分からないため戸惑いを隠しきれない……。

 なんと私とリズがさっきまで立っていた地面一帯がなにかによって消し去られていたのだ。

 この攻撃は恐らく……。
 
 「グォォォォ!!」
 
 ダークパンサーと呼ばれるAランクモンスターが私たちを見下ろしていたのだった。
 
 体長は5メートル程もあるダークパンサーの成体は顔までもが体毛で覆いつくされており、赤い眼光を放つその姿は迫力に満ち溢れていた。

 リズも状況が分かったようで真剣な顔つきになる。
 
 「とんでもない威圧感がある……これがAランク……」
 
 ホワイトウルフとは違いダークパンサーが本気で動いたらもはや止めることはできなくなってしまうだろう。
 
 ダークパンサーがこちらに近づいてくる……。

 その速度は遅いもののやはり恐怖心を抱いてしまう。

 リズもそうに変わりはないらしく顔が青ざめていた……。
 
 「大丈夫、落ち着いて対処すれば絶対に勝てるよ」
 
 そんなリズを安心させつつ私は魔法を唱える。
 
 『ポイズンッッ!』
 しかし魔法は不発に終わる……なぜ!?

 すると私の魔力が底を尽きかけていた。

 魔力の使用量が多すぎるためかもしれない。

 そんな事を思っていると再びダークパンサーの攻撃が迫ってくる。

 するとリズが剣を握りしめダークパンサーと正面衝突する。
 
 「大丈夫! 私がいるから!!」
 
 そう言ってリズが攻撃を受け止め、スキルを使って重い一撃を加える。

 しかしダークパンサーも黙ってやられない。

 素早く太い腕でガードをしてカウンターを仕掛けてくる。

 その攻撃をもろに食らってしまい、リズが口から血を吹き出てしまう。

 それを見た私はスキルを発動させる。
 
 《ブリザードッッ!》
 
 最後の魔力を振り絞り、私はブリザードを唱えた。

 ダークパンサーの体は凍ってしまって動きが停止する。

 そこにリズのスキルが発動する。
 
 『バーチカルッッ!』
 
 赤い斬撃がダークパンサーの体を切り刻み、ダメージを蓄積させ最後は核が壊れ体は灰となって消えていく。

 本当にギリギリの勝利だった。
 
 「ごめん、ちょっと私意識が……」
 
 「リズ大丈夫!?」
 
 私がそう言っているとリズは意識を失ってしまった。

 どうやらダメージを負いすぎたようだ。

 私の魔力も残ってないし一旦ここから引いた方がいいな……。
 
 私はリズを担ぎ後ろに後退する。

 まだ周囲にはオークがうじゃうじゃいたが先程、ダークパンサーを倒したため私達に警戒しているみたいだった。

 そうして少しずつ歩を進めていると後ろから不穏な空気が流れてくる。

 後ろには何かがいる……そう思い振り向くとそこには1人の少女が立っていた。

 私よりも年下に見える身長は小さく150程度だろうか。

 濃い赤髪の髪を肩まで伸ばしている。

 そしてなにより印象深いのは赤い目である。

 その赤い目がまるで獲物を捉えたかのような鋭い視線を放っているように見えてしまうため、私は恐怖を抱いてしまい動けなくなってしまう……。

 しかし少女が発した一言で状況はかなり一変するのであった。
 
 「あれれ? もしかして君たちがあの黒いパンサー倒したの? 強いんだね!!」
 
 そう言って少女は無邪気に笑っている。

 その無邪気な笑顔が私には怖く感じてしまっていた。
 
 「あはははは! 私を警戒してるんでしょ!」
 
 ますます意味が分からなくなり思考を巡らせていると更に追い打ちをかける。
 
 「だって私は〈影〉の龍力を取り込んだから!」
 
 そう言うと少女はクスクスと笑い出す。

 その瞬間に心臓が飛び跳ね冷や汗が吹き出るのだった。

 待て待て待て、明らかに頭がおかしい奴だ。

 しかもこれほどの魔力、私達とは別次元なのは間違いない。

 これは戦ったら絶対負ける……。

 いや生きて帰れないかもしれない……逃げようとしても逃げられる気がしない。
 
 そんな事を考えているとリズを担ぎながら動こうともしない私を見て少女が口を開いた。
 
 「私を警戒してるの?」
 
 そう言ってニヤリと微笑む。

 私はここから逃げられないことを悟る。

 恐らく逃げ出そうとしたところで射程圏内であるだろう。

 勝ち目はない、ならば会話をして時間を稼ぐしか……。

 そう思いながら私は言葉を絞り出す。
 
 「す、すみません……仲間を助けたいんです……見逃してくれますか……?」
 
 そう言うと少女は私を人差し指で差した。
 
 「仲間ね~それよりもさ仲間だと言ってくれなくて悲しかったよ~?」
 
 な、何が言いたいんだ……?

