一日中二人に振り回されつづけていた俺は、当然ながら疲労困憊だった。

 イツモフさんの見送りはミライに任せて、ソファの上で寝そべっている。

 なんだろう。

 イツモフさんみたいなふざけた人がメンタリストを名乗っているのだから、俺もメンタリストとして名乗っていいような気がしてきた。

 資格もないし、勉強も一切したことはないが、イツモフさんがこうして仕事にありつけているのだから、俺のところにも仕事が舞い込んでくるに決まっている。

 よし、そうと決まれば行動しよう。

 って……あれ?

 俺、今イツモフさんの口コミ通りのことを思ってるぞ?

 やっぱりイツモフさんは人を前向きにする優秀なメンタリストだったの――なわけないない。

 あんなフマジメンタリストに洗脳されるな。

「あー、今日はもうなんにもしたくねーな」

 心の声を素直に吐露しながら、大きく伸びをしたときだった。

 突然玄関でドタバタと物騒な物音がしたため、ソファから飛び起きる。

 物音はすぐに聞こえなくなり、十秒ほど無音が響いていた。

「なに、が……」

 震える足をなんとか動かしてリビングを出る。

 転げ落ちないよう手すりを頼りに一階へ下りると、そこには。

「イツモフ、さん?」

 床に横たわっているイツモフさんを見つけた。

 慌てて駆け寄ると、お腹のあたりに靴裏の跡がついており、口の端からは真っ赤な血液が垂れている。

 蹴られたのは確定だ。

「イツモフさん!」

 彼女のそばでしゃがんで肩を揺する。

「イツモフさん! なにがあったんですか! イツモフさん!」

「……ん、あ、誠道、くん」

 わずかに目を開けたイツモフさんは、虚な目で俺を見てから玄関の方を向いた。

「申しわけありません。ミライさんが、連れ去られてしまって」

「え……」

 連れ去られた?

 つまり、攫われた?

「誰に……」

 そんなことをするのが誰か心のどこかでわかっていたと思う。

 だけど、俺は違う答えを期待していた。

 違ったならば、そうじゃないのなら、俺でも助けにいけるかもしれないと。

「金髪の男と、他に三人いて」

 その瞬間、俺は廊下に尻もちをついた。

 体に力が入らない。

 腹の底から湧き上がる震えが、全身を支配していく。

「ミライさんはそいつらに連れられて、一瞬で消えて……」

 吐血するイツモフさん。

 ってか、一瞬で消えた?

 そういえば、鶏真喜一の固有ステータスがそんなだったような。

「誠道さん……。マジ、ゴメンタリスト」

 イツモフさんはこっくりと意識を失った。

 俺は、そんなイツモフさんをただ見ているだけ。

 震えている自分の体を見下ろして、「ああ、ああ」とかすれた声を出すだけ。

 ミライが、大度出たちに攫われた。

 その事実を知ってもなお――その事実を知ったからこそ、俺の体は恐怖に支配されて動かない。