 少女は相変わらずニコニコと笑みを浮かべて口を開いた。
 
 「ねぇ……人間ごときが龍力を手に入れようだなんて分不相応だと思わない?」
 
 ゾワっと体中を恐怖が駆け回る。

 先程までは少女の純粋な笑顔が可愛らしくも思えていたが、今となってはその笑顔が全く違って見えてしまう。

 身が凍るかと思った……、何故なら少女の目も今、笑っているからだ。

 私は恐怖のあまり言葉が出ない。

 すると少女が口を開く。
 
 「だから私は龍を殺してみたの、そしてそいつの力を奪った」
 
 なんで少女はこんな話をしながら笑顔なのかが理解できないし理解したくない。

 すると少女は口を開き私が恐れている事を口にした。

 「だってあなたの能力......私達と同じで龍力を持ってるじゃない!」
 
 どういう事なのか全く私の中で理解が追いつかない……。

 私の能力は《コピー》じゃなかったのか?

 そしてこの少女はさっき私達の龍力って言ってたけど、どういう意味なの?

 他にもこいつの仲間がいるの……?

 私がそう頭の中でぐるぐる考えていると、少女は口を開いた。
 
 「仲間じゃないならさ~手加減してあげる必要はないね! あははは!!」
 
 そう言うと少女は高笑いをしながら私の方へ向かってくる。

 そして少女の腕が影と化しその影が私とリズを包んだ。

 私は影に包まれる瞬間に片手を挙げスキルを発動する。
 
 《コピーッッ!》
 
 ――――――――――――――――――――――
 《影》がコピーされました。
 
 あなたが使用できるスキル一覧
 ・《コピー》
 ・《ポイズン》
 ・《ブリザード》
 ・《影》NEW!
 ――――――――――――――――――――――
 
 そう言った瞬間私の片手から禍々しい魔力のオーラが発射される。

 そして少女の影と衝突し、激しい音と共に魔力が拡散してしまう。
 
 「あはは! そんなんじゃ私に傷はつけられないよ?」
 
 少女は黒い煙に包まれながらも無傷な様子であった。

 これはきつすぎる。

 そう思った時、少女の後ろから声が発される。
 
 「そこまでだ」
 
 声を発した先には男の剣士が立っており、黄色い前髪が揺れた気がする。

 すると少女が口を開く。
 
 「ちぇ~もう着いちゃったか~」
 
 少女はそう言うと黒い煙が晴れた。

 私は少し驚き少女の顔を見ると少女はニコッと笑いかけている。

 そこで男の剣士が口を開く。
 
 「君は何者だ」
 
 その言葉を聞いても笑顔の止まらない少女だったが、私の顔を見て一言呟く。
 
 「じゃあ、またね」
 
 そう言って少女は影の中へと消えていった。

 男剣士は私の方へ近づいてくる。
 
 「君達大丈夫か?」
 
 その問いかけに私は緊張の糸が途切れ少し声を発してしまう。
 
 「はい……」
 
 男剣士はその言葉を聞き安心してくれたみたいだった。
 
 「私は王国騎士団長、リスタだ」
 
 「私は……冒険者ラゼルです」
 
 私が名乗り終えると男は納得したようで更に口を開く。
 
 「君の仲間はある程度治癒魔法をかけておいたから安静にしていれば治るはずだ。」
 
 私は驚いてリズを見ると体の傷が回復し始めている。

 近くには黄色のような精霊が飛んでいるのが見える。

 精霊騎士かな……と思っているとリスタは口を再び開いた。
 
 「ラゼル、先ほどの少女についてなにか知っているか?」
 
 「すみません、あの少女については何も知らないです……。ただ〈影〉の龍力を取り込んだとか言っていました」
 
 「〈影〉の龍力か……情報感謝する」
 
 そう言うとリスタは剣を握りしめ驚異的な速さで走りだし魔物を次々と殲滅し始めたのだった。
 さすが王国一の王国騎士団である……先ほどまでいた魔物が一瞬で死体と化している。

 そう傍観していると2人の冒険者が私の近くに寄ってくる。
 
 「ラゼル、リズ大丈夫!?」
 
 私のもとに駆け寄ってきたのはレズリタとエリックの2人だ。
 
 「エリックにレズリタ!?」
 
 私が声をあげるとレズリタは事情を聞いてきたので私はこれまでの経緯を説明した。

 するとレズリタたちは驚きの顔をしたまま、口を開く。
 
 「信じられないけど……あのオークの数にダークパンサー……」
 
 そして続けてエリックも口を開いた。
 
 「す、すげえよ2人とも」
 
 そう言うと私の担っているリズを見る。
 
 「傷を治癒してくれてるみたいだけど……顔色も良くなってるみたいだし大丈夫そうだね」
 
 レズリタは安心している様子だったので、私はふと疑問に思ったことを聞いてみる。
 
 「そういえばレズリタとエリックは右翼でどんな感じだったの?」
 
 私がそう言うと2人は恥ずかしげに答えてくれた。
 
 「私達もオークとかは倒してたんだけど右翼は予想以上に魔物が多くてね……私の魔力が底を尽きた時には囲まれちゃって......」
 
 そうするとレズリタはエリックの手を見つめる。

 視線の先には擦り傷だらけの手があり、それを見たレズリタは申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
 
 「エリックごめん、私の魔力が尽きちゃったから......」
 
 そう言われてエリックは頭を書きながら答える。
 
 「魔力に限界があるのは仕方ないことだからさ! 大丈夫!」
 
 温かい言葉をかけるエリックにレズリタは照れつつ顔を伏せたのだった。

 するとリズが目を開けたので私は声をかける。
 
 「リズ、大丈夫?」
 
 その言葉にリズはハッと目を見開きキョロキョロと辺りを見回す。

 リズはラゼルの背中の上なのに気付き顔を真っ赤にしながら私から離れた。

 そして口を震わせながら、もごもごと小さな声で話し始める。
 
 「ありがとう……ラゼル」
 
 「いいの、気にしないで」
 
 私は微笑みながらそう返答をする。

 そんな会話をしていると後ろから聞きなれた男の声が聞こえてくる。

 振り向くとリスタがいたのだった。

 そして言葉を発する。
 
 「とりあえず無事だったようだな」
 
 その言葉を聞きエリック達は驚きを声で表した。
 
 「り、リスタ騎士団長!?」
 
 それには流石に私も驚きエリック達と同じような反応になってしまう。

 そこでリスタは私に向けて口を開く。
 
 「君達に伝えたい事があってここへ来たんだ。今回の魔物達の群れなんだが、人為的に起こされた可能性が高くてな......」
 
 その言葉を聞き私を除いた3人は驚きの顔を示す。
 
 「人為的ってそんなこと出来るの……?」
 
 レズリタがそう呟くとリスタは続けて口を開く。
 
 「平たく言えば龍の力をものにした人間の仕業という事だ」
 
 その言葉を聞き3人は顔をさらにこわばらせた。

 私はあの少女と散々会話していたため、3人よりも動揺は少なかった。

 するとレズリタが疑問の声をあげる。
 
 「人間は龍力を取り込めないはずじゃ?」
 
 リスタは顎に手を当てると、『いや』と呟きながら言葉を発する。
 
 「私も龍力について詳しいことは分からないが、風の噂だと龍力を取り込むことで体が適応できず精神が崩壊する可能性があると言われている。」
 
 その話にリズが不安そうな顔をする。
 
 それを見たリスタが続ける。
 
 「そして今回、私とラゼルが見た少女も恐らく適応しなかった人間の部類だと思われる。魔物を統率したのはきっとその少女だ」
 
 私もやはりそうなのだと確証を得られた。リズは不安げな表情を浮かべながらリスタに向けて口を開く。
 「リスタさん……その少女はまた襲ってくると思いますか……?」
 
 リズは不安になりながらもそう言葉にすると、リスタはいつもと同様に口を開く。
 
 「私はそう思って行動していくつもりだ」
 
 リスタのその強い言葉に私達は固唾が喉を通る感覚を覚える。

 こうして会話が終わろうとしていた時、騎士団がリスタに駆けつけてくるのが見て取れた。
 
 「リスタ騎士団長、そろそろ王都に戻りましょう」
 
 騎士団がそういうとリスタは頷き騎士団長らしい言葉を発した。
 
 「王都に帰還するぞ」
 
 すると周りにいた騎士、冒険者達は歓声を上げリスタ騎士団長に着いていく。

 こうして魔物の大襲撃事件は終わりを告げた。
 
 「はぁーやっと着いた!」
 
 レズリタが疲れた声をあげながら口を開いた。

 私達は馬車から降り、ようやく王都の中に入ることができ安心する。

 するとリズが口を開けた。
 
 「皆疲れたと思うし、宿屋で体を労ろう!」
 
 それを聞いて私含めた3人が頷く。

 そう、さすがに今日は色々ありすぎたので疲れた……。

 今はとりあえず体を休めるのが大切だ。
 
 そうして私達は宿屋に向かったのだった。
 
 「私はもう魔力が全然残ってないよ……」
 
 そう言ってレズリタがベッドにもたれ掛かるとすぐに目を閉じ寝始めてしまった。

 エリックも久しぶりに動いたため疲れたらしく、すぐ部屋に行き寝てしまった。

 そんな2人を見ていたリズはクスッと笑うと口を開いた。
 
 「ラゼル先にお風呂入っちゃっていいよ!」
 
 「ありがとう」
 
 そう言うとリズはバスタオルを取り出し渡してくれたのでお風呂場へと向かったのだった。
 
 お風呂から出た後は特に何もせずリズとご飯を食べ、私は先に部屋に向かう。
 
 「……なにこれ?」
 
 そうして私の目の前のベッドには抱き枕を抱きしめながら眠るレズリタとエリックの2人がいたのだった。
 
 2人とも無防備なまま眠っている。

 今日は頑張ったので無理もないだろう。

 私はその光景を見て頬が緩む。

 するとリズの声と足音がした。
 
 「どうしたの……あはっ」
 
 2人を見つけるとリズも笑い出してしまうのだった。
 
 「2人とも疲れちゃったんだね……、そーっと寝かせてあげようか」
 
 「そうだね」
 
 そうして私達は明日に備えて早々に寝るのであった。
 
 次の日の朝。
 
 窓から差し込んだ光で私は目が覚める。

 こんな朝早くに目が覚めるのは珍しなーと思いながら私は隣のベッドで寝ているリズの方を見ると幸せそうな顔をしていて安心する。

 その隣を見るとエリックが居てレズリタが......いない。

 どこにいるのかと私は周りをキョロキョロとしていると扉に人影が見えたのだった。
 
 「ふぁ~ラゼルおはよう」
 
 扉を開けたのは眠たそうな目をしているレズリタだった。

 私よりも5分前に目が覚めたみたいで眠たそうな顔を浮かべていた。
 
 「おはよう、レズリタ」
 
 私はレズリタに挨拶を済ませると、軽く準備をし、レズリタと1階に向かうのだった。
 
 1階は食堂となっており、朝食がとれるようになっていたので私達は席についた。
 
 朝は少し肌寒かったので私は朝ごはんのミルクを注文する。
 
 そして運ばれてきたミルクを私は喉に流し込む。

 椅子の背もたれによりかかってのんびりしているとレズリタが食べながら私に声をかけてきた。
 
 「ねぇラゼル……朝ごはん食べ終わったらさ、ちょっと話があるんだけどいいかな」
 
 「話……?まぁいいよ」
 
 こうして私達はご飯を食べ、外に出る。

 ちなみにリズとエリックは疲れているようだったのでまだ寝かせている。

 そうしてレズリタと歩きながら空を見てボーッとしていると、レズリタが話しかけてきた。
 
 「ねぇラゼル……」
 
 「何?レズリタ」
 
 私は空を見ながら答えると、レズリタは再度口を開いた。
 
 「えっと……その……な」
 
 「どうしたの?何かあったの?」
 
 そこで少し沈黙になったと思ったら言葉を口にしてくれた。
 
 「私と魔法で対決してほしいんだ……!」
 
 その言葉を聞いて私は不思議そうに問いかける。
 
 「どうして?」
 
 そうするとレズリタは更に言葉を発した。
 
 「私もっと魔法を……強くなりたいんだ……!」
 
 その言葉を聞いて私はなんとなく理由を理解することができた。

 真面目な顔をしてレズリタは言ってくるので、私は迷う事なく返答する。
 
 「いいよ」
 
 「ありがとうラゼル!」
 
 そう喜ぶレズリタを見て私は自然と笑みがこぼれる。

 「それじゃあ近くにある訓練所でやろ~」
 
 「わかった」
 
 そうして私たちは訓練所へと向かい歩いていくのであった。

 数十分ほど歩くと訓練所に着くことができ、受付を済ませ模擬戦を行う事にした。
 
 お互いある程度の距離を取り向き合い、顔を見合う。
 
 「準備は良い? ラゼル」
 
 「こっちはOKだよ、レズリタ」
 
 2人が準備できた事を確認すると審判役の女性が合図をする。
 
 「これよりラゼル対レズリタの魔法対決を行います」
 
 私とレズリタは魔力を解放し戦闘態勢に入るのだった。そして審判が口を再び開く。
 
 「始め!」
 その言葉と同時にレズリタは片手を上げると、雷が集まりはじめやがてレズリタの周りを包み雷が腕を伝っていく。
 
 そして片方の手に集められた雷撃を私の前に向けつつ口を開いた。
 
 「〈ボルト〉」
 
 その詠唱とともに腕に集まった雷撃が瞬時に私のもとへと襲いかかってくる。
 
 それに対して私も魔法を発動する。
 
 《コピー》
 
 私の魔法を見てレズリタは驚きの声をあげた。
 
 「えっ!?」
 
〈ボルト〉は私の目の前でピシャリと音を立てて消失するのだった。
 
 その様子を見た審判が驚愕の声を上げる。
 
 「な、なんですかその魔法は!? 見たことも聞いたこともありません!」
 
 そんな事を言って私に顔を向けてくるので私は首を振り知らないと答えた。
 
 私はこの《コピー》の使い方が分かってきた気がする。
 
 最初はあんまり分からなかったけど、少し使うたびに理解できていく感覚がとても楽しい。
 
 この《コピー》は相手の能力を一時的に消すことが出来るからかなり強い……と勝手に思ったりした。
 
 するとレズリタが口を開く。
 
 「流石ラゼルだね……じゃあ次の魔法いくよっ〈フレイム〉!」
 
 レズリタの前には炎の柱が出現し私の事を燃やさんと襲いかかってくる。
 
 そこで私は人差し指を前に突きだすと一言。
 
 「《ブリザード》」
 
 私の手から発せられた白い靄が炎をかき消す。

 そして炎柱は私の氷によってカチンカチンに凍らされてしまった。
 
 私は驚きのあまり声を上げているレズリタをみて勝ちを確信したのだった。
 
 「なっ!?」
 
 「レズリタ、次は私の番だよ……!」
 
 私は手をレズリタに向けてスキルを発動する。
 
 《ポイズン》
 
 そんな詠唱と共に毒の液体がレズリタを襲わんと向かっていく。
 
 レズリタはそれを瞬時に避けるが、私はそれを見越してさらに追い打ちをかける。
 
 「〈ブリザード〉」
 
 冷気がレズリタを襲い、足と地面が凍って行く。
 
 するとレズリタが瞬時に反応し、口を大きく開ける。
 
 「《ファイア》!」
 
 唱えた直後、レズリタの周りに火炎が発生し、やがて氷を打ち砕き追い打ちを防ぐのだった。
 
 そして私に向け炎弾を発射してくる。
 
 「まだ負けてないよ!」
 
 そう言うと同時に炎弾は私のもとに飛んでくる。
 
 私はその様子をみても落ち着き、《ブリザード》を使用するのだった。
 
 そして飛んできた炎弾は消え、相殺される事となる。
 
 「そんなのってあり!?」
 
 レズリタは驚くと言葉を発するが、私は追撃の手を休める事はない。
 
 《ポイズン》 そう唱えると私の手のひらから放たれた毒の液体がレズリタに迫る。
 
 しかし今回は反応できず、もろにくらってしまうのであった。
 
 そしてレズリタは力尽きて地面に倒れる。
 
 「そこまで!」
 
 審判の声と共に戦闘は終了し、私はレズリタのもとに向かう。
 
 「大丈夫? レズリタ」
 
 声をかけると、目をそっと開けたレズリタは悲しい声を発すのだった。

 「うう、やっぱりラゼルには勝てないのか……悔しいよぉ~」
 
 私は苦笑いしながら告げる。
 
 「私と戦ってくれてありがとう、レズリタ」
 
 そう言うといつの間にか私の体は、涙を流すレズリタに抱き着かれていたのだった。
 
 すると耳元で嗚咽を鳴らしながら伝えてくれる。
 
 「ありがと、ラゼル!」
 
 こうして私とレズリタの模擬戦が終わった。
 
 訓練所を出ると私達はリズ達がいる宿屋に向かう。
 
 宿屋に着き部屋の扉を開けると起きたリズとエリックに目が合う。
 
 「あ、ラゼルとレズリタどこに行ってたの!」
 
 リズが質問してくきたのに対し私の後ろからレズリタが口開いた。
 
 「ちょっと~、散歩に行ってた~」
 
 そんな返答をしているので私は意味を察した。
 
 きっとこの2人の事だ、ずっと寝ていたのだろうし伝えないでいいだろう。
 
 そんな事を考えていると、リズの顔がムムムッとなっていた。
 
 するとエリックが声をかけてきた。
 
 「まあいいじゃねえか! 散歩は体に良いって言うしよ!」
 
 それを聞いた私とレズリタは頷く。
 
 すると、リズが急に慌てた表情を浮かべ口を開いた。
 
 「あ、そういえば昨日の戦果をギルドに報告しないと!」
 
 するとすぐリズとエリックは準備を始め朝食を食べ始めるのだった。
 
 私とレズリタはやれやれと、2人を見て思ったのであった。
 
 そして2人は朝食を済ませた後、私達は宿屋を出てギルドに向かった。
 
 数時間後、私達はギルドに到着していた。
 
 中に入ると多くの冒険者の姿が見受けられたが、戦いの疲れを感じているのか皆深い眠りについている。
 
 そんな中、私達がギルドに入っても他の冒険者達は起きる素ぶりを見せず、ただただ寝息を立てていた。
 
 「皆疲れてるんだね」
 
 リズはそう言いながら辺りを見渡す。
 
 エリックも周囲の冒険者を見ながら口を開いた。
 
 「だなー、あのとき騎士団団長が来てなかったらどうなってたか」
 
 そんな会話をしていると受付までたどりつく事ができた。
 
 私は前に目をやり口を開く。
 
 「昨日仕留めたモンスターの報告ですが......」
 
 「オークとダークパンサーを仕留めたんですよね!」
 
 私は受付嬢の言葉を聞き目を丸くさせる。
 
 「なんで知っているんですか!」
 
 リズが驚きの声を上げると受付嬢は笑顔で答えてくれた。
 
 「実は昨日ギルドに騎士団長リスト様が来まして、昨日の報告をしてくださいました」
 
 「だから知っているんですね……」
 
 「はい」
 
 そんな会話を続けていく内に受付嬢は書類を作り終え、私達に渡しながら口を開く。
 
 「これが今回の戦果でございます、ご確認ください」
 
 私はそっと紙を開き内容を確認するとそこに乗っていた文字に目ん玉が飛び出そうになるのであった。
 
 パーティーランクAに昇格、そして報酬金。
 
 その文字を見たリズは口を開く。
 
 「すごいよ2人とも~! 私達凄いことになってるよ!」
 
 信じられないといった表情で紙を指さしているリズを見て私はすぐに口を開く。
 
 「すご」
 
 エリックとレズリタも同じく驚いていた。
 
 「まじかよ!」
 
 4人で驚いていると受付嬢がまた新しい紙を手渡してきた。
 
 「更に凄い依頼が来ていまして、貴族からの依頼の様です」
 
 「まじかよ!」
 エリックが叫ぶ。するとリズは紙を読み始める。
 
 するとリズが驚嘆の声をあげ、書類をこちらに向けてきた。
 
 「伯爵からの依頼だよ!」
 
 伯爵という言葉を聞き私は驚き声を上げる。
 
 「お、まじか!」
 
 「うそー!?」
 
 私達は一斉に声を上げて驚愕する。
 
 その声の大きさに周りで寝ていた冒険者達がゴソゴソと体を動かし始めたのを見て少し笑ってしまう私だった。
 
 しかし、私はふと疑問を口に出す。
 
 「なぜ貴族から依頼が来たのですか?」
 
 「それが、騎士団長リスタ様が薦めた様で……」
 
 あの剣士かと私が納得していると受付嬢が言葉を発した。
 
 「依頼を受けていただけますか?」
 
 それを聞いたリズはもちろんと言わんばかりに口を開く。
 
 「はい、もちろん!  だよね皆?」
 
 そう返答すると、私たちはもちろん頷くのだった。
 
 こうして私達は伯爵からの依頼を無事受注し、ギルドを出て屋敷へ向かう事になったのである。